第3話 指導方針
「よし、ルナの指導方針は決まった」
ある程度ルナちゃんの実力を見極められたことで、どうすればSクラスに昇格できるようになるかが見えてきた。
技術的な部分は現時点でもSクラスで通用する。
それは僕が保証しよう。
ならばあとは魔力の少なさをなんとか克服するだけ。
「これから僕が言う事を絶対に守って欲しい」
「……うん、守る」
僕が真剣な表情と声色を作っているからか、ルナちゃんも少し緊張したように僕の指示を待つ。
「一つ目。髪を伸ばす事。今のショートヘアも可愛いけど、ロングヘアの方がもっと可愛くなれるよ? テストまで一ミリでも髪を長く伸ばせるように頑張ろう!」
「いきなり魔法関係なくない!?」
「いやいや、ロングヘアは至高の髪型だ。特に黒髪であれば尚好し」
ルナちゃんは先生よりも父親の遺伝をより濃く受け継いでいるのか。薄い緑の髪色だ。
そして髪も耳にかからないくらい短くまとめている。
確かにルナちゃんは現時点でもすごく可愛い美少女だけれど、やはり美少女は黒髪ロングが一番似合うと相場が決まっているのだ。
是非ともこの機会に黒髪ロングに転向してもらいたい。
「あたし髪が長いのはうざったくて嫌なんだけど……」
「いいや、これは譲れない。先生としての命令だ。髪は絶対に伸ばせ」
「なんで魔法関係無い事でここまで強引なのこの男!」
そう叫ぶも、僕に折れる気配が無い事を悟ったのか。
ついにはルナちゃんの方が諦めてくれた。
「うぅ……分かった。伸ばす……。はぁ全く、どこの世界に先生の好みに合わせて、髪型を変える生徒がいるってのさ」
「良かった。僕の熱意が通じたんだね!」
「熱意ってかその頑固さに楯突くのが面倒になっただけだから!」
うんうん。
どんな理由であろうと、僕はこうしてまた一人の美少女を正しき道に導くことが出来た。
この調子で美少女達に黒髪ロングを布教していけば、いずれ帝国における美女の条件に黒髪ロングが入るのも時間の問題だろう。
そうなれば僕は泣いて喜ぶ。
「色までは変えないんだからね!」
「それは惜しいな。ルナほどの美少女なら、きっと黒髪ロングが似合うと思うのに」
「そ、そんなに堂々と美少女とか似合うとか言うなぁーッ!」
どうやらルナちゃんは恥ずかしがっているようだ。
顔を真っ赤にして僕にパンチをしてくる。
まぁこの年頃の子は、あまり異性を直接的に褒めたりしないものだからね。
きっと家族以外の男からこうして美少女ぶりを褒められるのが新鮮で嬉しいのだろう。
「さて、気を取り直して二つ目。これは一つ目よりも簡単だ。ルナ、今日から筋トレ禁止」
「禁止?」
これからSクラスを目指そうって時に、トレーニングの禁止をするとはどういう了見か。
きっとルナちゃんはそう思っているはずだ。
しかしこれは、魔法の実力を向上させるうえで何よりも重要な取り組みの一つでもある。
あまり知られていない方法だが、その効果は絶大。
ルナちゃんもすぐにそれを実感する事になるだろう。
「うん。ルナちゃん、さっき握手して感じたけど、結構ハードな筋トレしてるでしょ? 上半身、下半身共に筋線維がずたずただよ? 今も筋肉痛が酷いはずだ」
「……変態の癖になんでこうもお見通しなの?」
ルナちゃんの僕に対する評価が低すぎて泣けてくる。
僕はただ自身の欲望を素直に言葉にしているだけだというのに……。
「さっき握手した時に軽く雷魔法をルナの身体に流したんだ。それで大体の事は分かる」
「全然気付かなかった。……ちょっと待って。大体って、具体的にどれくらい?」
「そうだね。ルナの今の身長は百五十二センチ。体重は分からないけど、スリーサイズは上から70、62、72。あとお尻の右側に大きめのほくろが――――」
「ちょちょちょ。ストップ、スト―――ップ!!」
「あれ? もういいの?」
微弱な雷魔法を流して得たルナちゃんの身体情報を、ぺらぺらと喋っているとルナちゃんの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていった。
そしてついに我慢できなくなったのか、大声をあげて強引にそれを止める。
「もういいのじゃなーい! なんでそこまで詳細な情報があの短時間で分かるの!? かなり怖いんだけど! ていうか、これセクハラじゃない!?」
「ふっふっふ。この雷魔法、<身体測定>は僕のオリジナル魔法だ。帝国内で僕以外の誰もそのやり方を知らないから、衛兵に訴えても僕の罪は問えないと思うよ?」
「なんでこんな無駄に有能なの、この変態は……」
僕のこの魔法を覚えたいという人はこれまでも数多くいた。
だが僕はそれらを散々断って、来たるべく美少女にセクハラ出来るこの機会に備えていたのだ。
魔法を使用した犯罪は、誰がいつ、どこで、どんな魔法を、どのように使ったか。
その全てを明確にしなければ立件できない。
唯一、医者を目指していた魔法学校時代の友人にはこの魔法を教えてあげたが、彼は今帝国の北側にある王国で開業医をしている。
だから僕のこの完全犯罪を罪に問える者は帝国に誰一人としていないのだ!
「忘れて! 本当に忘れて! バストサイズなんか特に! ――……言っとくけど、あたしは貧乳なんかじゃないからね! あたしはまだ成長期なの。これからぐんぐんと成長して大きくなるんだから!!」
「う、うん分かった」
凄い剣幕で僕にそうはやし立てるルナちゃんに僕は頷いて返す他ない。
そう簡単に美少女のスリーサイズなんて忘れられる訳がないが、ここで頷いてあげるのが大人の礼儀だろう。
十五歳時点でAAカップのおっぱいが、ここから成長してもたかが知れている。心からそう思うものの、本人には言わないのが優しさか。
僕は気を取り直して、次の指示を伝える。
「三つ目。筋トレをしないからと言って、運動をやめるのはダメだ。毎日五キロのジョギングは欠かさないように」
「たった五キロでいいの? 努力家の子は当たり前に十キロとか走ってるけど」
「走りすぎると、今度は下半身に筋肉が付いちゃうからね。ジョギングはあくまで体型の維持が目的だ。魔法使いにとっては、脂肪も筋肉も邪魔でしかない」
「その理論は初めて聞いたけど……。まぁ分かった。先生の言う通りにする」
「四つ目。これが最後――」
「ルナ。明日からスカートを履くんだ。そうじゃなきゃ僕がパンツを覗けない」
その言葉を言ったと同時に、僕はルナに殴られた。ぐーで。
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