でっかいメダリオンおじさん ~ダンジョンはびこる地球で俺だけ特殊アイテム交換~

nullpovendman

短編 俺だけ特殊アイテム交換

「でっかいブツを持っているんだろう? おじさんに見せてくれないか?」

「は?」


 通報案件かと思ったが不審なおじさんの目線は俺の股間ではなく、手に向かっていた。

 そこにあるのは古びてはいるが素材にも意匠にも価値がなさそうなアイテム「でっかいメダリオン」と呼ばれるハズレアイテムである。

 そもそも俺が底辺ダンジョン探索者としてうだつが上がらない生活を送っているのは、この「でっかいメダリオン」のせいであった。


 地球にダンジョンができ始めて一年。

 日本でも十のダンジョンが発生して、ダンジョン物が大好きなサブカル野郎どもが特攻して死んだり死ななかったりした。


 ダンジョンというからには中には当然モンスターがいる。

 ステータスを見る機能はないようだったが、モンスターを討伐するたびにあきらかに異常なペースで強くなることからレベルの概念があることは推測されていた。

 未だに鑑定の魔法やアイテムが見つかっていないことが残念である。


 ダンジョンでモンスターを倒すと時間経過で消滅してドロップアイテムのみが残る。

 大当たりなら魔法が使えるようになるスクロールや一攫千金間違いなしの希少金属を手に入れることもあるが、ドロップは完全に運に左右されるようで、確定ドロップの方法は見つかっていない。

