骸骨と黒のサイコロ
人間 計
第一話 死後の世界を見た私の
死後の世界とやらを私は見た。それを形容するとすれば、夜の海に一つの月が現れているかのような世界であった。
とても不快な真っ黒な水に足が膝小僧までつかりながら、空にある煌々と輝く月を眺めていると、それは月のようにいいものではないことが分かった。私の足がつかっている水が重力に逆らうかのように月のような何かを頂点として山のような形状を作っている。
そして、その不可思議な水の山の頂上にある月は、決して月などではなく、満面の笑みの表情で固定された煌々と光るお面であった。
その満面の笑みのお面はその不気味すぎる表情で私を見ていた。そして私は足を取られている水にまるで溶けるような感覚で同一化していった。私もあのお面を構築する不快な水になるのだろう。そんな嫌なことが分かりすぎた死後の世界だった。
あれが俗に言う地獄だったのかな? いや、きっと天国も地獄もなく、死んだ人間は皆あそこに行き、あのお面の怪物の一部になるのだろう。ああ、恐ろしい。そんな死後の世界からなんとか命からがら逃げ去った私は、そう思う。体が震えているのが分かる。今は何月何日だろう。
私は殺されたのは覚えている。現に私の体には、数多の槍が突き刺さっている。
それは腹に、足に、腕に、そして、心臓に刺さっている。ああ、この槍で殺されたのだ。
私はとても暑かった夏に、緑色の草の匂い充満する平地で、数多の槍に刺されて殺されたのだ。そして今、鼻をくすぐる酸っぱい草の匂いは消え、あたりは一面雪景色だ。ああ、少なくとも季節は半周したらしい。半周とは限らないがな。一年と半周? 十年と半周? 百年と半周? 少なくとも私が死んでいる間に季節は変わっている。私があの死後の世界にいた時間など体感1時間もなかった。それでも季節は変わっているのだ。時間は私の想像よりも流れていると思っていいだろう。
まぁ、私の体一つとっても時間がはるかに流れたことなど一目瞭然だ。肉がない。ふふ。全くと言って肉がない。臓器もない。あるのはどす黒く光る骨だけだ。それが私の体を構成する全てだ。私はその骨と骨の隙間を貫通している槍を掴み、体から抜いた。何個も何個も抜いた。
そして、立ち上がった。そしてそして、息を思い切り吸った。
「ゔおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉああああああああああ」
そんな、言葉とも取れない言葉を叫んだ。死後の世界から逃げきれた喜び、こんな骸骨の姿になってしまった悲しみ、そんな数多の感情を持って、私は叫んだ。
私は生前身に着けていた服を全て脱ぎ、その中の真っ赤なポンチョだけを腰に巻いた。そして、雪景色の大地を骨だけの足で踏みしめる。
手には黒色のサイコロ二つのみ。それと真っ赤なポンチョ。そしてこの真っ黒な骨だけの体。それが私の全てだ。私はその体で大地を進む。
雪が降ってきた世界を、私は闊歩する。私はおもむろに右腕を顔の前に出した。その右腕に鋭利な刃物があたり、キンッという金属が衝突したような音が響いた。
目の前で1人の男が私に向かって剣を振り下ろしている。それを私は右腕で防いでいるというような構図だ。
目の前の男は甲冑を体にまとい、その背後には赤色のマントを纏っている。私のポンチョの落ち着いた赤ではなく、目がチカチカするような鮮明な赤だ。このダサい服には見覚えがある。
「お前、正義の国の兵士だな」
私は声帯もないが不思議と喉から出た低い声でそう告げた。
「ふん、知力が多少はある怪物なんだな」
その男は一度身を翻して私から距離をとり、剣を構えた。
「やめとけ」
私はただそう告げる。
「誰がやめるか、化け物め」
その正義の国の兵士は金髪をたなびかせ、その凛々しい顔で再度私に突進してきた。
「ならしょうがない」
私はぼそりとそう告げた。
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