第七話 新居家の食卓(テーブル)
「全身が……痛い……」
朝自宅で目が覚めた私は凄まじい筋肉痛に見舞われていた。理由は分かっている。前世の……
だからこそ、普段は新居 灯……女性としての意識を強く
中学生の時、KoRにスカウトされるきっかけになった
私が普段でも出せる身体能力は前世と比べるとかなり抑えたものだ。
限界までの全力、となるとどうなるのか分からない。昨日でもかなり抑えた状態だったので、まだまだこの体がついて行っていないのだろう。
鍛えなければ……のろのろと痛む身体を引きずって、制服に着替えると私は一階へと降りる。キッチンへと向かい、私専用の棚から粉末プロテインの袋とシェイカーを取り出す。
そう、プロテイン……これは良いものだ。前世ではひたすら肉を食い続けて鍛えたものだが、この現世ではこんなに効率の良い栄養補助食品がたくさんあるのだ。シェイカーに粉末を放り込み、冷蔵庫からミルクを取り出して注ぐ。
蓋をして軽く振って攪拌すると、冷たく冷えたプロテインミルクを腰に手を当ててぐいぐい飲む。
冷蔵庫! これもまた素晴らしい。いつだってキンキンに冷えた飲み物をいただける……プロテインミルクを飲み干すと、私は口についたミルクを指を使って少し拭い、指についたミルクをぺろりと舐めとる。
爽快感が全身を包む。前世にもこんな飲み物があったなら、私は毎日お腹いっぱいになるまで飲み干しただろう。
『
とか自主的に宣伝までやっちゃう所存である……前世では広告代理店なんて無かったから、虚しい妄想でしかないのだけど。
「ああ、美味しいぃー!」
「昔のプロテインは美味しくなかったんだけどねえ、おはよう灯」
声の方を向くと、現世の父親……
「おはようございます、お父様」
お辞儀をして私はシェイカーを洗う。我が家は一般家庭から考えるとかなり裕福な家庭だが、前世のように使用人がいたりとかは無い。家事は全部自分である程度行わなければならない。
洗い終えたシェイカーを水切りに置くと、朝食の準備を始める。母親はまだ起きてこないから、私が朝食を準備する必要があるだろう。
エプロンをつけてキッチンに向かい、手際良くトーストとハムエッグ、そして包丁を振るってサラダを用意していく。
「灯はエプロン姿も可愛いなあ、毎朝心が洗われるようだよ」
父親が感心したように賛辞を述べてくる。まあ、お父様ったら、と笑顔で笑いながら朝食を準備していく。もう何年もこんなことやってるので、私としても慣れたものである。
「おはよう〜、灯〜朝ごはん〜」
「ねーちゃん早く朝飯〜」
母親の
「手が離せないから、コーヒーは自分で淹れてくださいね」
朝ご飯を一家揃って食べながら、今の家族のことを考えてみる。私は結構この現世の生活が好きだ。家族を含めて愛していると言ってもいい。
父親はまあ……ダメ人間……いや趣味の人だが、母親はビジネスマンで社会進出してそれなりの地位を築いている。女性の社会進出が課題となっているとよくテレビで問題視されているが、前世に比べたら天国のようなものだ。まあこれは比べる方が野暮というものだが。
弟はとても可愛い……私をみてもなんというか、そこら辺の男のように、憧れとか欲望に満ちた目で見てこない。一緒に遊んであげると本当に喜ぶ……のはもう数年前か。最近はちょっと恥ずかしがってボディタッチが少なくなった気がするが、それでも姉弟の仲としては良好だろう。
朝食を食べ終わり、キッチンで洗い物をしながら昨日のことを考える。やはり少し無理をしすぎた気がする。指の動きも少しおかしい。皿を支えきれずに落としてしまい、ガチャン! と大きな音を立てたお皿を一枚割ってしまった。
「あっ……!」
「姉ちゃん大丈夫?」
弟が心配そうに覗き込む。私の指に血が滲んでいるのを見て、慌てて救急箱を取りに走っていく。ああもう、普段ならこういうのも