 射幸心をあおられた後先考えないバカどもは、命を対価にしたギャンブルを求めてダンジョンに潜るようになった。

 俺こと小池こいけ賢確けんかくもバカの一人というわけだ。


 俺は単なるバカではなかった。

 神に愛されていたのだ。


 ただ、愛してくれたのがでっかいメダリオンの神だというのが最低だったというだけの話だ。

 ダンジョンに潜り続けて一年経っても、でっかいメダリオン以外がドロップしないという悪夢の真っただ中にいる。


 そんなある日のことだった。

 ダンジョンの出口で知らないおじさんに声をかけられたのだ。

 でっかいブツを見せてほしい、と。


 俺はおじさんにでっかいメダリオンを渡した。

 でっかいメダリオンには特殊効果はないし、希少金属を使っているわけでもないし、換金性はほぼない。

 ダンジョン産という希少価値から売買アプリである程度の小銭稼ぎにはなるが、それだけだった。


「どうぞ。何なら差し上げますよ。まだ家にたくさんあるんで」


 全部を売りさばくには時間がかかるため、家に在庫が残っている。

 一個くらい人にあげても月の稼ぎが変わるわけでもない。


「いやいや。こんなでっかくて素晴らしいものをただでもらうわけにはいかないよ」


 おじさんはでっかいメダリオンを初めて見たのだろうか。

 でっかいメダリオンは俺以外の探索者も稀にドロップさせるらしい。

 俺だけが持っているというわけでもないのだ。

 ダンジョンに無縁の人にとっては珍しいかもしれないが、探索者の間では重要度は低い。

 金にならないし。


「ただでっかいだけですよ」

「そこがいいんじゃないか。ただ今は持ち合わせが少ないからなぁ。君、明日同じ時間にここに来られるかい?」

「それはまあ」


 実は俺はおじさんにナンパされているのだろうか。

 俺は恋愛対象が女性の二十歳童貞なのでおじさんにがつがつ来られても困ってしまう。

 しかもイケメンとか目を細めたら女性に見えるとかじゃなくて中年太りのどこにでもいそうなおじさんだし。


 おじさんは嬉しそうに続けた。


「じゃあ家にある他のでっかいメダリオンも全部持ってきてくれたまえ。おじさんも交換に値するものを持ってくるから」

「はあ」


 そうして俺はおじさんと別れ、家に帰ったのだった。

 でっかいメダリオンは渡して置いた。

 一枚くらいなら持ち逃げされて困るものでもない。


 シャワーを浴びて、あのおじさんが何だったのかを考えたが、特に何も思いつかなかったので、大きなカバンにでっかいメダリオンをつめられるだけ詰めてから寝た。



 翌日。

 ダンジョンに潜るのは休みにして、おじさんとの待ち合わせにでっかいメダリオンを持ってきた。

 俺は約束を守る男だ。


「やあ、よくきたね。さっそくおじさんに君のでっかいのを見せてくれるかな」

「言い方なんとかなりません?」


 俺が露出狂みたいじゃん。


 俺は在庫の二十枚を全部見せた。


「すばらしいよ。対価になるかどうかはわからないがこの中から好きなものをあげよう」


 おじさんが見せてきたのは、炎帝の剣、氷獣の小手、毒蝮どくまむしのドリルだった。

 どれも戦闘力が一級品のドロップアイテムで、一つ持っているだけで上級探索者の仲間入りを果たせそうなものばかりだ。


「え? こんな高価なものと交換してくれるんですか? 詐欺?」

「いやいや、おじさんは怪しい者じゃない。探索者ランキング三位に散弾薔薇さんだんばらっているだろ? それがおじさんだよ。後で調べてもらえばわかる」


 いやおかしいだろ。

 ちなみに探索者ランキングは純粋に納税額で決まる。

 俺たち探索者は資本主義の犬なのだ。


 それにしても日本で三番目に稼いでいる有名探索者ならでっかいメダリオンくらい自力でドロップするまで潜れるはずだ。

 交換をねだる必要はない。


「おじさんは運が良すぎてね。強いアイテムは落ちるんだけど、どうしてもでっかいメダリオンが落ちないんだ」


 なんだ自慢か?

 その点俺はでっかいメダリオンに愛されているけどな。

 足して二で割ればちょうどいいんじゃねえかな。


「そこで君だよ。聞けばでっかいメダリオンばかりドロップする探索者がいるそうじゃないか。だから聞き込みを続けて探し出したんだ」


 おいおいこの時代にどいつもこいつも個人情報保護法の概念がないのかよ。

 どうなっているんだ探索者。


「でっかいメダリオンはおじさんの魔法『コインロッカー』で異空間にものを預けるときに使えるんだ。無限収納インベントリの魔法と違って不便が多いけど、せっかく手に入ったチート能力まほうなんだ。活用したいだろ?」

「はあ」


 ああ、なんだ。

 使い道があるのか。

 ただの変なおじさんじゃなかったわけだ。


 エセ無限収納みたいな魔法にはでっかいメダリオンが必要。

 でも自力ではドロップしない、と。

 そう聞かされると詐欺じゃない気がしてくる。


「それに魔法がなくてもきっとおじさんはコレクターになっていたと思うよ。でっかいメダリオンの造形は中庸ナポリタミナ惑星群のコチズ時代王族貨幣に酷似していて、宇宙城塞イカルガのファンとしてはダンジョンの生成に関する集合無意識とイカルガの天上相補計算機に関係があるという学説が……」

「なんて?」


 いやこれ、オカルト系雑誌を愛読しているタイプのただの変なおじさんだな?

 日本で三位なのに残念なおじさんだ。

 ダンジョン探索者なんてみんなどこか残念なものかもしれないが。


 俺はおじさんが持っている剣を手に取った。


「じゃあ炎帝の剣と交換させてもらいますけど、本当にいいんですね?」

「ああ。それと、これからもでっかいメダルがドロップしたらおじさんに売ってくれないか? ほら、これがおじさんの連絡先だ」

「よろこんで」


 俺はこの日からおじさんの奴隷になった。

 いや、重要取引先を手に入れただけだから。


 この日から小池こいけ賢確けんかくの人生は変わり、最終的に探索者ランキング八位まで駆け上がることになるのだった。

 相変わらずでっかいメダリオンしかドロップしなかったが、でっかいメダリオンおじさんこと散弾薔薇さんだんばらさんと定期的にレアアイテムを交換することで、ガンガン金を稼げるようになったからな。


 §


「ははは。ぼろいもんだぜ。まさか『コインロッカー』なんて嘘に騙されてくれるとは」


 散弾薔薇さんだんばらこと俺、原出はらで出蔵でぞうは笑いが止まらなかった。

 オカルトおじさんムーブをしたのが良かったのか、ネームバリューのおかげか。

 はたまた日頃の行いか。


 ともかく、俺はでっかいメダリオンを定期的に入手できるようになったのだ。

 俺がダンジョンに潜ってもでっかいメダリオンがドロップしないなんてのは真っ赤な嘘である。

 確率は低いがちゃんとドロップする。


 ただ、それだと俺の真の魔法『自動販売機』を十分に活用できない。

 でっかいメダリオンを対価に、好きなアイテムを購入できるという優れた魔法だ。

 これによって俺は日本で三番目に稼いでいる探索者になれたのだ。

 俺の魔法をもっと活用するために、でっかいメダリオンはあればあるほどいい。


 その点、メダリオンの神に愛された坊主を抱え込むことで俺の魔法は最大限に活用できるようになった。


「今度は若返り薬を購入してやろうかな? それとも確実に髪が生えるポーションがいいか?」


 世界にダンジョンができて一番恩恵を受けているのは俺だ。

 俺だけがこの世界で唯一、特殊アイテムを交換できるのだから。



 終

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