第3話 俺のやりたいこと
隠し
これで戦力という問題も解決した。俺1人でも大抵の敵には勝てるけど。手足となる戦力は必要だからな。
数としては魔族軍に遠く及ばないけど。『始祖竜の遺跡』のモンスターは1体で、魔族の兵士1,000人が相手でも軽く勝てる。
戦力だけの話じゃない。『始祖竜の遺跡』の支配者となった俺は、侵入者がいれば直ぐに察知できるようになった。
つまり『始祖竜の遺跡』で、他の奴がレベルを上げることを阻止できるということだな。
他人のレベリングを邪魔するなんて、心が狭いと思うだろうけど。1番現実的に俺の脅威になり得る存在は、『始祖竜の遺跡』でガンガンレベルを上げた奴だからな。
いきなり大量のモンスターを送り込むか、最下層のモンスターをぶつければ。初めて『始祖竜の遺跡』に挑むレベルなら、一溜りもないだろ。殺すかどうかは、相手次第だけど。
とりあえず、当面の問題は解決したけど。俺にはまだ懸念事項が残っている。
リアルエボファンの世界で『遺跡の支配者』の力が、モンスターを何処まで支配できるのかということだ。
こんな懸念を懐いている理由は。俺の目の前に
「おまえたちを散々殺した俺に、なんで忠誠を誓うんだよ?」
反応を探るために質問すると。『太古の神の騎士』の1人、赤い髪の見た目は魔族の男が応える。
「我らは陛下に全てを捧げておりますので、陛下に殺されることは本望です。
しかしながら、過去に陛下が殺されたのは我らではありません。
我らは殺される度に復活するのではなく、新たに生まれるのです」
つまりリポップするのは別人だから、俺に殺された恨みはないってことか。
「なるほどな……ところで、おまえの名前は?」
「申し遅れました。アギトと申します」
『太古の神の騎士』の残りの3人にも名乗らせる。
銀髪で見た目が獣人の男がロンギス。
藍色の髪で牙のある女がサターニャ。
金髪で見た目は人間の女がエリザベス。
名前たげは設定で知っていたけど。これで顔と名前が一致した。
だけど結局のところ。『遺跡の支配者』の力が、アギトたちを何処まで支配しているのかは不明のままだ。
自我のある彼らを強制的に支配したことで、恨みを買った可能性は否定できない。
自我のない道具なら、何とも思わないけど。アギトたちに忠誠を誓われるほど、俺は自分が人格者だなんて思っていないんだよ。
支配力の強さを確かめるだけなら、死ねと命令するのが手っ取り早い。
死んでもリポップするから、戦力的には問題ないけど。俺は自分の配下を、そこまでして試すつもりはない。だから時間を掛けて、彼らを見極めるしかないな。
それよりも今は、他に知りたいことがある。
「新たに生まれたってことは、俺に殺される前の記憶はないんだよな?」
「はい。我らには誕生してからの記憶しかありません」
完全に今さらだけど失敗したな。俺は経験値を稼ぐために、モンスターをリポップさせる度に全滅させた。彼らが自我に目覚めて会話ができるようになると解っていたら、何体かは殺さずに残しておいたのに。
俺が知りたいのは、過去に『始祖竜の遺跡』を攻略した奴がいるかということだ。そんな奴が存在すれば、俺にとって最大の脅威になりかねないからな。
俺みたいに全てのモンスターを殲滅したとしても。その後にリポップしたモンスターが、殲滅した奴を見ていた可能性はある。
だけど俺が何度も全滅させたから。過去の記憶があるモンスターは残っていないか。
いや、待てよ……一人だけいるな。
俺は第1階層の奥にある行き止まりに向かう。突き当りの壁を探すと、ゲームと同じ場所に隠し扉があった。
中に入ると部屋の中央に銀色の台座があり。その上に俺の記憶と同じ白い翼と天使の輪を持つ少女がいた。
この部屋から決して出ることができない彼女は……確か、天使の姿をした悪魔なんて変な設定だったよな。
「プルミラ、おまえがいたな」
「へ、陛下……わ、私のような者に何かご用ですか?」
プルミラは『始祖竜の遺跡』の隠しモンスターだ。
わずか200レベル台で攻撃に特殊効果は一切なしと。『始祖竜の遺跡』に出現するモンスターとしては異常ほど弱い。
その割に倒して得られる経験値が高いから。製作者が救済措置として、用意したと言われている。
だけどプルミラを発見できる頃には、第1階層のモンスターを普通に倒せるレベルになっているから意味がなかった。
だから俺もプルミラを無視したというか、完全に存在を忘れていた。
「単刀直入に訊くけど。プルミラ、おまえは俺以外の侵入者を見たことがあるか?」
「え? 陛下は侵入者じゃなくて、私たちの偉大なる支配者ですよ」
「いや、そういうのは良いから。俺の質問にだけ応えろよ」
プルミラって、こんなにポンコツだったのか?
