第242話




応接室へ入るとヘルバー商会の者と思われる若者がソファーの前で立っていた。



……若いな。

商人になって数年の若者と言った所か。


表情はちゃんと作られているがまだまだ青臭さが見え隠れする。

ヘルバー商会と言われたから私が対応するが、そうでなかったら副ギルド長でも過分だろうなという印象だ。


「お待たせいたしました」


「こちらこそお目にかかり光栄です。 私はヘルバー商会のラルフ=ブラウンと申します」


「商業ギルドのマスターのオーフェン=サウストです。 おかけ下さい」


握手を交わしてソファーを勧める。

副ギルド長が手配していた事務員がお茶を持ってきて目の前へ置く。


退室すると一息ついて話を聞くことにした。



「ご用件は何でしょうか?」


「はい、最近こちらの商品がヘルバー商会でも噂になっておりまして私が確認に来た次第でして……」

「こちらの商品? あぁ、渡り人が置いた自販機ですか?」


「そうです。 こちらの商品を私どもの商会でも取り扱いさせていただけないかと思いまして、設置した渡り人を紹介して頂きたいのです」


「まず認識に齟齬が発生しておりますのでそちらを訂正させていただきます。 こちらでは渡り人の紹介は行っておりません。 商品に関してもこちらは場所を提供しているだけですので融通するなどの権限はありません」


にこりと笑い釘を刺しておく。

あくまでもここは自販機を置く場所を提供しているに過ぎない。


「そうなんですか、では本人と直接契約を行いたいので居場所を教えて頂けますか?」


「申し訳ございません。 私共もこちらにお越しいただいて設置以降居場所は分かりかねます」


「そうですか……困りましたね。 私どもとしてもどうしても商品を取り扱いしたいのですが……」


目の前で苦笑しながら考え込む様子を見せる。

本当に困っているのかブラフなのかは計りかねるが。


私から言質でも引き出したいのだろうか。

黙ってこのラルフという青年が何を言うのか成り行きを見守る。




というかこれはヘルバー商会だけの意志なのか後ろのミラーリア侯爵家が絡んでいるのか分からない。

アルフォート様からの情報では、桜が魔力を回復しているという情報が貴族に流れたと聞いた。

桜の居場所がつかめないからこちらに来たのか?


それとも本当に自販機が欲しいだけなのだろうか。

そもそも自販機の主と桜が結びついているのか?



「自販機を……買う事は出来ますか?」


「自販機をですか?」


「お金はお支払いいたします。 設置場所をここからミラーリア領へ移動するだけです、いかがでしょう」


「私は場所をお貸ししているだけですのでお答えいたしかねます」


「居場所を教えなくても良いです。 設置者に場所の貸し出しを行えなくなったと言えばいいだけでしょう」


先ほどまでの雰囲気を変えてこちらを威圧しようとしてきた。


「……差し出がましいようですがそれほどまでに欲しがる理由をお聞かせ願えますか?」


「……お客様が欲しいと思われる商品を仕入れるのが我々の仕事ですので」


何やら後ろがちらつきだしたな。


これはアルフォート様の名前を出すべきか? 相手がミラーリア侯爵の名を出してきた場合二人の間で確執が生まれそうだな。

少し相手を見誤っていたようだ。

ここで答えを出すべきではないか、一度持ち帰ってアルフォート様に相談しなければならないようだ。


「でしたらばまた後日こちらにお越し下さい」


「良い返事を期待しています」


相手からの威圧が消えると最初と同じように青臭い笑顔を顔に張り付けてぺこりとお辞儀をし帰っていった。


これはミラーリア侯爵家が欲しがっている線が濃厚だな。

貴族同士の争いは私の手に余るな。

そう思い、はぁっとため息を吐いた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る