大学生のつぶやき
ピトフーイ
成人式には行かない
成人式には行かなかった。中学生のとき、いじめられていたから。
正確にはいじめではなかったのかもしれない。女子特有の、なんとなく順繰りにグループのメンバーを仲間外れにしていくような、微妙なあれだったのかもしれない。ほかの子たちが口をそろえて「遊んでただけ。私たちは仲良しだから。いじめじゃない」といえば、それで済んでしまうような。私が気にしすぎていただけだったのかもしれないな、私は当時、とてもつらかったけどね。ああ、どんなに思考を巡らせたって、今わたしは大学生、過去は変わらない。いっちょまえにバイトして、友達とお酒を飲んで、はたから見たら「大学生」しているんだろうし、わたしもそう見られていることに心地よさを感じている。周りに溶け込めていることは、母親のおなかのなかにいるような安心感を覚える。だいじょうぶ。自分はちゃんとうまくやれている。浮いていない。周りから変に思われていない。
けれど、そうやって周りに左右されながら保つ心は、もろくて、すぐにゆらいでしまう。わたしはいつの日か、人の目をものすごく気にして生きる人間になってしまった。自分がどうかより、他人がどう思っているかを気にする人生は、しんどい。こうなってしまった原因だって、本当は「中学生のときのいじめが原因なんです」って言いたいけど、「過去は変えられない。過去のせいにするな」とか言われたら、わたしはなにも言い返せないし、またこころが揺らいでしまう。だからわたしは、「わたしは気にしすぎてしまう人間だけど、それは全部わたしの責任です。」って、言うようにしている。だけどそうやってまわりに言うことで、「優しい人だね」って思ってもらえるかな、っていう気持ちが少なからずあるのだから、ああなんてわたしは性格の悪い人間なんだろう。
スマホは高校受験が終わった日に買ってもらった。中学校の友達のラインは一切登録されていない。インスタも同様、高校からの友達だけ。高校までの思い出に蓋をして、前を見て歩くのが、自分にとって一番いい。過去は振り返ったところで変えられないのだ。
と、頭ではわかっていながら、それができないのがわたしだ。「わたしが悪い」、のだけれど。インスタを入れてから何度、中学時代のクラスメイトのインスタを見に行ったかわからない。フォローはしない。わたしはしっかり前を向いて歩いています、楽しく大学生活過ごしています、だからあなたをわざわざフォローなんかしなくて大丈夫なんです、って無言で伝えるために。そう思っている時点で、ぜんぜん、前なんて向いてないのは、自分が一番よく知ってる。
同じクラスで、同じグループだった、今井由愛。その子のインスタには鍵がかけられてなくて、わたしはよく見に行く。そして見に行くたびに病む。由愛はわたしをいじめていた主犯格だった。とにかく髪の毛がさらさらつやつやしていて、誰にでも愛想がよく、男子からも女子からも好かれる、クラスの中心人物。でも、わたしのクラスには、小滝聡子っていうおとなしい子がいて、その子のことを由愛はストレス発散に使っていた。クラスメイトがいる前では「聡子ちゃん、おはよ!」と明るく話しかけるけど、誰も見ていない隙に、にらみつけたり足を踏んだりしていた。どうしてわたしはこれに気づけたかというと、そのとき私もわたしも聡子ちゃんと同じ扱いを受けていたから。誰かクラスメイトがいれば、優しく接してもらえるが、そうでないところでは冷たくあしらわれる。今考えれば、そんなくだらない人間関係からさっさと離脱して勉強でもしておけばよかった、などと思わなくもないが、その当時はそれがすべてだった。由愛のことを嫌いになれなかった。ああ、今日は優しく話しかけてくれた、私たちは友達、きっと大丈夫。いつかもっと仲良くなれる、嫌われてない。由愛のことも夢のグループのことも大好き。そんなことを考えながら中学時代を過ごしていた。
あっという間に受験シーズンがやってきて、勉強漬けの毎日を経て、それぞれの進路が決まった。中学時代はわりと勉強ができたわたしは、県で3番目の公立高校に進学した。由愛や由愛と同じグループの子たちは、みんなそれより2ランクほど下の私立高校へ。由愛のこともグループのことも大好きだったはずのわたしは、なぜかみんなと別の高校だと知って、心底ほっとしてしまった。これでやっと由愛たちから離れられる。もう、毎日毎日悩まなくていい。これがわたしの本音だったのだ、と改めて気づいて、わたしの毎日の思考はなんだったんだろうとむなしくなった。「卒業してもずっと友達だよ、絶対遊ぼうね!」と、卒業式の日に由愛から言われたが、それきり会っていない。わたしと同じく、由愛のストレス発散場所にされていた聡子ちゃんは、県トップの公立高校に合格していた。
大学生のつぶやき ピトフーイ @pitohui2087
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