第45話 被虐君
生きることが苦だと云うのならば
何故私は醜く生にしがみつくのだろうか?
僕が生まれたのは北海道だった。大自然がそこにはある。
鶴が有名なある街で生まれた。そこは世界でも有数の湿原が有名な所だった。
ありのままを受け入れて生きていく。
小さい頃から動物と自然が好きだった。
親が事業でレストランを経営していた。
父は良くも悪くも純粋で人を疑わない人間だった。お調子者で面白い人間だった。
母は神経質だった。母性はとても強かったが自分の言う事を曲げない人間だった。
純粋な父の前には様々な人間が現れる。
一緒に話したい人。手伝いたい人。そして、人の好さに付け込みたい人。
父の事業は人に支えられ成功し、人の裏切りによって破滅した。
連帯保証人になった父は信じていた人に裏切られ倒産した。
後には自分の過失ではない莫大な借金。
人を最後まで信じ切ってしまったという意味では過失かもしれない。
人間は醜い。
正直者が馬鹿を見るし、優しい人間に対して人は態度をどんどん変えていく。
コイツは何も言い返して来ない。どんどん言葉はキツくなっていく。
いつしか対等な関係も忘れて図々しく一方的な要求を通そうとする。
そういうクズは自分の事を棚に上げて優しい人間の簡単なミスも許さない様になる。
優しい人間は損をする。
僕は父を見てそう学んだが、そんな父を嫌いになれなかった。
母の父に対する小言は日ごと多くなっていたが父がそれを飲み込む事で二人の関係は成り立っていたのであろう。
返せなくなった借金を見て父は自分の生まれ故郷を捨て千葉に住む事になる。
所謂、夜逃げだ。
国の金融機関の借金は免れる事は出来ないが、民間の金融(ほぼ闇金融に近い)に対してお金を払わずに行方を眩ました。
それは僕が物心付かない時の出来事であったから知る由もないが。
幼い頃から身体が大きかった。
こども園に居た頃から平均的な子達に比べても身体一つ大きかったと思う。
僕自身良く食べる人間だったからその頃には40kg近く体重はあった。
悪い事をする奴には身体が大きい自分が行くと相手はおずおずと引き下がる。
こんなに小さい時でも悪い奴は居るのだ。それでも身体の大きい自分に相手は立ち向かって来ない。
僕はいい気になっていた。
大好きだったヒーロー戦隊の様に人を助けている自分を周りは持ち上げてくれた。
僕自身は正義感はとても強かったのだろう。曲がった事が大嫌いだったし傷つけようとする人間が大嫌いだった。
小学校に上がり僕は習い事をするようになる。
母と父に勧められ野球をする事にした。
父も母も借金を返す為に仕事で忙しくて、僕が寂しくしている事を感じていた事も有ったのかもしれない。
野球は面白かった。僕は左利きだったから守れる所は限られていたが、一生懸命やっていた。
野球の友達も沢山出来たし、学校でも僕は人気者だった。
父に似て僕はお調子者で人を笑わす事が好きだった。ワザとふざけてみたり、物真似をして皆を笑顔にしていた。
クラスにはガキ大将みたいな男の子が居たが、僕はとても仲良くしていた。
その子は悪い友達とも遊んでいたし、悪い事もするが弱い者イジメは絶対にしない人間でカッコ良かった。
僕の事を好きだなんて言ってくれる女の子も何人か居た。
学校で虐められている女の子が居た。僕はその子を庇ってはいたが、周りは一向に止めようとしない。
小学生にとってはあまり悪い事をしている自覚が無いのかもしれないし、大幅にエスカレートする事は無い。
ただ虐められている本人にとっては地獄の日々である事は確かではあるが。
庇っていた僕も自分がその子の事を好きなんじゃないかと噂された時には嫌な気持ちになっていた。
「止めろよ。あんな奴、好きじゃねえよ」
僕は皆と同じ様に流されて生きていく事にした。
どうせ僕が庇っても彼女が虐められる事は変わらない。
だったら僕まで標的にされる事は無い。そう思っていた。
彼女は段々と学校に来る頻度が減り、最終的に不登校になっていた。
学校の先生が「○○さんの為に皆で手紙を書きましょう」なんて言っていたが、虐めていた加害者達から手紙を貰った彼女は余計にトラウマが増えるだけだ。
知らない人間の余計な善意ほど残酷なモノは無い。
僕は何で虐められていた事を自分から先生や親に話さないのか不思議に思っていた。
辛いなら助けを求めるべきだ。結果論だが、こうなってしまうのだから。
道徳の時間を使ってイジメについてどう思うかを書く時間が設けられた。
皆が真面目に『イジメは良くない』、『イジメする方が悪い』、『相手が嫌だと思ったらそれはイジメ』、『見ているだけも共犯者』なんて書いていて先生が○○さんの意見は素晴らしいなんて言っていた。
そいつが虐めていた張本人なのに。
誰に対しての道徳なのか僕には分からなかった。
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