第2話 限界まで強くなる


 最初は弱点属性の攻撃でHPを削るように倒したモンスターも、レベルが上がれば普通に倒せるようになった。

 複数相手でも余裕で倒せるようになると、次のターゲットは階層ボスだ。


 階層ボスは今まで戦ったモンスターがザコに思えるほどさらに凶悪だ。

 だけど能力ステータス行動パターンアルゴリズムも知り尽くしているから、俺に負ける要素なんてないんだよ。


 第1階層を攻略すると、次は第2階層で同じことを繰り返す。

 モンスターはさらに強くなるけど、俺だってレベルが上がっている。


 俺はアレクだから食事を取る必要も眠る必要もない。

 だから、ただひたすらに戦い続けた。


 第3階層、第4階層、第5階層……俺はモンスターを経験値に替えながら突き進んだ。

 そして、どれくらい時間が経ったんだろう……最終階層の1番奥の部屋で、俺は『始祖竜の遺跡』のラスボスである『太古のエンシェント神の騎士団ゴッズナイツ』を倒した。


 4体の光の鎧を纏う神の使徒たちが、エフェクトと共に消える。

 ステータス画面には、12桁の経験値と2,582レベルという文字が表示されてる。


 エボファン最強の敵である『太古の神の騎士団』すら倒したんだから。アレクは十分強くなったと言えるのか?


