第2話 お手並み拝見

「まずはルナ。君の今の実力を見たい。なんでもいいから得意な魔法を僕に向かって放ってみて」


 目標が定まった所で、早速最初の授業だ。

 僕とルナちゃんは家の庭先に出て二人向かい合う。


「え、危ないんじゃ……?」

「大丈夫。僕はこれでも魔法が大の得意なんだ。入学したての子に遅れはとらないよ」

「でも学校の先生には人に向けて魔法を撃つなって言われてるし」

「…………早くしないと罰としてパンツ見せてもらうよ?」

「すぐにやらせて頂きます!」


 ようやくやる気を出してくれたか。

 クールぶっているけど、やはりパンツは見せたくないらしい。

 ルナちゃんは僕に敬礼をして、すぐさま魔法を撃つため僕から距離を取る。


 うんうん。やはりパンツを見せるのに対してこれくらいの恥じらいを持っていないとね。

 こういった子のパンツを見てこそ、その感動も一入ひとしおとなるものだ。


 僕は必ずこの子のパンツをこの目で見てやると、心の内に誓いながらルナちゃんへ笑顔を向ける。


「さぁ、いつでもいいよ? 僕を殺すつもりでおいで」

「ど、どうなっても知らないんだからね!」


 ルナちゃんはそう言って、右手を僕の方に向ける。


「火よ。あの変態の元に飛んで行け!」


 どうやらルナちゃんの中で、僕の呼び名は変態に決まってしまったらしい。

 我ながらそう言われても仕方のない事を口にしているという自覚はあるが、いざそう呼ばれるとちょっとショックだ。

 一体どうすれば変態から恋人にジョブチェンジ出来るのだろう。


 僕に向かってゆっくりと小さな火の塊が飛んでくる。

 初級魔法の<火塊>だろう。

 しかし、やけに小さい。


 通常、魔法は込めた魔力に応じてその規模が変化するものだが、これだけ魔力を絞って魔法を行使するのは逆に難しいと思う。


 魔法学校に入学したばかりの子が、そこまで緻密な魔力制御を行えるとも思えないし、これはそもそもの魔力が少ないのかな?


 僕は自身に魔法が直撃するギリギリまで魔法を観察し、そして打ち消した。


「はぁ!? 今のどうやったの?」


 すると僕が魔法を打ち消したのが驚きだったのか。

 ルナちゃんは目を大きくかっぴらいて叫ぶ。


「どうって、ただ打ち消しただけだよ。水魔法をぶつけて相殺したんだ」

「相殺って……それあたしの魔法と全く同じ威力の魔法をぶつけないとそうはならないでしょ!? 学校の先生が理論上は可能だけど、実現は不可能って言ってたよ!?」


「実現は不可能って、現にこうして実現できてるんだが……」

「た、確かにそうだけど……。うーん? 先生が間違えて教えたのかな? こっちの先生は当たり前みたいな顔して実際にやってるし」


 まぁその先生がどれほどの魔法使いかは知らないが、言っている事は間違いと言い切れない。

 だって僕も自分以外に魔法の相殺を出来る人物は一人しか見たことがないし、ほとんどの文献でも実現不可能って書かれてるからね。


「さぁ、次は火以外の基本属性をそれぞれ使ってみて」

「はーい」


 一般に魔法の基本属性呼ばれるのは火、水、氷、雷、風の五種類。

 この五種類は、才能やセンスに寄らず、誰でも行使できる魔法であるためそう言われている。


 さて、ルナちゃんの実力はどんなもんかな?



~~~~~~



「なるほど。大体分かったよ」


 ルナちゃんの魔法を一通り見て僕が感じたのは、よく勉強しているなだった。


 <火塊>を観察した時にも思ったことだが、ルナちゃんの魔力量は極めて少ない。

 そしてだからこそ、魔法一つ一つの火力も控えめになってしまっている。

 だが欠点は本当にそれだけなのだ。


 魔法を詠唱しなければ発動出来ないのは、この時期の学生としては当然の事だし、初級魔法しか扱えないのも仕方ない。


 ただ魔法の行使に至る魔力の制御。

 魔力を魔法に変換するスムーズさ。

 そして魔法そのもののコントロール。

 全てが大人顔負けの素晴らしさだった。


 恐らく、魔力さえ豊富だったならば、今頃はSクラスの主席として名を馳せていた事だろう。

 このレベルに至るには、才能だけでも努力だけでもダメだ。その両方を併せ持って、初めてこの領域に至れる。


 魔法学校に入学して一ヵ月でこのレベルとか、もしかしたらこの子は天才なんじゃないか?

 ふっふっふ、これなら目標のSクラス昇格なんて楽勝だな。


「気付いたと思うんだけど、あたし魔力量がめちゃくちゃ少ないんだ」


 しかしルナちゃんはその自身の凄まじさに気付いていないらしい。

 しょんぼりしたようにそう口にする。


「うん、間違いなく少ないね。上級魔法一発でガス欠になるんじゃない?」

「ちょっと! 人が気にしてるんだから、少しは言葉を選んでよ!」

「えぇ、めんどくさい」

「なんて生徒への気配りが出来ない先生なの……」


 ダメなものはダメ。良いものは良い。

 そうハッキリと言えないような師弟関係じゃダメだと僕は思うんだよ。


「でもルナ。僕は君の魔法を見て理解したよ。君は、いずれSクラスの主席にもなりうる逸材だ。それは僕が保証しよう」

「は、はぁ? あたしが? お世辞はやめてよ先生。あたしなんて今にもBクラスに降格しそうなんだよ?」

「それは学校の先生達に見る目と教えるセンスがないからだ。僕を信じろ。きっと君は主席になれる!」


 恐らく学校の先生達は、発動した魔法という結果のみで採点しているのだろう。

 僕の在学時もそうだった。


 もし魔法の発動に至るプロセスまでも採点項目に含めていたのなら、ルナちゃんは間違いなくSクラス。

 間違ってもBクラスに降格なんて事態にはならないはずだ。  


「よくもまぁ、エリート揃いの魔法学校の教師に向かってそんな事言えるね」


 あの人達は確かに魔法師としては優秀な部類だが、それイコール優秀な教育者という訳では当然ない。

 僕も自分の魔法をなかなか理解してくれない教師には大変苦労したものだ。


「でも、まぁ先生がそこまで言うならちょこっとだけ信じてあげる。……本当にちょこっとだけだからね? この魔力がまるで無いあたしを頑張って高みに連れて行ってみなさい!」 

「いや君も頑張るんだよ……」


 なに自分は楽しようとしてるのさ。

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