第38話 陰気ちゃん⑦

もう学校は行っても仕方ないのかもしれない。


毎日、毎日飽きもせずに人の心を殺そうとしてくる。


此処で学ぶメリットよりも、デメリットの方が多く感じられた。


なじられるたびに私の身体に傷が増えていく。


自分を傷つけたいのか分からない、、、が傷を見ると母が優しく介抱してくれる。


ただそれだけを求めて毎日生きていたし、私の傷を見てクラスメイト全員が陰鬱な気持ちに、将来のトラウマになればいい。


アイツらにも普通の人生は送らせない。


私を庇ってくれた男の子も自分が仲間外れにされそうになったら、率先して私をばい菌扱いして笑いを取る。


私をより弱い存在にしたいのだろう。


腸が煮えくり返る。


こいつらは人間の屑だ。悪いのは私じゃない。私じゃない。


とびっきりの心的外傷トラウマを植え付けてやる。誰一人許さない。


今にして思えば先生に相談して個別に授業を受けたりしても良かったのだろう。


男の先生だったから話し掛け辛いのはあったが、そんな簡単な事も思いつかない程に私は参っていた。




「うわ今日も〇〇菌付いちまったよ」


「いつもより菌強くなってねえか?」


なってる訳ねえだろ。元々そんなモノねぇんだから。


「嫌だな汚いし臭いし」


勝手に言ってろ。今から殺してやる。


「コイツ本当に何も言わないよな。自分でも汚いって自覚してんのか?」


風呂場の件は私を良くも悪くも成長を一段階上げた。


いつもの様に自分の立場が危うくなった男が私をからかう。


私に不用意に近付く。私を小動物か何かだと勘違いしている。





「今日のお前は私よりも不幸だな」


こいつらは人じゃない。そう思うと簡単に相手を見据えられた。


あぁこいつらこんな顔してたんだ。


「あ?何言ってん・・・」


コンパスを足に刺す。


「ぎ、ぎやああああ」


何度も刺す。刺す。コンパスは深く刺さらないからな大事に至る事は無い。


より痛みだけを純粋に与えられる。


私に与えた痛みを思い知れ。


「こいつやべー奴だ。誰か先生呼べ」


呼びかけてる間抜けの横腹を突く。


手加減しなくても良いのがコンパスのいい所だ。内臓に届く事は無い。


何の躊躇も無く刺し続ける。


先生が来る。こういう時だけ早い。生まれたての小鳥の様に見たまんま、純粋にただ私が暴れてるだけだと思ってるんだろ。


いいよもうどう思われても。


「○○さん止めなさい!」


止めたら何かあるのか?こうでもしなきゃこいつらは変わんないだろうが。


私が死ぬか、こいつらが死ぬかだ。


静止を聞かずに刺し続ける。


私の身体は一回転するように宙に浮かされる。


羽交い絞めするように先生が後ろから私を抱きしめる。


風呂場の性体験を思い出して私はメチャクチャに興奮した。私の股は濡れていた。


「離してよ。放してよ。話してよ先生。どけよっ。まだ足りないんだ」


あと二人。事の発端になった二人を必ず穴だらけにしてやる。


私が苦しかった日の、罪の数だけ穴を空けてやる。


先生の掌を刺す。


それでも離さない信念だけは見事だった。


もう一度刺す素振りを見せると先生の身体は強張り、力を弱めてしまう。


先生の身体を蹴って射出され転がった先にあの二人が目に入る。


怯えている。二人で身を寄せ合って震えている。


「そんな風に怯えるなら最初からやるなよ」


静かなトーンでそれだけ言い終えると彼女らの頬に殴るように握った拳の先に出た針を頬に刺す。


交互に順番に、リズム良く顔を刺す。


「もう止めろ○○」先生が怒号を上げる。


私は同じ轍は踏まない。捕まえにタックルして来る先生の上を飛び越えると、そのまま一直線に教壇の上に立つ。


深呼吸を一つすると赤い世界が其処にはあった。


「皆、今までイジメてくれてありがとね。」


誰も動けない。罪悪感があるのなら少しでも動いて欲しかった。助けて欲しかった。


「見ててね。皆が見たかった事を見せるから」


私は自分の首にコンパスを刺す。刺す。刺す・・・


人間は血の詰まった水風船の様なものだ。


刺す度に穴からぴゅー、ぴゅーと勢いよく血が噴き出る。


日本の伝統芸能で扇から水を出すやつがあったなぁ。


誰も何も発さず私を見ている。私もここに居る全員の顔も一人も漏らさずに見据える。


私自身が真っ赤な世界になり、そのまま力なくゆっくりと教壇から落ちる。

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