5章 四人目
第44話 幕間③
人という字は支え合っているのではなく
自分の足2本で立つことだろう
雨は強くなっている。
晴れの予報は完全に外れ、外は嵐になりそうな位の豪雨だ。
もし警察が我々を探そうとしても簡単には見つからないだろう。
警察犬は雨に弱い。
「はい。何ですか。心理士さん」
すっかり心理の先生にされてしまったな。
「率直に言おう。君がもし嫌じゃなかったら私と一緒に過ごしてみないか?」
「え?それって?えっ?ええ!?」
陰気女は分かりやすく照れている。
「そういう趣味をお持ちなんですか?」
いままで喋ってなかった30代の男が私を値踏みしている。
「誤解されているようだが一緒に暮らす訳では無い。私自身はお金に余裕があるから貴方の為に部屋を用意しようと思っている。」
誤解されない様に説明するが、人によっては邪推な考えを持つだろう。それでもいい一人でも多く救えるのなら。
「そんな申し出を私なんかの為にはもったいないです。私みたいな人間に、、、」
「自分を卑下しなくていい。そういう言葉は使えば使うほど自分を蝕んでいく呪いの言葉の様なものだ。一緒に出来る事を探してみないか?一人では無理でも2人なら何とかなるかもしれない」
30代の男はとても神経質そうに見えた。自身の部位を同じ順番に触る仕草を繰り返している。何か言いたそうだが陰気女の出方を探っている様に見えた。結局は本人がどうありたいかなのだ。
「貴方は自分の立場を理解されてないようですね」
赤目が厳しく私を見る。
「自身が何者なのか今一度考え直した方が良いかと思います。貴方に人一人を養えるだけの力がありますか?」
「どちらにせよここで死を選ぶのと、もう一度足掻いてみて死ぬのは変わらない気がするけどな。ただソレを決めるのは君達じゃない。本人が決める事だ」
赤目は不服そうに頬を膨らませる。
「私は、、、その、、、あの、、、」
自分で判断する事が無かったのだろう。どうすればいいのか分からない陰気女は、手遊びを繰り返している。
「ああそうだ。今は男の人と一緒に暮らしているんだったね。その人とも交渉しないといけないな」
これが狙いでもあった。
「あっ。あの人は・・・」
口ごもる。
「自分で言い辛いなら私から話しても良いよ」
「いいい、今は一緒には、す、住んで居ないです、、、」
急に緊張している。何か隠しているのは明白だった。
「もしかして今は居場所がちゃんとあるのかい?」
分かり切った事を聞く。
「そ、そんなのは、ななな無いです。私は」
「おおお、お手伝いをしてるんです!」
お手伝い?
「駅で私を迎えてくれた人は本当に良い人でした。私がお皿洗いをしたり、風呂洗いをしたらお金をくれたんです。」
ああそう言う事かこの人は。
「それである程度お金は溜まっていたんですが、ある日・・・彼女さんが急に家に来たんです。私は押し入れに直ぐに隠れました。でも彼女さんは怪しんでいました。部屋が綺麗だったり、洗い物が溜まってなかったりして、本当にあと少しで修羅場になりそうな展開にありました。それで、、、私は家から出て行きました」
恥ずかしそうに赤面している。
お小遣いを貰っていた事や、お世話になった人の乱痴気を言ってはならないと感じていたのだろう。
嘘は言っていない様に見える。何とも真面目で真っ直ぐな人間だ。
本当に人に迷惑を掛けたくない人種なんだろう。
「もし今、何もないならウチに来るといい。ああ変な事を聞いて申し訳なかった」
「その、、、考えさせて下さい。もう少し皆さんの話も聞きたいですし、私はこの機会を無駄にして良いのか決めかねています」
「ウチはアンタがこの人の家に行っても良いと思うよ。やり直せるならそうした方がいい。私が言うんだから受け取って欲しい。」
気楽女は屈託のない笑みを見せる。
「そうだった。やっと掴んだチャンスなんだよな」
その言葉には聞き覚えがあった。
廃病院に向かう前に、丸い男が私に向かって言った言葉だ。
「次は僕が話しても良いかな?君の言葉に僕は感動しました。君は僕からしたらヒーローだ」
陰気女は呆けていたが
「私は自分をヒーローだなんて思っていません。私を馬鹿にしているのですか?」
「あ、いや。ごめんなさいそういう意味で言った訳じゃないんだ。ごめんなさい。どうして僕はいつも」
何故か男は服を脱ぎだした。
「何をやってるんだお前は?」
金髪が我慢できずに口にする。
最初、皆は呆れて見ていたが男の肌を見て理解した。
パンツ一枚になった、男の身体には無理矢理に彫られた傷文字や火傷の跡、何をされたのか分からない傷跡が身体中にびっしりとあった。
たるんだ胸にはブラジャーを象った痕が彫られている。『僕ちゃん90Kg』、『ホモですいつでも電話してください』、『豚王』、『マスターベーションマスター』・・・男性器と女性器を身体に彫られている。他にも筆舌し難い罵詈雑言で身体中を埋め尽くされている。
この身体を一生抱えて生きてくのか。
「僕は君みたいに行動に移す事が出来なかった。だから君の話を聞いて僕は本当に凄いと思えたんだ。」
言葉に出来なかった。
痕を見ただけで凄惨さが理解できたから。
「これが僕の死にたい理由です」
人の残酷さと不条理の塊が目の前にある。
此処に集った全員が男の裸から目を背ける事が出来なかった。
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