異世界でお取り寄せ生活
マーチ•メイ
第一章
第1話 異世界
ある日仕事から一人暮らしの家に帰り眠りにつくと不思議な夢を見た。
白い空間に一人で居る夢。
眠い目を擦り、ぼーっと寝ぼけ眼で寝る前のことを思い出してみる。
私家で寝てたよね……?
……ここ何処だろう……こんな場所に見覚えはないなぁ……。
ゆっくりと辺りを見渡す。
やはり心当たりはない。
……これって夢?
うーむとその場で腕を組みしばし考え込む。
……明晰夢ってやつかな?
考えても良く分からないのでそう結論付けた。
そう思い込むとなんだか不思議な気分になった。
明晰夢なんてめったに経験できることではない。
……ちょっと楽しくなってきた。
これはどんな夢なのかな、続きは何なのかな、と辺りを見渡しながら歩く。
すると白い球体のようなものが現れた。
なんだろうと裸足で足取り軽く近寄ると、
「よく来たね。 渡り人よ」
なんだか得体の知れないものに話しかけられてしまった。
不意の出来事に足を止める。
私以外に居ないよね、と辺りを見渡す。
「そうだよ、ここには君しか居ないからね」
「……あなたは誰ですか?」
今日の夢はなんだか面白いなと思い、私は白い球体に話しかけた。
「こことは違う世界の神だよ」
ん? ……それってもしかして……寝ぼけて回転の遅い頭で考える。
!!
そしてハッと気づいた。
そうだ!! ラノベの展開!!
もしかしての可能性に浮足立つが、同時に嫌な予感もした。
だってその展開だと大抵が不慮の事故や過労死、病死といった感じで亡くなっている。
「え? 私……死んだんですか?」
「あぁ……それは大丈夫。 そこで眠っているよ」
「なんだ。 それならこれは夢なのか」
神様の回答にほっと胸をなでおろした。
「夢じゃないよ。 眠っている君の身体から魔力を抜き出したんだ。 そこで眠っている君も君だし私と話している君も君だよ。 話が進まないから一気に話させてもらうね。
……まず私はこちらとは違う世界の神だ。 その世界では魔力が不足していて、定期的にこちらの世界から魔力を貰っているんだ。 こちらの世界は魔力を使ってないからね。
今回は君が選ばれた。 だから私の世界に行って魔力を使ってくれないか?」
やっぱりラノベ展開だ、……それも都合のいい部類。 思わず顔がにやけそうになる。 両手で頬を挟んだ。
落ち着け、落ち着け……冷静に。
一度深呼吸をして呼吸を整える。
「……行くとしたら寝ている私はどうなるの?」
「そのままだよ、今こうして話しているのは夢だと思うだけ。 起きたら今まで通り生活していくよ。 必要なのは魔力体である君の方だからね」
「なんで意識はあるの? 魔力が必要なら意識は要らないんじゃない?」
「あちらの世界に刺激を与えるためだよ、魔力と共に発展に協力してもらってるんだ。 その方が君達も楽しいだろ?」
「それはそうだね!」
落ち着くのは無理だった!!
もう楽しそうな予感しかない。
「それに皆あまり長居はしないんだ。 あちらで渡り人の魔力は回復しないからね。 皆魔法を使うのが楽しいみたいで直ぐに使い切っちゃうんだ。 あぁ……安心して。 使い切っても、あちらに渡った君が消えて思い出だけがこちらの君に戻るだけだから」
「回復しないの!? せっかく魔法使えるのに!」
「……魔力を使って欲しいのに現地から君たちに魔力を補充したら意味ないじゃないか」
「……それはそうか」
例にもれず私もすぐ帰ることになりそうだな……。
「魔力は君たちに一千万ほどある。 火の玉を出すのに10くらい必要かな。
だから直ぐとは言っても数年は無くなる事は無いんじゃないかな?」
「そうなんだ」
「あとみんなから聞かれるから言っておくと、時間停止付きのアイテムボックスと言語理解は付いてるよ。 おまけで魔法を一つプレゼントもしてる。 何か望みはあるかい?」
「魔法……通常の魔法って使えるの? 火属性魔法とか水属性魔法とか適性がなきゃ使えないとか」
「属性魔法は全部使えるよ。 火、水、土、風、光、闇かな」
「なるほど。 他の人はどんな魔法をもらってるの?」
「んー……例えば鑑定魔法、錬金魔法とか植物促進魔法とか最近物作りとか流行ってるみたいだからね。 そういう類も多いね」
「物を取り寄せる魔法とかは? ネット通販とか………後スーパーとか」
「そういう人もいるね。 そういうのが良いのかい?」
「じゃあ……自分が購入した事がある物を取り寄せる魔法でお願いします。 ネット通販で無いものも有るし、ネットスーパーも商品が限られてるから」
「分かったよ。 ただそういった魔法は料金と消費魔力が同等になる傾向があるから早くに魔力無くなっちゃうかもよ? それでもいいのかい?」
「もちろん!」
火の玉で消費魔力が10なら取り寄せの魔法は燃費が悪い部類だと思う。
同じ消費魔力で取り寄せられるのは10円の物なのだから。
……でもそれでも良い。
あの限定販売だったチョコが食べられるなら!!
……数年前の催事場で購入したチョコ美味しかったんだよな。
別日にもう一度購入しようと行ったら売り切れ、翌年以降は日本出店辞めてちゃって食べれなくなったんだよね。
海外旅行は敷居が高いしネット通販はバレンタインシーズンのみ。
しかも即ソールドアウト。
泣く泣く諦めたチョコ!!
それが食べられるなら燃費悪かろうがその魔法で良い!!
「君がそれで良いならその魔法をプレゼントしよう」
「やった! チョコレート」
「それで行ってもらうんだが準備は良いかい?」
「待って! 荷物準備したい! ってここの荷物持っていったらここで寝てる私は使えなくなっちゃう?」
「大丈夫。 この鞄に持っていきたい物を入れてごらん。 複製して本体は元の場所に置いといてあげるよ」
「お……おお……何から何までありがとうございます」
手元に浮かんだ鞄を手に取る。 なんて事のない普通の肩掛け鞄だ。
「じゃあ準備が出来たら声をかけてね」
そう言って白い眩しい空間から見慣れた部屋へと戻ってきた。
試しにストックしていた米袋を入れてみる。
明らかにカバンの容量より大きい袋が綺麗に入っていった。
米袋を置いていた場所を見たら入れたはずの米袋が戻っていた。
もう一度鞄に入れてみたら鞄に入らず元の場所へ戻ってしまった。
同じ物は一回以上増えないらしい……残念。
部屋の中を歩き回って調味料やら服やら詰め込んでいく。
部屋にあった物は、重くて動かせない物以外全部詰め込んだのではないか。
満足げに頷きベットの上で寝ている自分を見る。
……こうして自分が自分を見るのは不思議な気分だ。
「あなたの代わりに旅行行ってくるね……土産話楽しみにしてて!」
寝ている自分に声をかけ神様に声をかけた。
「神様! お待たせしました。 準備できました」
見慣れた景色が一瞬で眩い空間へと変わる。
「じゃあ行ってらっしゃい」
「行ってきます!」
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