第六話 一〇〇パーセント処女(バージン)
「ようやく来たか」
部屋の中心にある手術台に一人の男が座っていた。黒髪で日本人であろう容姿ではあるが、眼鏡の奥の目が赤く光り輝いており……どう控えめに見ても人間ではない。
彼は白いスーツを着用しており、ビジネスマンのような外見をしている。指には……銀色の結婚指輪が嵌められているが、これは人間だった時の名残りだろうか? その男がこちらを見てニタリと笑う。
「んー、キミはサラリーマンか何かかな?」
悠人さんがその男の風貌を見て緊張感なく問う。その問いにくすくす、と笑いを上げると男は馬鹿にしたような笑みを浮かべて男は答える。
「サラリーマンだった私は死んだよ。あの方にこの世の欺瞞を教えられて私は甦ったのだ、君たちの分類では私は何級かね」
男が凶暴な笑いを浮かべると、口元に鋭い牙が見える。
ああ、こいつは前世でも散々見た……
活動源として人間の血液を必要とし、童貞・処女以外は血を吸われると
「そうですね……まあ、二級
私の問いに答えようともせずに、むしろ私の体を値踏みするように上から下まで眺めてから、少し何かを嗅ぐような動作をする……その後欲望と侮蔑に満ちた眼差しを私に向ける眼鏡
「お前は
うっ……これだから
匂いとか感覚で的確に相手がどのような状態であるかわかってしまうのだ。こいつらは自分たちが闇の貴族だとか、夜の貴族だとか宣うが実際はこういうデリカシーの無さが全面に出た連中なのだ。
普通相手が
そしてこの
「そうだ、灯ちゃんの初めては俺が予約してるからな、今は一〇〇パーセント
超自信満々に
そしてその放たれた言葉を聞いて、思わず赤面して絶句する私……何を、何を言っているんだこの
悠人さんの馬鹿みたいな返答で寒い空気がその場に流れる……ああ、時が止まる。
きょとんとした顔で悠人さんを眺めていた
「人間風情が……人を超越した私をバカにするのか! 許さんぞ!」
手術台から降りると全身に力を込める。めりめり、と音を立てて筋肉の鎧を纏うように全身が盛り上がっていく。
「……来ますよ」
「おう」
ドン! と床を蹴る音とともに、
「
笑いながら、ふっと息を吹きかけると拳にまとわりついた炎が消滅する。
「俺の炎を消せるのか……」
悠人さんが驚いたように
「ああ、この炎は魔素を含んでいるな。それであれば私クラスの
んー……このタイプの
「ふっ!」
その間隙を縫って私は鯉口を切り、
この剣筋は前世で習得したミカガミ流……前世でノエル・ノーランドが極めた剣術であり、最強とまで謳われた無敵の剣術である。
私は、圧倒的に高い身体能力で技巧に振り切った技を中心に使用しているが……その記憶の中にある技のキレや不思議な力などを使うにはまだ及んでいない。
「ミカガミ流……
私の剣筋が見えない人には軽い金属音とともに相手がぶった斬られたように見えるであろう。しかし、眼鏡
「ずいぶんと手癖の悪い女子高生だ。……私でなければ死んでいたぞ?」
ーードクン。
「そうですか、死ななくて残念です」
私は刀を斜に構え、次の攻撃に備える。心臓が大きく鼓動する。
こいつは久々に見た中々の強敵だ、そう感じると自然と私の顔に笑みが浮かぶ。前世で剣聖、という称号をもらってから今世に至るまであまり感じなかった心地よい緊張感が私の心を包み込む。
ーードクン。
そうそう、戦いとはこういう緊張感が無くてはな、フフフ……。
前世……
いきなり俺の雰囲気が変わったことを察知したのか、
「貴様……本当に人間か?」
それには答えず、笑ったまま全力で床を蹴る。ズドン! という音とともに床が耐えられなかったようにひび割れ、俺は一瞬で
「ぐっ……あぁああっ!? わ、私の腕がぁあっ!」
ああ、この体は
慌てて飛び退く眼鏡
「灯ちゃん!」
しかし動く目標への発火は難しいらしく、空間に次々と炎が爆発するだけで眼鏡
着地地点を見計らって高速で距離を詰めた俺は斬撃を繰り出す。その攻撃を読んでいたようで、黒い霧と化して斬撃をいなす。しかし霧状になった
つまり、一撃ではなく……圧倒的な手数で押し切ればいい。
「ミカガミ流……
「さあ、早く戻れよ、死んでしまうかもしれないけどね」
凶暴な笑みを浮かべたまま、超高速の斬撃を繰り出していく俺……
基本的に
もし魔素が切れたら? 肉体を再構成して元に戻るしかない。前世のような魔素に溢れた世界であれば、そうだな……一時間程度霧のまま行動できただろうが、残念ながらこの世界では持って一分。
この世界は絶対的に魔素が足りない……これはこの世界の
「あっ……あ、う、うぎゃああああああああ!」
予想通り、
ほとんど拷問に近い攻撃で、実体化するたびに腕や脚が吹き飛んでいく。苦悶の表情を上げ、涙を流しながらビクビクと震えて苦しむ
「やめて! よして! 痛い! やめて! よして! 痛い!」
「そうやって命乞いをした人を、お前は助けたか? 笑いながら殺したのだろう? だからお前は絶望に包まれて死ね」
俺は超高速の斬撃を眼鏡
だからここでさっきからドン引きした表情を浮かべている男の力が必要になる……俺は彼の方向を見ずに、細切れの
「燃やしてくれ」
俺の指示で、お、おうと返事をした悠人さんが発火能力で
俺は……いや……冷静になろう。顔に手を当てて深呼吸ひとつ、
獰猛な猛る魂は次第にその炎を小さくしていき……ゆっくりと目を閉じるように眠りについていく。そう、こうやって魂を入れ替えれば……俺は、私に戻れる。
何度か深呼吸をした私は、悠人さんに向き直ると可憐な少女の表情で微笑んだ。
「さあ、帰りましょうか。私ちょっとお腹すいちゃいました」
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