第1章 聖王国編
第4話 もう一人の転生者 ※ソフィア視点※
私、
ゲームのエボファンは、100人以上いるプレイヤーキャラの中から、1人を選んでプレイするスタイル。
選ばなかったキャラも、NPCとして登場して。キャラたちが複雑に絡み合って、物語が展開するんだよね。
私もエボファンは結構遊んだから。愛着のあるこの世界に、転生できたことは素直に嬉しいよ。
でも、できればメインキャラのレイナやエリスに転生したかったけど。そこまで贅沢を言っても仕方がないよね。私はソフィアも可愛いから好きだし。
ソフィア・グレネードは聖王国クロムハートの冒険者。金色の長い髪と
さすがに自分で美少女というのは、抵抗があるけど。ソフィアのキャラデザは勝気な美少女って感じだから、仕方がないよね?
私が前世の記憶に覚醒した時点で、ソフィアはすでに冒険者だった。
細かい設定まで覚えていないけど。ソフィアは貴族出身とか、美味しい設定はないみたい。
初めからスキルと魔法が使えたから。冒険者として生きることは難しくなかったよ。
だけど、この世界はゲームじゃなくて現実だから。死んだらリセットできないって、自分に言い聞かせながら慎重に行動した。
そして覚醒してから2年――17歳の
冒険者ランクは一番下がFで、一番上がSの7段階。ゲームのソフィアの冒険者ランクは知らないけど。B級なら頑張ったって言えるよね?
ここまでは順風満帆という感じだね。スマホもネットもない世界だけど。それさえ我慢すれば、ご飯もお菓子も美味しいし。可愛い服だって結構あるんだよ。
アイスやチョコは高級品。
それと私なりに色々調べたり、記憶を思い出して。まだゲームのエボファンが始まる前だって気づいたの。
今日は帝国歴1985年3月18日……エボファンが始まるのって、いつだっけ? そこまで覚えていないよ。
とりあえず、ゲームの最初のイベントは憶えているから。私は聖王国クロムハートの東部の都市クルセアに向かうことにした。
パーティーのみんなには『クルセア名物のお菓子が食べたい!』って言ったら。ジト目で見られたけど、結局みんな一緒に来てくれたよ。
だけど、そのイベントにソフィアは登場しないんだよね。ゲームのときはレイナでプレイしたから、ソフィアのイベントを知らなくても仕方ないよね?
もしクルセアのイベントに参加できなかったら。まあ、そのときはそのときだよ。
クルセアまでは2週間掛かった。移動に時間が掛かるのだけは、ちょっと問題だよね。
馬車に長く乗っていると、お尻が痛くなるし。この世界にも車や電車があれば良いのに。
クルセアに着いたら、冒険者ギルドに登録して。街の近くのダンジョンに向かった。
ここなら近いから日帰りできるし。いつイベントが起きても問題ないよね。
毎日ダンジョンから帰ると。みんなと一緒に夕ご飯を食べて。宿屋のお風呂に入ってから眠る。
ダンジョンの冒険は楽しいから全然退屈しない。明日はおやつにチョコを買って行こうかな……なんて一昨日までの私は考えていたけれど。
冒険者ギルドで
長い黒髪で金色の瞳がミステリアス。ちょっと大人っぽい感じ……いやいや、そうじゃなくて!
二本の角も翼も生えていないけど。あの顔は……エボファンのラスボス、魔王アレクだよね?
だけどパーティーのみんなも他の冒険者も全然反応なくて。驚いているのは私だけだよ。
え……誰も魔王だって気づいていないの? それとも本当に別人?
ギルドの職員の人に、それとなく訊いてみたら。彼はD級冒険者のアレクだって教えてくれた。
名前まで同じって、絶対本人じゃない。
だけど私が唖然としても。職員の人は何を驚いているのかって感じだった。
「だって……アレクって魔王の名前だよね? 目も金色だし」
「そうですけど、良くある名前ですし。金色の瞳は確かに珍しいですけど。魔王がこんなところにいる筈がないでしょう?」
言われてみればそうなんだけど。顔まで魔王そっくりなんだから、本人だよね?
あ……私はゲームでアレクの顔を知っているけど。この世界の人は、魔王の顔なんて見たことないか。
「なあ、ソフィア……おまえの行動、かなり怪しいぜ」
パーティーの仲間のグランに、声を掛けられて。カウンターに隠れながらアレクを覗き見している自分の怪しさに気づく!