「は、はい……侵入者でしたら、見たことがあります。確か……」
当たりだな。プルミラの話は要領が悪くて、イマイチ良く解らなかったけど。何度か質問を繰り返すことで、大よそのことを理解することができた。
侵入者について、余り詳しいことは解らなかったけど。おそらく転生者だな。
考えられる最悪の可能性は。過去に転生した奴が俺と同じように『太古の神の騎士団』を狩り捲った上で。『遺跡の支配者』を発動しなかった場合だ。
『遺跡の支配者』を発動できるのに、発動しない理由がないから。その可能性は低いけど。
ゲームのときは俺も趣味じゃないから、『遺跡の支配者』を発動しなかった。
だけどリアルエボファンの世界で、他の奴が自分に匹敵する力を手に入れる手段と。世界を支配できるほどの戦力を放置するなんて、あり得ないだろう。
他にも俺には想像できないような理由があるとか。何も考えていない馬鹿という可能性もゼロじゃない。
だけど普通に考えて可能性が高いのは。そいつらは『始祖竜の遺跡』を攻略中に死んだか。途中で攻略を諦めて立ち去ったかだ。
この世界はゲームのエボファンと同じで、蘇生魔法なんて存在しない。
しかもゲームと違ってリアルだから当たり前だけど、セーブもリセットもできないからな。
俺はエボファン廃人だから『始祖竜の遺跡』で延々と戦い続けたけど。普通の奴はそこまでやらないだろう。
とりあえず他にも転生者がいて。しかも俺より先に、転生した奴らがいることは解った。
最悪の可能性を無視するつもりはないけど。今打てる手といえば……
俺は最下層に戻ると。アギトたち4人に各階層ボスを集めさせた。
集まったモンスターたちの顔を眺める。俺の視線に反応するし、自我があるのは間違いない。人型じゃないモンスターの瞳も、知性の光を宿している。
「まずは自己紹介だ。俺はアレク・クロネンワース。『始祖竜の遺跡』の支配者だ。
各階層ボスは階層指揮官と名称を改め、各自の階層の指揮権を与える。
全階層統括はアギト。副統括はロンギス、サターニャ、エリザベスの3人が同格だ。
最下層の者たちは4部隊に分けて、統括と3人の副統括の直轄にする」
アギトを統括にしたのは、単純に1人だけレベルが高いからだ。
副統括の3人も、他のモンスターからレベルが抜き出ている。
階層ボスは第1階層から第9階層の9人。
『始祖竜の遺跡』のモンスターは下の階層ほど明らかに強く。第1階層のボスは第2階層のフロアモンスターと同等のレベルだ。
だけど一応階層ボスだから、とりあえず統率力に期待する。
あくまでも暫定的措置で。適性がなければ、他の奴と入れ替えれば良いからな。
「俺は『始祖竜の遺跡』のモンスター……いや、これからは戦士と呼ぶことにするか。
俺は戦士であるおまえたちを、個ではなく部隊として機能させるつもりだ。
そのために、まずは配下の戦士たちに集団戦闘を憶えさせてくれ。
だけど、彼らを四六時中縛りつける必要はない。有事の際に対応できるように訓練してくれということだ」
枠組みだけを決めたら、あとは直接指示しないで自主性に任せる。
その方が性格や考え方、指揮官としての能力を見極めることができるからな。
『始祖竜の遺跡』のモンスター……いや、戦士たちのことをある程度把握したら。俺は次の行動に移るつもりだ。
黒幕や他の転生者という脅威には備えるけど。俺は戦士たち使って攻めに転じるつもりはない。
部隊化するのは、あくまでも自己防衛の手段で。他にも適性があるなら、役に立って貰おうと思っている。
安全を優先するなら、『始祖竜の遺跡』に引き籠もっているのが1番だけど。俺にそのつもりはない。
限界までレベルを上げたから、大抵の奴に勝てるだろう。それでも危機に陥ったら、
せっかくリアルエボファンの世界に転生したのに。この2年間は、モンスターを倒し続ける生活をして来たから……いや、それはそれで楽しかったけど。
魔王を辞めて、死亡フラグも消えたから。これから俺はリアルエボファンの世界を、もっと楽しもうと思う。
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