第3話 眠っているような顔をして

 病院の夜間受付で、母さんの病室を聞いて向かった。

 病室に入ると、狭い病室の中、オロオロ歩き回ってる父さんがいた。


「母さんは、大丈夫?」


「こうして見ると、全く外傷が無く見えるけど、後頭部を強く打っているんだ」


 チューブが繋がれているが、交通事故に遭った姿に見えない、ただの寝顔のような母さん。

 本当に、交通事故に遭ったのだろうか?

 そんなの信じられないくらいに、今にも、大アクビして起きそうに見える。


「意識不明って、もちろん、意識は戻るんだよね?」


「医者から聞いた話では......見込みは薄いみたいなんだ......」


 ガクガクと震えながら、何とか言った父さん。

 この目の前の現実を受け入れ難いって気持ちに、僕は初めてそうなった。


 だって、今朝は、あんなに元気でいつも通り、煩かったんだよ!


 それが、夜には、こんな姿になっているなんて......


 こんなただ眠っているだけに見えるのに、その眠りは、この先ずっと続くかも知れないなんて、誰が、そんな事、信じられる?


 あのウザイくらいの小言を聞けなくなる日が、こんないきなり訪れるなんて、誰が想像出来た?


 そんな事なら、今朝、ちゃんと「行って来ます」って言っていたら良かった。

 もうあんなやりとりは二度と出来ないかも知れないなんて......


 僕、母さんに、まだ親孝行した事無かったんだよ!


「ちゃんと勉強して、立派な社会人になって、幸せに結婚してくれるのが、一番の親孝行だよ。欲を言えば、孫の顔も見たいけどね」


 なんて、ふざけたように言っていた母さん。

 その母さんの希望を1つも叶える事無く、母さんは、僕の事をもう何も認識しなくなってしまったなんて。


 そんなのイヤだよ!

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