第39話 陰気ちゃん⑧

私はもう学校には行かない。


自分という人間が嫌と言うほど分かってしまったからだ。


自制心というモノが私には無いしコンパス事件の罪悪感も無い。


アイツらがこれから先どうなろうと例え死のうとどうでも良かった。


ただ母が何度も罵声を浴びながら私の代わりに謝罪に行って私を助けようとした事には目を逸らしたくなる程にキツかった。


「皆はもう許してくれているのよ。大丈夫よ〇〇ちゃん」優しい嘘を付く。


何故私が嘘か分かるかと言うとこっち側に引き込みたい父が母が居ない時に


「ありゃあ嘘だぞ。アイツにしては珍しく俺に愚痴るくらいだからな。よっぽど酷い事を言われているだろうな。行かなきゃいいのにな」


同じ事を思っていただけに、コイツから言われると腹が立つ。


私は母に「もう行かなくていいよ。アイツらが悪いんだし、お母さんが傷つく必要はないよ」と言うと母は


「誰も悪くは無いのよ。人間は元々善人として生まれてきたのよ。悪いのは諦めてしまう心。信じられない事なのよ。私は〇〇ちゃんが悪いなんて勿論、思っては居ない。でも傷ついた人が居る事は事実だからそこを誤魔化してはいけないと思うの」


母は偉大だった。



私は自分の部屋に鍵が欲しいと母に言ったら母は直ぐに了承してくれた。何故だろう?


学校に行かないと一日中する事が無く部屋の中に閉じ籠る。


父は相変わらずTVを見ている。父は居間で一日の全てを費やすのでこちらとしても部屋に居れば顔も合わせず過ごせるので良かった。


母が弁当も置いて行ってくれている。




父が移動する音が聞こえる。向かう先は


私の扉のドアノブが何度も音を立てる。


「ちっ!いつの間に鍵なんか掛けやがったんだ。クソっ」


そう言ってまた戻りTVを付けている。


言葉を失くしていた。あの男は私に会って何をしようとしていたのか?


風呂場での出来事の続きをしようとでも思っているのか。私は両腕で自分の身体を抱き抱え母が来るのを音も立てずに待っていた。


母が帰って来て晩御飯を食べる。寝る。日中鍵を掛ける。たまにドアノブがゆっくり回される。母が帰って来て・・・


これの繰り返しで何も起こらない。いつか自分が描いた絵の様だった。



カビが生えている。黒いカビが。日中でも関係なくカーテンを閉ざす。誰にも見られたくない気持ちは今の生活を経て尚更強くなっていた。


カビを落とす事は簡単だがしなかった。カビも生きているのだ。このカビがどこまで生きていくのかに興味があった。


どんな風に広がっていくのか。それともこのままなのか。




私は一体何をしているんだろう?


母意外とまともな会話もせず、何もない時を過ごし、怯えて過ごす。何かしなくてはいけないのだろうが、何をすればいいのか見当もつかない。私はどうすればいいんだ。何をすれば・・・


ドアノブが回される。ああもうそんな時間か・・・


扉が開いた先に邪悪な笑顔が見える。


父が歯を磨いている所を見た事が無いので白い歯垢や黒と黄色の何かがべったりと歯に付いている。


考え事をしていた内にうっかりと鍵を掛け忘れていた。


「今日は入っても良いって事なのかな?」


返事も聞かずに急ぎ足で部屋に入ってくる。


ジェットコースターの頂点に居るように私はこれから自分に何が起こるかを理解した。


ガチャッ。


今更、父が内鍵を付けている。


何度も言う様にこういう時に私は動けない。


「どこにも行かないって事は俺の事を受け入れてくれるって事なんだろう?同じ引きこもり同士なんだ。仲良くしよう。」


違う。こういう時に喋る事も動く事も出来ない自分を本当に恨んだ。


「それにお前も本当は興味あるんだろう?あの時お前の下はべちょべちょだったからなぁ」


もう手の届く所に居る。


「さぁ続きをしようか」

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