第2話 森の中




次の瞬間目を開けると森の中いた。


右を向いても木々、左を向いても木々、道なんてものはなかった。


暑くもなく寒くもない気温、深呼吸すると新緑の良い香りがした。


木漏れ日により明るさも充分だ。


チチチチ……と鳥っぽい鳴き声も聞こえる。


声にならない感嘆を上げ両手で口を覆った。




凄い! 私異世界来ちゃった。


……本当にここ異世界でいいんだよね?


冷静に考えると単なる森にしか見えないんだけど。



……まぁいいや、確認してみよう。

魔法使えたら異世界だよ、きっと。 半信半疑で神様からもらった魔法を使ってみる。

チョコレート出せるかなと思ったら薄い半透明の長方形の板が出た。 A4サイズくらいの大きさだ。


左上に残高である魔力の総量右上に合計魔力量と注文決定ボタン。


真ん中には左詰でカテゴリー、品物の名前、消費魔力、個数、小計魔力量が書かれている。

スクロールしていくと食品カテゴリーに目当てのチョコレートを発見した。

一箱10粒入りで3500魔力。 なかなかに良いお値段だ。


……でも購入しちゃう。 これが目的だったんだもの。


個数に1を入れ注文決定ボタンを押した。

板が消えチョコレートの箱が浮かんでいる。

手に取るとちゃんと質量が感じられた。


ペリペリと丁寧にシールを剥がし包み紙を折りたたみアイテムボックスに入れる。

パカっと蓋を開けるとあの時食べたチョコレートの匂いがした。


……全部味が違うんだよね。 どれから食べよう。


アーモンドのような形をしたオレンジから白にグラデーションしているチョコレートを手に取る。


……綺麗。 勿体無いけど一口で口に放り込む。


冷えたチョコレートがパリッと割れ中からプラリネがとろりと出てくる。


……っ、美味しい!!


これだよコレ! ……っあぁ幸せ。


ゆっくりと舌で溶かし溶け切ってから飲み込む。

余韻を楽しんでいると背後からガサガサと草を踏む音が聞こえてきた。


……あれ? 魔法がつかえたから異世界っていうのは信じたよ。

信じたけど、そういえばこの世界って動物の類どうなってるんだろう……?


もしかして私危ない? と恐る恐る振り返った。


「居た居た! あんた怪我はないか?」


年齢30代くらいのガタイの良いいかにも冒険者っぽい男の人が現れた。


「は……はい。 怪我はしてないです」


「なら良かった」


その冒険者は私の手元を見るなり呆れたように苦笑し、


「なんか食う前に身の安全を確保するのが先だろう。 ……渡り人で間違いなさそうだな」


「あ……そうですね」


「まずは拠点に戻ってから話をするか。 魔獣が出る前に」


冒険者は自分が来た方を指差しこちらに背を向けた。


……なんか手慣れてる? というか魔獣って何!? 動物じゃないの?!


さっきまで綺麗な森だなと思えていた場所が途端に薄気味悪いものに見えてくる。


手に持っていたチョコレートをアイテムボックスに入れて冒険者の方へそそくさと近づいて行った。






「あの……」



無言で冒険者が踏み固めた草の上を歩いていたが魔獣らしきものと遭遇しない為幾分気が緩んできた。


「ん? なんだ?」


こちらを振り返ることなく歩きながら返事をくれる冒険者。


「まず名前聞いても良いですか? 何で私がここに居ると思ったんですか?」


「ああ、すまんすまん。 自己紹介がまだだったな俺はハンスだ。 冒険者をやっているんだ。 この森の魔獣の目撃が減っているという情報をギルドから出ててな、コレが渡り人出現の兆候なんだ。 目撃が減るってだけで出ないわけではないが……。 何で魔獣の目撃が減るのかは分からんがそういうことだ。 で、ギルドから依頼を受けて仲間と共に数日前からこの森で渡り人捜索に加わっている」


「そうなんですか。 ……渡り人ってそんなに多いんですか」


「年に数人は来るかな? 少なくともこの森では」


「へぇー」


「あぁ、今から行く街も何人か居るぞ。 これから過ごすにあたって頼りになると思うから機会があったら紹介しておくな」


「あ……ありがとうございます」


「そのかわりさっき食べてた物を一つくれ。 箱ごとじゃなくて一個で良いから。 君…ああっと名前教えてもらっても良いか?」


「え? チョコレートをですか? あ……私は桜です。 橋沼桜……名前が桜で姓が橋沼です」


「桜か……分かった。 こちらの世界にも似た物はあるんだが桜が居た世界の物は特別美味しくてな。 来たばかりだと何かしら食べ物持ってるから恩を売って何か貰ってるんだ」


なんだこの人。 ストレート過ぎやしないか? 普通恩を売るって自分から言わないぞ?


「……うーん……まぁ一個だけなら良いですけど」


「なんか渋々だな。 そんなに好きな食べ物だったのか?なら別の食べ物でも良いぞ?」


アハハと笑われた後に気遣われてしまった。


「街に着くまで考えておきます」


「ありがたい。 ……っと待ち合わせ場所に着いたな。 おーい保護したぞー!」


少し開けた森の中、そこには火が起こされテントが張られていた。

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