第107話 チョコレート
冷気が去り空は晴れ渡った。
「この大バカ!!!!」
春子さんの怒声が響いた。
戻って来た相良さんは腕が凍っておりガドラスさんがポーションをかけ治した。
その後北門の防御魔法の内部に沸いていた魔獣は士気が上がった冒険者達と相良さんさん達で退治し、西門の残党を退治するのに援軍に出かけた。
この場にいるのは春子さん、相良さん、私の三人だけだ。
ガドラスさんと灯里と高梨さんは他の冒険者と共に西門に向かった。
ちなみにキラーアントの巣には相良さんが水を流し窒息させていた。
「あはは! すみません。 つい!」
「つい、じゃ無いわよ!! こっちまで凍るとこだったじゃ無い!」
ガドラスさんからは後で話を聞かせて欲しいと言われたので一旦各々休むことにした。
城門を潜りしばらくすると冒険者の姿は消え、住民も避難中との事もあり閑散とした道を歩く。
すると避難して軒並み閉まっているお店の中一軒から甘い香りが漂って来た。
「ん? あら……良い香り」
「みんな避難してるのに開いてるお店あるんですか?」
なんか嗅いだことがある匂いだな……? あ!
「「チョコレート」」
匂いにつられてフラフラ辿っていく。
疲れてる時には甘いものだよね。
「あれ? ここって……アルフさんのお店?」
以前クインさんとイリスさんに連れて来てもらったお店に辿り着いた。
「ここ私も知ってるわ。 こっちの果物ふんだんに使ったケーキ美味しいのよね」
「営業はしていない……みたいですね?」
三人で店内を覗き込む。
「チョコレート良い香り」
とお店の前で雑談していると、
「あれ? 誰かと思ったらクイナ達と一緒に来ていた……」
「あ……はい」
お店の扉が開きアルフさんが出てきた。
扉が開くとは思ってなかったので驚いた。
「良かったら入っていきますか?」
私達を見渡しお店の中へと勧めてくれた。
せっかくだからお邪魔することにした。
店内のテーブル席に着き腰を下ろす。
「アルフさんは避難しなかったんですか?」
お水をいただき喉を潤し同じように椅子に腰掛けたアルフさんに尋ねた。
「うん。 避難するようにとは言われたんだけどね」
恥ずかしそうに苦笑いするアルフさん。
「一度はちゃんと避難したんだよ。 ただ突然だったから……作りかけのお菓子が気になって戻って来ちゃったんです。 そうだ良ければ皆さん試食してくれませんか?」
「良いんですか?」
「私達まで良いの?」
「ありがとうございます」
「はい。 今最後の仕上げをして来ますね。 少々お待ちください」
そう言ってアルフさんは厨房へ戻って行った。
「どんなお菓子が出て来るのかしら」
「ここのケーキ美味しいから楽しみですね」
しばらくして戻って来たアルフさん。
手に持つトレイの上にはケーキが乗ったお皿が三つ載っている。
「「「綺麗……」」」
それぞれの前に置かれたケーキを見てみんなの声が揃った。
そのケーキは5層で出来ている。
一番下は色からしてチョコレートケーキ、その上に白いクリームと果物、その上に薄い何かが挟まっており白いクリームとその上の淡いピンクのクリームの仕切りを担っている。
ピンクのクリームの上には薄くスライスされた果物が載っている。
それを覆うのは鮮やかなローズピンク、何かのジャムかな? ゼリーかな? 透明度があることで果物が綺麗に見えている。
手間がかかっていそうなケーキだ。
「頂きます」
フォークを手に取り一口に切り取る。
あ……これって。
フォークに当たる感触で気付いた。
口に入れると私の好きなチョコレートの風味もした。
一番下のケーキはやっぱりチョコレートケーキ、その上には控えめながらもしっかりと甘さを感じる生クリーム。その上にはとても薄いチョコレートが何枚か入っていた。
薄いため噛むとパリパリとした食感があったが熱ですぐ溶けクリームと混ざる。
凄い……。
「美味しい」
そう言い上品に手で口元を覆う春子さん。
チョコレートの上にはレガージュのシュワっとした食感とベリー系の甘酸っぱさを感じるムース。
そして実があり濃いめのベリーのジャム。
「幸せ」
この前までカカオの扱いが分からなかったとは思えない程美味しいケーキだ。
「良かった」
ホッとした様子のアルフさん。
「凄いですね。 私こっちでこのクオリティのチョコ食べたことないですよ」
「薄いわね。 でもしっかりとカカオの風味が出てるし……凄いわ」
べた褒めされ照れているアルフさん。
「桜さんの本のおかげです。 後……涼さんにも協力してもらいました」
「本が役立ったなら嬉しいです。 こんなに美味しいケーキに化けるなんて……ラッキーでした」
ここから新しいチョコレートが開発されそうだな。
こっちの世界で進化するチョコレート……楽しみだな。
そうだよ。
元の世界の物を自慢をしたい。
こっちの世界の自慢を聞きたい。
その後に融合したものを見たい。
私がやりたい事が見えて来た気がした。
「アルフさんありがとうございます」
「こちらこそありがとう」
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