14

「君の記憶の改ざん。白い街の夢。………、祭りで彼女が言った言葉の意味を」

夢籐曰く、みくが全てに関係しているという。

一体どういう…?

「その前に!! …ごめん皇輝。俺…、何も知らなかったとはいえ昨日……、説教染みたことを…、マジでごめん…」

「大空? 何、言って…」

「こらこら。先にそれを言ってしまうと、皇輝君の為にも、彼女の意も汲めないじゃないか。焦るんじゃあないよ」

「ス、スンマセン…」

「クッキーでも食べてな? 子犬君?」

二人の間柄も気になるが、多分、夢籐のキャラに大空が押されているだけだろう。

それにしてもなんて個性の塊。あの大空が押されるって…。

「さて…、何から手を付けようか」

「なんでも受け入れるぞ…。多分、その気は出来てるから…」

「よし。じゃあ、『白い街の夢』から始めよう。あの夢の舞台の街は、もう君も気付いているだろうが、君が事故に遭った街だ。それは南みくの力によって見せられている……、というより、白い街に君が閉じ込められていると言った方が正しいかな」

今まで他人が見ている普通の夢や、明晰夢、予知夢を俺は見たことがない。いつも白い街の中にいて、いつも崩壊する。

言われてみれば、これしか見ないのも、おかしな話だ。

だが、故意にあんな独特な夢を、他人に見せられるのか? それにみくの力って…?

「前にも運命について聞いたことがあったね。はっきり言うよ? 君は女の子…、もとい南みくを助けた時、死んだ。確かに心臓は止まり、医師の確認もとれた。その二十三時間後だよ。君が息を吹き返したのは」

「俺が助けた子が…、みく? それに、俺は死んだってことじゃなくないか?」

「僕も医学に精通しているわけじゃなから断言はできないけど、君のカルテから読み取るに、二度と目を覚ますような状態じゃなかった。…確実に死んでいたんだよ。君は」

気付けば、俺の右手は心臓のところを触れていた。

脈打つ心臓は、確かに動いている。こいつが一度…、止まって。

俺は…、死んだ…?

「原理も法則も、僕にはたどり着けなかった。だが、君をあの夢の中に閉じ込めることによって、君を死から救った。と言ったところだろう」

「それじゃあ…、俺はみくに助けられてたってことか!?」

「その時だけじゃないよ。君が事故に遭ってから、今の今まで。……そう、十一年もの間。ずっと……」

「なっ………。そんなの……、聞いてない…」

「言われなかったら分かるはずがない。だから自分を責めないこと。それに……、彼女がそれを望んでいたからね」

だからって…、あんまりすぎやしないか?

俺を助けるって言っても、死んだ人間を蘇らしたり、記憶を書き換えたり、夢に閉じ込めたり…って。

御伽話がすぎる。現実にあるわけない。

到底信じれるような話では………ッ!


だから夢籐は、『受け止めろ』って言ったのか……。


「次は記憶を弄られていることなんだけど…、神井君。どうぞ?」

「あぁ…、はい。俺はその南みくって人と、一度しか面識がないんだけど、あれは中学の時。突然俺に、皇輝と友達になってくれって言ってきて……。その時の皇輝…、抜け殻みたいな感じで学校にいてさ…。話しかけづらかったけど、どうしてもって頭下げられて…。断りづらい上に、幼馴染の体で接してくれとかよくわからないこと言われたけど、でも最後は俺の意思で、幼馴染になることにしたんだぜ? 皇輝が…、寂しそうだったし」

一度しか会ったことがないみくの、意味の分からない話を信じて、関わりづらい俺に近づいたなんて…、とんだお人よしすぎではないか?

それに、俺の中学の記憶は勉強にスポーツに、割としっかりした学生生活を送っていたはず。これも、書き換えられた記憶ってことなのか…?

「それなのに……。俺は無責任なことを…。ごめん」

「さっきもそんなこと言ってたけど、何をそんな謝って……」

「死を庇って蘇らせ、夢に閉じ込め、記憶を書き換え……。その全ての行為になんの代償もないと…、君は思うかい?」

「…………………えっ?」

「具体的な代償が何かは僕も知らない。だけど、夏祭りの時に君に言ったことから推測するに……」


『私といたらきっと皇輝君が不幸になるの』


『皇輝君の何十年も生きる人生の中のほんの数分の幸福。ないに等しいし、なくてもよかったもの』


この言い回しの、本当の意味。

それに、みくが流した涙の数々。

あぁ…、何を意味していたのか……、分かってしまう。

分かりたくなくても…、今までのみくとの関りで見た仕草や行動が、肯定以外を選ばせない。

「詳しくは彼女本人に聞くしかないが…、彼女は頭がいいらしい。ここにいる誰も、彼女の行方を知らない。知る術すら知らない。驚くだろうが、この世のどこにも彼女の居場所はもうない。人の記憶からいなくなることも全て含めて。それも最初から知っていたのだと思うよ」

「な…、なんとかでないのか!? みくを…、助けてやれないのか!?」

だが、夢籐は残酷にも首を横に振る。

何も言わず。目を背けて。

大空も…、涙を浮かべながら。


俺は…、何もできなかった。

みくの気持ちも受け止めれずに、自分の気持ちだけをぶつけて終わってしまった。

ただただ、無力な自分を恨むことしか……、できない。


夢籐の研究室を後にした後、俺は真っすぐ家に帰らず散々歩き回った。

気持ちの整理がつくまでと考えていたら、夜が明けており、朝日が顔を出していた。

眠気など、どこへやら。

と言うより、眠ることが怖かった。みくのいない今、あの白い街の夢を見るかは分からないが、もし白い街の夢の中にいて、あの崩壊が始まったとして、助けてくれる者はいないのだ。

当たり前に、普通に、感じていた救いの手にどれだけ助けられていたか。どれだけ心の支えになってくれていたか。

それは起きた世界で会うみくにも言える。

みくが声をかけてくれた世界は、今までの記憶の中でも、一番輝いて見えていた。

例え、みくの作った記憶だったとしても。

失ってから気付く、みくの存在。

とても、優しい…。

とても、愛おしい…。

また……、涙が…。

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