「アハハ……もうグラン、何言ってるの? ちょっと疲れたから、カウンターに寄り掛かっていただけじゃない。もう大丈夫だから、さっさと行くよ!」
「おまえなあ……」
グランのジト目を無視して、その場から慌てて逃げ出した。
そのときも、アレクは何の反応もしなかったし。昨日も冒険者ギルドでお酒を飲んだり。他の冒険者と話をしているのを見掛けただけ。
これといって怪しい行動はしていないみたいだけど――
そもそも彼が本物の魔王アレクなら。魔王がいきなり登場するなんて、どういうイベントよ? こんなイベントがあるなんて、全然聞いてないから!
「なあ、ソフィア。3日もサボって身体が鈍ったから、さすがに明日はダンジョンに行こうぜ」
今夜もパーティーのみんなで夕ご飯を食べている。戦士のグランと神官のメアに、魔術士のカイと盗賊のシーラ。そして
一昨日から急に服を買いに行きたくなったとか。限定のお菓子を買いたいとか。色々理由をつけて、私はダンジョンに行くのをサボっている。
私の我がままに、みんなを付き合わせるのは申し訳ないけど。冒険者のアレクが魔王かも知れないから、見張っているとか言っても。信じて貰えないよね。
「みんな、悪いけど……明日ダンジョンに行くなら、私抜きで行って来てよ。ちょっと体調が良くなくて……私は明日もお休みにするね」
勿論嘘だけど。アレクの正体が解るまで、クルセアの街を離れたくない。
「ふーん……体調がねえ?」
疑わしそうな顔をしたのは、今度もグランだ。
「何なの……身体のことなんだから、仕方ないでしょ」
「いや、その割にいつも通りに食ってるし。明日もサボる理由は別にあるんじゃないかってね……おまえさ、あいつのことばかり見てるよな」
グランの視線の先にいるのはアレクだ。
「な……何を言ってるの。そんなことないよ!」
アレクをずっと見ていたのは本当だけど。笑って誤魔化す。
「なあ、ソフィア。俺たちに隠すことないだろう。おまえも女なんだし、好きな男ができても不思議じゃないよな」
「え……グラン、な、何言ってるの? 勘違いしないでよ!」
慌てて言い返したら、思わず声が大きくなる。
もう! 見張っていることをアレクに知られたら、どうするのよ!
「あの……俺に何か用があるんですか?」
いきなり声を掛けられて、ドキッとする。いつの間にか、アレクが隣に立っていた。
長い髪に金色の瞳……ちょっと、顔が近いよ!
「よ、用なんてないよ!」
誤魔化そうとしたら、アレクに苦笑された。
「何言ってんだよ? バレバレだって……一昨日から俺のことを見ていただろう。何か言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ」
覗き込むように、金色の瞳がさらに近くなる。
顔が熱くて、ドキドキして逃げ出したかった。
「だよなあ……ソフィア、俺もそう思うぜ。良いタイミングだから、こいつと二人で話をしろよ」
グランがニヤニヤ笑って席を立つと。他のみんなも生暖かい目で離れていく。
「ちょ、ちょっと待ってよ。みんな!」
「ソフィア、ごゆっくりー!」
シーラまでニヤニヤしてるし。絶対、勘違いしてるよ。
アレクはじっと見てるし……もう、どうすれば良いの?
「そういうことか……何となく想像がついたよ。おまえも仲間に勘違いされて、苦労してるみたいだな。俺も
アレクの目が優しくなる……なんか、凄く嬉しい。
「そ、そうだよね……勘違いしないでって言いたいよね。私はソフィア・グレネード、B級冒険者だよ。あの……ア、アレクも座ったら?」
恥ずかしくて。まともに顔が見れなくて、視線を逸らす。
アレクは私の正面に座った。
「まあ、同じ冒険者だし。俺の名前くらい知ってるよな。ところで、ソフィアは何で俺のことをずっと見ていたんだよ?」
やだ……完全バレてる!
「えっと……その……」
どうしよう……何て言えば良いの?
「わ、私はアレクが……魔王に似ているし、名前も同じだから……」
私はアレクを魔王じゃないかって疑っていた……んだよね?
なんか色々混乱して来て……思わず言ってしまった。
「ア、アレクって……か、彼女とかいるの?」
何言ってんの、私? 恥ずかし過ぎて気絶しそう。
「……え?」
だけど唖然としているアレクの顔を見たら、もっと恥ずかしくなったよ。
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