第7話 山での修行
「先生~! もう一週間経つけど、本当にこんなんでSクラスに昇格なんてできんの~? このままじゃAクラス残留もちょっと怪しいと思うんだけど」
いつも通り、魔法学校の訓練場で汗を流すルナちゃんと、それを眺める僕。
ルナちゃんが僕の教え子となってから一週間が経った。
毎日一生懸命魔法の練習に取り組むルナちゃんの姿勢は目を見張るものがあったが、確かに実力の方は然程伸びていない。
まぁそれも当然だ。
だって――――
「実力が上がるような練習してないからね。この一週間やって来たのは、魔法の習熟度を上げるようなメニューばかりだよ」
「は、はぁ!?」
僕の言葉に、驚きの声を上げるルナちゃん。
そして僕に非難の声を上げる。
「ちょっと! それは聞いてないんだけど!? あたしは先生がSランク昇格を目標にしようって言ったから、この一週間それを目指して頑張って来たのに、これまでの努力全部無駄だったってこと!?」
「そんな事はない。これまでの練習もちゃんと活きてくる」
「でもそれでBクラスに降格したら意味ないじゃん! もう! あと一週間でどうするの!?」
この一週間の練習は、確かに地味な物が多かった。
だがこれはこれからの訓練の前の準備段階。
美味しい料理を作る前に必要不可欠な下ごしらえってやつだ。
「明日から三日間。これが修行の本番だ。これまでの訓練もそのためのもの。この三日間の特訓で、ルナは魔法使いとして一回りも二回りも成長する」
「明日から? でもアタシ普通に学校の授業があるんだけど――」
「大丈夫。既に休むことは連絡済みだ」
「勝手すぎない!? なんで家族でもない先生がそんな連絡出来るの!?」
「僕と校長の仲だからね」
「なんてはた迷惑な仲なの!?」
魔法学校には、授業を休んでも特にペナルティといったものはない。
テストの結果。これが全てだからだ。
だから極論を言ってしまえば、入学してから全ての授業を欠席したとしても、テストで結果さえ出してしまえば無事に卒業出来る。
「はぁ、もうそれはしょうがないか。で? どこで訓練する気? 学校を休むってことは、どこか遠い所に行くんでしょ?」
ご明察。
僕達が行くのは、
「山だよ! 明日からは山籠もりして特訓だ!」
~~~~~~
「はぁはぁはぁはぁ。せ、先生。ちょっとタンマ。休憩したい」
山を登り始めてから四時間が経過した。
帝国の東の国境線付近にあるこの高い高い山は、一般にカテア山と呼ばれている。
標高は三千メートルを超え、登るのは命懸け。
もう五月の下旬だと言うのに、未だ山頂付近には山が降り積もっており、それも登頂の険しさをより引き上げている。
「仕方ない。十分だけだよ?」
「う、うん」
僕らは数時間ぶりに地面に腰を下ろし、リュックに詰めていた水を飲む。
「でもなんでいきなり山? それもこんな険しい。……山登りが修行なの?」
疲れからか、頬を上気させたルナちゃんが僕に訊ねる。
「別に山を登る事が目的ではないさ。山の中の、ある特別な場所に向かっているだけだよ」
「特別な、場所?」
そう、僕達がこんな必死こいて山を登っているのには理由がある。
「この山はカテア山と呼ばれているけど、もう一つこの山には呼び名があるんだ。それが何か知ってる?」
ルナちゃんは首を横に振る。
「ここはね、神山と言って、神が住まう山だと地元民に恐れられてきたんだ」
「……もしかして神頼みでSクラスに昇格しようって話?」
眉を顰めて僕に言うルナちゃん。
やれやれ、そんな訳が無いじゃないか。
「僕はプロの家庭教師だよ? そんないるかどうかも定かでない存在に頼ったりはしない」
「ならいいけど……」
運命のテストの日が、刻一刻と近付いてきているからか、ルナちゃんも少しずつピリピリしてきている。
焦っても碌な結果にはならないのだが……。
仕方ない。ここは僕が先生として一肌脱ごう。
「どれ、いつもみたいにパンツでも見せ合おうか。そうすればルナも落ち着きを取り戻すだろう」
「あたしがいつそんな破廉恥な真似をしたっての!? そんなので落ち着けるかッ!」
「ふむ、むしろ僕のパンツに興奮してしまうと?」
「どんだけ自分のパンツに自信持ってるのさ! 別にパンツ見たくらいで興奮したりしないから!」
「でも見せるのは好きだよね」
「そうそう、見られるとどこはかとなく興奮してきて――ってんな訳無いでしょ!?」
意外に元気だなこの子。
そんなノリツッコミまでされてしまうと、本当にパンツを見せ付ける趣味でもあるのかと疑いたくなる。
「まぁ戯言はここまでにしておいて――」
「くだらないこと言ってる自覚あったんだ!?」
「いや、ルナのパンツが見たいのは本気なんだけどね?」
「そこは戯言であって欲しかった!」
ルナちゃんは僕から若干距離を取り、警戒したような視線を向けてくる。
そこまで僕を恐れなくても良いのに。
僕は確かに教え子のパンツを見たいが、それは同意の上で見たいのであって、無理矢理だとか脅してでも見たいという訳では決してないのだ。
理想を言えば、ちょっぴり嫌だけど先生なら……って感じで、赤面しながらスカートの裾をたくし上げてくれるのが最高かな。
「絶対、先生今エロい妄想してるでしょ」
「うん、ルナのパンツ姿を思い浮かべてた」
バシンッ!
うぅ……。蹴られた。
まぁ今のは蹴られても文句は言えない。
「さて、話を戻すけど。神が住まう山だと地元民が信じ切っている話。これはあながち地元民の勘違いとも言い切れないんだ」
「思いっきり蹴ったのに、ビクともしてない……」
僕は常に体中に魔力を流し続けてるからね。
それくらいの攻撃なら、何ともないんだよ。
「僕らがこれから向かう場所は、帝国内でも有数の魔力の溜まり場になっているポイントだ。そして、そんな場所にはアレが一杯いるのさ」
「……アレ?」
そう、アレ。
おとぎ話や伝承に度々登場し、魔法とは切っても切れない特別な関係にあるアレ。
その名も――――
「精霊だよ」
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