第106話 相良さんの魔法


「いや、おー!! じゃないから。 桜さん相良と連絡取れるの?」


突き上げた腕を春子さんに掴まれ小声で話しかけられた。


「連絡取れますよ。 このイヤーカーフが通信出来る魔道具です」


そう言うと春子さんは私の耳についている魔道具に目を向けた。


「相良の状況聞いてもらえる? どうなってるの? 応援必要か聞いてもらえる?」


「ちょっと聞いてみますね」


この魔道具はちょっと不便だ。


携帯電話みたいに着信音などは無い。


魔石に触れて話しかけると相手に聞こえる。


通話可能距離が長いトランシーバーみたいな感じだ。


「相良さんそっち大丈夫ですか? 春子さんが応援いるか聞いてますよ」


話しかけたら耳元と遠くから


ギュァアアアアア!!!! 


と言う断末魔みたいな声が痛いくらいの大音量で聞こえた。


み……耳が!!!!


耳を押さえてしゃがみ込んだ。


「……桜さん、なんかごめんね」


断末魔と耳を押さえてしゃがみ込んだ私を見て察したらしい春子さんに謝られた。


「治癒……いる?」


よく分からないけどと灯里そんな声をかけてくれた。


「だ……大丈夫」


「ん? 雨か……?」


辺りが明るくなって来ていたが薄暗くなって来た。


ガドラスさんの声を聞き空を見上げる。


あんなに晴れ渡っていた空に、今は灰色の雲が広がっている。


……なんか暗くなって来きた?


「桜さん、地竜は退治しましたよ。 応援も不要です」


あ……無事倒せたんだ。


「なんか森の上の雲おかしくない?」


灯里が空を見上げたままそう呟く。


雲はその厚みを徐々に増し、太陽の光を遮る。


森から遠くなればなるほど晴れ、逆に森の上になると厚みが増している。


「春子さん、相良さんの方は無事だそうです。 地竜も倒せたそうです」


「そう」


薄気味悪い雲を見つつ春子さんにそう告げた。 ホッとしたようだ。


流石に地竜は想定外だったみたいだ。


「あの……相良さん? この曇ってもしかして相良さん関係してますか……?」


気のせいかもしれない。


一際色濃くなっている雲がある場所が先ほどできた道の先なのだ。


「降って来やがった!!」


ガドラスさんが言う。 その声に呼応するようにポツリと雨が頬を伝う。


ザーッと雨が降る。


「冷たっ!!」


アイテムボックスから傘を出そうと思ったら雨はすぐに止んだ。


短時間にも関わらず髪や服がぐっしょり濡れた。


「桜さん行きますよ」


「何が来るの?!」


黒い雲が森へ垂れた。


湿り気を帯びた冷たく嫌な嫌な風が吹く。


「寒い……」


ブルリと身体が震える。 濡れた身体には応える。


垂れた雲は太さを増していく。


冷たい風も徐々に強まっていく。


両手で両腕を摩った春子さんが何かに気づいたようで叫んだ


「桜さん! 防御魔法!!」


「は……はいっ!」


冷気マイクロバーストが来るわ!!!!!! 周辺一帯を凍らせる気よ!! あの相良まほうばかは!!!!」


「は?!」


光盾ライトシールド!!!!」


空気が冷える。


指先がかじかむ。


吐き出す息が白くなる。


道の先から順に白く覆われていく木々。


凍っていく魔獣の死骸。


防御魔法で冷気って防げるの?!


そんなことを思い焦りながら出来る限り広げていった。


火盾ファイアシールド!! 火球ファイアボール!!」


私が張った盾の内側に春子さんが炎で壁を作り周りに暖を取れるように火の玉を置いてくれた。


そのお陰で冷気が緩んだ。


一息つき気を取り直して防御魔法を広げていった。

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