弟が絆創膏を取り出して私の傷口に貼ろうとするが、まだ血が出ている。それを見た弟がパクッと指を咥えた。
「えっ? ターくん? ……んっ……」
音を立てて指を吸うと、すぐに口を離して絆創膏を器用に巻く。少しだけドキッとしたが、ああ、そうやって血を止めてくれたのか。
私に向かって満面の笑顔で微笑む弟、あー、マジ可愛いわー、可愛すぎて食べちゃいたいくらい。お姉ちゃんターくん大好き。
「これで大丈夫!傷にならないといいね」
「ありがとう、ターくん。お姉ちゃん助かったわ」
笑って弟を見ると、少し赤面した弟がぷい、とそっぽを向く。あー照れてんな、これは〜可愛い。ふと気になって横目で時計を見ると……そろそろ家を出ないと間に合わない時間になってきた。
慌てて洗い物を片付けると、急いで化粧をした私は家を出ることにした。
「それではお父様、行ってまいります」
「うん、気をつけてね」
指は絆創膏が貼ってあっても、じくじくとした痛みを伝えてきていた。治りも遅いな……。ノエルの魂が前に出た翌日はいつもこうだ。
今の肉体は前世の肉体に比べて、とても華奢だ。記憶の中にある私の体はかなりのマッチョで、身体中傷だらけだったが、とても鍛えあげられた肉体であった。その肉体の差、魂としての強さの差などからバランスを崩して高熱や、筋肉痛、そして肉体の回復力などに大きな違いが出ている可能性がある。
「鍛えなきゃ……」
その後電車を降りて学校に向かって歩いている途中、友達のミカちゃんが歩いているのを見つけた私は声をかけた。
「おはよう、ミカちゃん」
「あ、あかりん、おはよー!」
ミカちゃんは中学生時代からのお友達だ。黒髪をポニーテールにまとめ、背はそれほど高くない……とはいえ一六〇センチメートルあるので、この年代の女性としては標準的だろうか。目がぱっちりとしていて、笑顔がとにかく可愛い……美人! という感じではなくキュートな感じ、と言ってわかるだろうか。
私がこの学校を受ける、と話をしたらすぐに私も受ける! と決めてくれた。学力には多少差があったものの、ミカちゃんは私と一緒に勉強を頑張ってくれて見事にこの高校に合格した。出身校である板場中学の奇跡、とまで呼ばれているらしい。進学後も私の一番の理解者だと思っている。
私の女性としての素地はミカちゃんが鍛えてくれたと言ってもいいだろう。何をしていいのか分からなかった私に丁寧に化粧や、振る舞い、そして色々なスイーツ、遊びを教えてくれた。その中にはライトノベルや、テレビゲームもある。現世で私が愛してやまないジャンボチョコクリームスペシャルバナナパフェなどが存在する。
「ミカちゃん、私またパフェ食べに行きたい……」
「えー! あかりん先週も同じこと言って食べてなかった? 少し食べ過ぎだよ!」
考えてたら小腹が空いてしまう。あのパフェはいいものだ……ミカちゃんに伝わってくれぇ! ミカちゃんは笑いながら私のお腹周りを見ると……少し悔しそうな顔をして続ける。
「でもあかりん細いからなあ……出るとこ出まくってるのに、どうしてそんなに細いのか知りたいよ」
「んー、運動してると勝手に減ると思うんだけどね」
まあ、私の運動は常人のそれでは無いので、実は比較にはならないのだが。ミカちゃんは少し悩むような顔をした私を見て悪戯っぽく笑う。
「いいよ! 今日は……ちょっと難しいから、今度パフェ食べに行こうね、あかりん」
「やった! パフェ〜♪ パフェ〜♪」
上機嫌になって笑顔で鼻歌を歌い始める私を見て、本当に嬉しそうに笑うミカちゃん。
ああ、このような毎日が続いていたら、私も戦わなくて済むのかなあ? とふと思うのだけどね……。
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