 いや、黒幕や他の転生者がいる可能性を考えれば。もっと強くなる必要がある……というのは言い訳だな。

 正直に言えば、俺はアレクの強さに酔いしれていた。


 僅か・・2,500レベル台、しかもソロで『太古神の騎士団』を倒せるなんて……


 本編のラスボスのくせに『プレイヤーが選ぶエボファン最強モンスターランキング』にランクインすらしなかったアレクが。レベルが上がると、ここまで強くなるんだな。


 プレイヤーキャラが『太古神の騎士団』を倒すには、2,500レベル台なら6人パーティでギリギリだろう。

 アレクは最初からステータスが高かったし、上がり方もハンパじゃなかった。


 だけど、これで終わりじゃない……アレクはまだまだ強くなれる。


 俺は『太古の神の騎士団』を繰り返しリポップさせて、再び時間を忘れて狩り続けた。

 次第に余裕で勝てるようになり、やがて瞬殺できるようになって……

 何十回、何百回と倒してもレベルが上がらなくなった。


「さすがに……限界だな」


 途中から完全に作業になったけど、レベルを上げるのは楽しかった。

 だけど、それも終わりだ。

 全然レベルが上がらないなら、本当に唯の作業で時間の無駄だからな。


 俺はレベルが上がる度にステータスを確認していたけど。最近は全然レベルが上がらないから、暫く見てなかった。

 久々にステータス画面を開くと、帝国歴1985年3月5日23時55分の文字。


 最後にレベルアップしてから2日。最初に『始祖竜の遺跡』を訪れた日から数えれば、2年以上が経過していた。


 エボファンの物語メインストーリーは、帝国歴1985年5月1日から始まる。

 ゲームではさらに2年後に、諸種族連合軍が魔都グレイダラスに侵攻。魔王アレクはプレイヤーキャラたちに殺されることになる。


 アレクの死亡フラグを消す一番良い方法は、諸種族連合と魔族の戦争を起こさないことだ。

 だけど、それは不可能だった・・・


 俺だって何もせずに、只管ひたすらダンジョンに潜っていた訳じゃない。

 定期的に転移魔法テレポートで魔都に戻って。世界情勢を確認して、戦争回避のための工作をしていた。


 だけど魔族と他種族との遺恨は根深い。争いの火種を1つ消しても、別の火種が直ぐに生まれる。

 魔族も1枚岩じゃない。魔王にもコンロールできない魔族の貴族が、勝手に火種を蒔く。


 後から火を消すのも限界があって、そして1年くらい前に――

 俺の影武者であるドッペルゲンガーが殺されたんだよ。


 殺したのは、魔族軍の幹部の1人であるガウス・ストレイマン将軍。

 聞いたことのない名前で、そんな敵キャラいたかと思ったけど。エボファンのファンブックに書いてあった裏設定資を思い出して、想像がついた。


 魔族軍にも反魔王派がいる。アレクは他種族と戦争を始める前に、大々的に粛正を行ったという背景設定がある。


 たぶんストレイマンは、粛清された反魔王派の1人だ。物語メインストーリーが始まる前に死んでいるから、ゲームには登場しなかったんだろう。


 俺が反魔王派を放置したから、ストレイマンは生き残って。アレクを暗殺して、クーデターを起こそうとした。


 だけど暗殺したら影武者ドッペルゲンガーだったから、クーデターは失敗。

 俺が影武者を立てたことで、暗殺計画そのものがバレていたと考えた反魔王派は、ストレイマンに全ての責任を押し付けて、切り捨てた。


 だからストレイマンと奴の部下は、反逆者として処刑されたが。他の反魔王派は今も健在だ。

 結局魔王アレクは今も行方知れず・・・・・・・で。親魔王派は反魔王派と対立しながら、秘密裏に魔王の行方を探してる。


 ――という感じで。秘密裏とか言いながら、完全に情報が漏れているけどな。


 ドッペルゲンガーと俺はリンクしていたから、殺されたのは直ぐに解った。

 だけど俺は反魔王派を粛正するつもりはないし。良い機会だから、姿をくらませることにした。

 戦争が止められないと解った時点で、魔王を続ける理由がなくなったからな。


 アレクの死亡フラグを消すだけ・・なら、魔王を辞めるのが一番簡単な方法だ。

 俺の代わりに魔王になった奴が、2年後にプレイヤーキャラに殺されることになる。


 だけどこの世界は、ゲームじゃなくてリアルだから。戦争回避という最良の方法を模索したけど、無理だった。


 強引に戦争を止めようと思えば、不可能じゃない。だけどそのためには親魔王派を含めて、魔族を大量虐殺する必要がある。

 親魔王派こそ、アレクと共に他種族連合軍との戦争を進める幹部だからな。


 リアルエボファンの世界に転生してから。俺は理由があるなら、人を殺しても構わないと思うようになった。

 結局のところ。物事を力で解決するのが、エボファンの世界だからな。奇麗事を言っていたら、寝首を掻かれて後悔することになる。


 だけど戦争を止めるために、大量虐殺するなんて本末転倒だろう。俺は魔族だから殺して良いとは思わない。種族が違うだけで魔族も人だからな。


 だから俺は魔王を辞めたけど。黒幕や他の転生者の動向を探るためには、魔王という立場は役に立った。魔族軍という戦力を失ったことも惜しい気はする。

 だけど、すでに別の手段を用意しているんだよ。


 ストレイマンが犯人だったことや、魔族軍の現状を知っているのも、その手段を使ったからだ。

 俺はエボファンの世界を知り尽くしてるから、誰が情報源なのか解ってるし。モンスターを狩り捲って金が余ってるから、情報収集に幾らでも金を掛けられる。


 そして戦力の方も、勿論用意してある。

 俺は『始祖竜の遺跡』の隠し機能ギミック遺跡の支配者ルーラーオブルーイン』を発動した。


 『遺跡の支配者』は『太古の神の騎士団』を999回倒すことで、初めて使えるようになる。所謂、エボファン廃人専用機能だ。

 ゲームのときは趣味じゃないから、使わなかったけど。今回はこれも、俺が『始祖竜の遺跡』に来た目的の1つだ。


 最下層の1番奥の部屋で『太古の神の騎士団』をリホップさせる。

 彼ら・・はいつものように襲い掛かる代わりに。兜を外して、俺の前にひざまずいた。


「「「「偉大なる支配者アレク・クロネンワース陛下に栄光あれ!」」」」


 『太古の神の騎士団』が俺の名前を知っているのは、『遺跡の支配者』を発動したときにコントロール画面で入力したからだ。

 アギト、ロンギス、サターニャ、エリザベス。男女2人ずつの『太古の神の騎士』は、それぞれ種族は違うけど美男美女揃いだ。

 設定として名前だけは知ってたけど。こんなキャラデザまであったんだな。


 『太古の神の騎士団』に続いて、モンスターたちが続々と集まって来て。恭順の意を示すように、深々と首を垂れる。

 『遺跡の支配者』を発動したことで。俺は『始祖竜の遺跡』の全てのモンスターの支配者になった。

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