第58話 Sランク冒険者





「君が新しい渡り人か?」


「そうですが……?」


朝一で冒険者ギルドに来た。


まずは果物の様子を確認すべく空いている受付に行こうとした。


やたら眩しい人に話しかけられた。


なんかやたらとジロジロ見られる。何?


「私用があるので失礼します」


「待て」


手で前を防がれた。接触してないからか防犯の魔道具は反応しなかった。


「何か?」


「本宮様に相応しくないな。本宮様の周りをウロウロするのは止めてくれ」


「は?」


突然の発言に呆気に取られてしまった。


「君だろ?最近本宮様の周りをウロつく物欲まみれの渡り人って」


物欲まみれだと……まあ……当たってるなあ。


「それの何が悪いんですか?」


「悪いとは言っていない。相応しくないと言っているんだ」


「はあ?」


「本宮様は心の美しい方だ。渡り人は神様から魔法を授かるんだろう?君は己の欲の為、本宮様は人々の為。全く違うじゃないか。君は本宮様にとって悪影響だ」


そう言われるとそうなの…かな?


いやいやいや、灯里をノイローゼにした人の言うこと間に受けちゃダメだよな。


きっとこの人が例のストーカーだよね。


「灯里「本宮様」」


「灯「本宮様」」


「……「本宮様」」


めっちゃ圧掛けてくる。


「本宮様は嬉しそうだよ?」


そう言うと目の前の人は溜息を吐いた。


「もう影響を受けてるみたいだな…」


男性が呟くと………


ぐ………!?


男性を見上げた視界が突然変わった。


「こんなの効くわけないだろ」


「シリウスさん!!」


誰かが叫ぶ声と何かが壊れる音がした。






「っ死んだ?!」


「生きてるよー」


「あれ?イリスさん?」


目が覚めるとベッドの上に寝ていた。


声のする方を見ればイリスさんが椅子に座ってた。


「スタンピート発生中じゃなかったんですか?」


「そうなんだけどねーなんか森の様子がおかしくて報告しに戻って来てたんだ」


「そうなんですか」


「ビックリしたよー桜シリウスさんに投げ飛ばされてるし」


「やっぱり私死んだ?」


「生きてる生きてる。私、桜、話してる、OK」


「いやー私もびっくりしました!」


「びっくりしたのはあの場にいた全員。灯里なんか顔真っ青にして泣いてたよ。今ハンスとユリウスがギルマスに抗議しに行ってる」


なんか大ごとになってる!!


気の抜けたやりとりから一転周りの慌てっぷりにビビる。


「何したの?いくら渡り人でもSランクに喧嘩売ったら危ないよ」


珍しく真剣な眼差しでこちらを見るイリスさん。


「いや……喧嘩売ったと言うか売られたと言うか……」


あの時のやりとりをイリスさんに話した。


「灯里関連か……。やっと明るくなったと思ったのにね」


そう言って苦笑するイリスさん。


ここでドアをノックする音が聞こえた。


「イリス。桜起きた?」


小声で声をかけたクイナさん。


「起きてます」


私が声をかけるとドアを開けっぱなしにしたまま抱きつかれた。


「良かったっ!」


痛くない?平気?気分はどう?と心配してくれた。


「痛みも違和感も全然無いです。加減してくれたんですかね?」


あはははーと気軽にそう言ったら


「「いや。全然」」


「えっ」


真顔で二人に返された。


二人の話では結構大きな音が響いたらしい。木で作られた壁が凹んだらしい。


壁に叩きつけられたままぐったり動かなくなって頭から血が出たらしい。ひぇー。


頭を手でさする。頭平気?頭悪いのは生まれつきだけど……。うっさいな!


取り乱した灯里が一生懸命何度もヒールをかけたらしい。灯里ありがとう!


それを見てシリウスさんがもう一度今度は息の根を止めようとしたとかしないとか。


そこにハンスさん達が止めに入ったと。


AランクVSSランクで一触即発だったとか。怖いね。


「ハンスさん達は大丈夫だったんですか?」


「……」


私が2人にそう聞くと2人は顔を見合わせて苦笑した。


「ハンスは大丈夫だよ」


「頑丈なのが取り柄だからね」


2人の話し振りからして大丈夫そう。良かった。


その後に騒ぎを聞きつけてやってきたギルマスが対応したらしい。


ここで二人がギルマスに抗議したって繋がるみたい。


「……灯里大丈夫かな」


私より灯里が心配だな。だいぶ参ってたみたいだし。


「桜も気をつけなくちゃダメだよ」


「ブレスレットもダメになったし」


「え?」


イリスさんに言われて手首を見るとブレスレットが無くなっていた。


物理防御か。


って……。


「えーーーーーーーーーー!!! あれ高かったのに!!!」


あ。効かないってそれの事かぁ。高かったの! あれ高かったの!! 百万! 全部で5百万!!


何で全部壊れてんの!?


物理防御と捕縛は分かる。 が、魔法防御は?! 防毒は?! 何で壊れたのー!!


勿体無い…。


ってか私何かした?! 灯里と仲良くしただけじゃん!


灯里が誰と仲良くしようが関係ないじゃん!


だんだんイライラしてきた。


こうなったら……


「私鍛える」


「「えっ?」」


「私魔法鍛える。そんでボコボコにして弁償させる!!!」


「無理は良くないよ」


「やっぱり頭打った?」


「弁償させるったらさせるもん!!!魔法教えて!!!!」


魔力持ちの恐ろしさ味合わせてやる!!ぐぬぬぬぬ!!!!


むきー!!


と怒る私を宥めてイリスさんとクイナさんが相良さんのお店に連れてって、もとい連行してってくれた。


道中スタンピートの話を聞いたら一応収束したとの結論付けが為されたらしい。


通常もう1週間くらい掛かるところが昨日行ったら不気味なくらい静かになった為。


果物狩りで獲物にしていた魔獣を確認したら居なくなっていたそうだ。


奥の方まで行って見てきても様子は同じで夜通し調査し戻って来たらあの出来事だったとの事。


そしてその森の様子は嵐の前の静けさだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る