第二話 イライラする夜

ああ、イライラする。私は私の足元に転がる一人の兵士を見下しながら、ない髪をかき上げる動作をした。


「勝てもしないのになぜ挑む? 弱きその剣で何故挑む? 何故、私の体が普通の人間ではないだけで襲い掛かる貴様らが正義の国を名乗る? 本当に何故だ? ああ、イライラする」


私は圧倒した正義の国の兵士の剣を手に取り、その者の首に突き付けた。


「言え、貴様らの国の現在の王は誰だ?」


その兵士は何も言わない。ああ、イライラする。殺すという脅しは十分にその兵士に伝わっただろう。だが、その兵士は何も言わない。主への忠誠心の高さがうかがえる。


私は剣を置き、歩き出した。


「お優しいことだ、殺さないのかい? 骸骨君」


透き通るおそらく私に問いかける声に、私は首を回した。


私の背後、雪の上にフードつきのコートを纏った女性が立っていた。


「何者だ?」


私は問う。その女性はフードを顔にかけているため、その目と鼻は見えていないが、真っ赤な唇、雪のように白い肌、少しだけ膨らんだ胸部より、女性であることは理解できた。


「そいつ、君だったら殺せるだろう? 殺さないのかい? 君の大嫌いな、いや、君を殺した正義の国の兵士だよ? 何故温情を着せる? それが必要かい?」


特に意図なく吹いた風にフードが少しめくれ、女性の目が見えた。全てを見通すように綺麗なガラス球のような目が見えた。不思議なことにその女性の周辺には足跡がついていない。本来雪の上に現れたのであれば、雪に足跡が残る。だが、その女性の足元にはそれらしきものが一つもなく、それどころかその雪はその女性の雰囲気により輝いているかのように感じた。


「どちらでもいい。殺しても殺さなくても変わらない命だ。私が殺したいのは、正義の国の王だ」


私はそう言い捨てる。


「くふふふふふ、お優しいことだ」


その女性は特殊な笑い声をあげた。


「雪降る夜に君は再度命を授かった。それはきっと意味のあることなんだろうね。くふふふふ、今日は面白い日だ。良くも悪くも世界が動く日に、乾杯」


その女性はとても楽しそうだ。


「さて、ではシャマラ君、さようなら。またきっと会えるその日を夢見ておやすみなさい」


そう言って女性は私の肩に触った。元々その女性と私の距離は多少なりとも離れていたはずだったが、まるで瞬間移動のように私の横にその女性は立っており、私の肩に触れたのだ。その目はまるで私のことを見てはおらず、私が元々死んでいた場所を見ているようだった。


その瞬間、私の視界は真っ黒になった。


「くふふ、私はビャクヤ。またいつか会おう」


そんな言葉を耳に残し、私の視界はまるで私が死んだ時のように、真っ黒になった。


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