第241話



ネーアの街の商業ギルド


魔力回復が公表されて数週間、ネーアの街の商業ギルドは今日も両替を求める商人や円を転売する人達自販機で物を購入しようとする人達、買取を行おうとする人達でにぎわいを見せていた。


最初は混沌としていた自販機回りも1月も経てばある程度暗黙のルールが定まり周知される。

更に桜が雇った冒険者による護衛も警備にあり、賑わいを見せつつも混乱を引き起こすほどではなかった。


そんな中で受付カウンターに見るからに身なりの良さそうな人が現れた。

商業ギルドには身なりに気を付けた商人や大店の主人、商会長等平民の中では身分の高い者もやってくる。

この受付に現れた人物は商人らしからぬ意味で身なりが良かった。


「大変お待たせいたしました。 ご用件を承ります」


最初受付を担当した女性は、その男性と対面するといつも通り人当たりの良い営業スマイルを浮かべ接客を始めた。


「こちらに自販機を設置したという渡り人が居ると聞いてきたのですが……」


男性は見た目20代半ばくらいだろうか。

薄茶色の髪の毛を撫でつけ、人当たりの良い笑顔を浮かべそう要件を述べた。


「渡り人ですか? ……失礼ですがお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」


受付の女性は内心「またか」と思った。

というのも自販機が設置されて以降設置した渡り人に合わせろという人が大勢来ていたからだ。

一日に受付する人の3割はそれだ。

時には「お前では話にならん上を出せ」 と言われたり、威嚇をすれば言う事を聞くと思われているのか罵声を浴びせてくる者もいる。

そういう人達は上からの指示で、護衛の冒険者たちがすぐさま駆けつけ、ギャーギャー喚こうがつまみ出されるのが日課だ。

それでも文句を言うやつは上から直々に鉄槌が下されるらしい。

私はそこまで見たことないけれど。



多少面倒だなと思うのだがしょうがないのだ。

なにせ、設置した渡り人から、心づけとして商業ギルドの職員全員がそれぞれ自販機の商品を月に3個選んで貰っている。

ちなみに私はお酒を貰っている。 なんていったって甘くて美味しいんだもの。

そしてさらにたまにこちらの世界では味わえない果実酒の試飲が出来るのだ、役得役得。


だから、またかと思いつつも、ご利益の代価だと思えばしょうがないという気になってくる。


対応マニュアル通りに名前を聞く。

それによって対処も変わってくるからだ。


「ラルフ=ブラウンと申します。 上の人にこちらをお見せ下さい」


そう言って何かの印章を見せられた。

見せられた印章はどこかの商会紋のようだ。

この街ではあまり使われてい無さそうだ、少なくとも私は見覚えが無い。


他の街から来た商会紋を使用できる身分の人物だ。

私の手に余りそうだと考えた。


「……少々お待ちくださいませ」


そう言って早々に上司に担当を変わってもらうことにした。




「失礼致します」


執務室のドアがノックされ許可を出せば慌てた様子の副ギルド長のマイケルがやって来た。


「ヘルバー商会の方がお見えです。 いかがいたしましょう」


「ヘルバー商会ですか?! ミラーリア侯爵家の使いの者が来たんですね……」


そう私が呟けばマイケルは重々しく頷く。


「ヘルバー商会?」


聞きなじみのない商会の名前に春子がそう尋ねる。


「えぇ。 ミラーリア侯爵領に籍を置く商会です。 あちらの領ではミラーリア侯爵が直接運営に関与する商会です。 私の手に余りますね……とはいえ来てしまったものはしょうがない。 応接室に案内してください」


取りあえず一旦要件を聞きつつ、後で領主に相談ですねと頭の中で段取りを付けながら応接室へと赴いた。

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