第9話 魔王だとバラしてみた


「ソフィアに黙っていたことは謝るけど、俺も転生者なんだ。転生したのはエリスが言ったように魔王アレクだ。

 だけど誤解がないように先に言っておくけど、俺にはおまえたちを妨害する気も危害を加える気もない。

 アレクは魔王を辞めたから、メインキャラに殺される死亡フラグはなくなったからな」


「「え……」」


 ソフィアとエリスの驚きの声が重なるが、意図しているところは違った。


「私以外にも転生者がいるなんて……それもアレクが転生者だったなんて……」


「まあ、ソフィアがそう思ってるのは解ってたからさ。余計なことを言うつもりはなかったけど、エリスに遭遇したらバレるのは仕方ないと思っていたよ」


「アレク……それって、私のことを想って黙っていてくれたってこと?」


 何故かソフィアの顔が赤くなる……いや、俺は鈍感系ラノベ主人公じゃないからソフィアの気持ちには気づいている。


「まあ、一応な」


 だけど、ソフィアとの関係を進展させたいとは考えていないから軽く流す。

 ソフィアが気に入っているのはアレクで、俺自身じゃないからな。


「あのねえ……貴方たちの邪魔するようで悪いけど、もっと重要な話があったわよね。アレク、魔王を辞めたってどういうことよ?」


「いや、そのままの意味だよ。俺は魔族軍を放置して失踪したから、そのうち別の奴が新しい魔王になるんじゃないか」


 まだ親魔王派と反魔王派の対立は続いており、肩書としては今も魔王はアレクだ。

 だけど諸種族連合との戦争が始まれば、魔王不在という訳にもいかないだろう。


「それって本気で言ってるの? 呆れた……職場放棄も良いところじゃない」


 エリスの目が冷たい。言いたいことは解るけどな。


「戦争回避の工作とか色々やってみたけど無駄だったし、暗殺されそうになったからな。

 おまえはアレクを倒したかったのかも知れないけど、別の魔王で我慢しろよ」


「今、サラっと暗殺とか言ったわよね。そんなイベント知らないわよ」


「ああ、ゲームにはなかったからな。まあ、たいした話じゃないよ」


 俺が『始祖竜の遺跡』に潜り続けて、反魔王派を放置したことが原因だし。あまり詳しく説明するつもりはない。

 ふとソフィアを見ると、話に絡めない彼女はあからさまに面白くなさそうな顔をしていた。頬を膨らませるとか……子供かよ。


「どうした、ソフィア? おまえも何か話したいことがあるのか?」


「うん! 魔王だってことには驚いたけど。私はアレクが悪い人だなんて、全然思ってないからね!」


「そうか。ありがとうな」


「う、ううん……ど、どういたしまして……」


 水を向けたら直ぐに機嫌が良くなり、礼を言ったら照れるとか……

 いや、単純過ぎるとか悪口を言うつもりはない。俺の心が汚れているだけだ。


 ふとエリスを見ると、ソフィアの反応に彼女も目を丸くしている。

 呆れているかと思ったが、俺と同じように思っているってことか?


 俺の視線に気づいたのか、エリスはバツの悪そうな顔をする。


「私は……貴方のことをまだ信用した訳じゃないけど。とりあえず今直ぐ実力行使に出るつもりがないことは解ったわ。

 それで、貴方が自分が転生者だとバレるのを承知の上で、私やソフィアのような他の転生者に接触した目的は何?」


 ここは正直に話すべきだろう。変な疑いを持たれると今後に支障が出るからな。


「エボファンの知識のある転生者は、俺の脅威になる可能性があるからな。誰が転生者なのか確かめておきたかったんだよ。誰が転生者か解れば対策が打てるだろう。

 ソフィアに会ったのは偶然だけど、メインキャラのエリスとセリカには意図的に接触した。メインキャラが転生者だとエボファンの物語が大きく変わる可能性があるからな」


「それって、レイナとライラにも会ったってこと?」


「ああ。アレクの姿を見せただけで、話をした訳じゃないけどな」


 レイナとライラは残り2人のメインキャラだ。

 ゲームではエリスとセリカと4人でパーティーを組むことになる。


「話をしなかったってことは、2人は転生者じゃなかったってことよね」


「いや、転生者だと解るような反応をしなかったってだけで、可能性が消えた訳じゃない。エリスだって最初はアレクを見てもわざと反応しなかっただろう?」


「だったら……私が転生者だと気づいたのはいつよ?」


「ソフィアのことを知り合いだって、セリカたちに嘘をついた時点だな。

 ソフィアが転生者だって気づいてないなら、嘘を言う理由はないし。

 名前を言い当てられて転生者だって気づいたってことは、エリスも転生者だってことだろ。

 ああ、解ってると思うけど。ソフィアはカマを掛けたんじゃなくて天然だから」


 本当はエリスたちが野営をしているときに気づいたけど。監視していたことまで言うつもりはないから嘘をついた。

 今もそうだけど、話している内容が全然エリスらしくなかった。

 クルセアに着いてからの行動計画とか、NPCとして登場するエリスは感覚だけで行動するタイプだからな。


「ソフィアに悪意がないのは解ったわよ」


「う、うん、そうなの。私のせいで騒ぎになっちゃって、ごめんなさい」


 初めに噛んだのは、また俺とエリスが2人で話しているのを見て頬を膨らませていたからだ。

 俺がソフィアのフォローをしたので頬が緩んで、エリスの言葉に慌てて反応した。


「もう良いわよ……私が転生者だってバレたのは自業自得みたいね」


 俺の嘘を信じた台詞だな。エリスにはちょっと悪い気もするけど仕方ない。


「それで……私が転生者だと知った貴方は、どんな対策を立てるつもり?」


「今のところは特に何も。現時点でエリスやセリカのレベルがガンガン上がっていたら何か考えただけど……悪いけど『鑑定』の魔法を使わせて貰ったよ」


 今のエリスは12レベルと、ゲームの初期値と変わらなかった。


「今のエリスじゃ貴方の脅威にはなり得ない、そういうことね。でも、これから私のレベルが上がったら何か仕掛けて来るってこと?」


「いや、エボファンの物語に沿ってプレイヤーキャラのレベルが上がるのは織り込み済みだから。特に何もする気はないよ。 

 極端にレベルを上げる奴がいたら警戒するけど、俺はもう魔王じゃないからな。敵対しなければ、こちらから手を出すつもりはない」


 この言葉に嘘はない。俺が限界までレベルを上げたのは自己防衛のため……半分くらいはレベルアップするのが楽しかったからだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る