Z office

●月◆日

ついに当日がやってきた。

メールでは、日常生活に必要なものは全て揃っていると言っていた。でも、演奏に必要なものは揃っていないのではないか。私はそう考えた。これは、オーディションではなくサバイバルなのだから。私は、ハノンやチェルシーの教本やソナタ集等の楽譜を持っていくことにした。あと、小さい頃に父から貰ったお守りも。

午前11時、外を見ると1台の車が止まった。見るからに高級そうな黒い車。

私は慌てて外に出た。

どうすれば良いのか分からず、その場で立ち尽くしていると、スーツをバッチリ着こなした運転手さんが出てきて、後方のドアを開けてくれた。私は何回も会釈しながら乗り込んだ。

「柴田琴音様、こちら◯◇ホテル、つきましてはCSG会場に向かいます。よろしいですね。」

私は慌てて頷いた。

「到着まで1時間弱です。ゆっくりおくつろぎ下さいませ。」

運転手さんはそう言って、静かに車を走らせた。


特にすることもなかったので、楽譜を眺めて過ごした。

私は、小さい頃から楽譜を眺めることが好きだった。楽譜は本。音符という言葉が物語を形成している。メロディというストーリーが私を虜にした。長ければ長いほど、その物語は壮大で紆余曲折がある。本に無駄なシーンなどないように、楽譜に無駄な音符など書かれておらず、適当に弾いて良い音など一つもない。休符でさえ、必要な音なのだ。


楽譜を眺めていたら、あっという間に会場に着いた。◯◇県民ホールはとても大きくて、よくコンサートが行われている場所でもあった。

運転手さんがドアを開け、私が降りるのをみると、

「こちらが会場です。これから開会式と顔合わせを行います。中ホールに入ってください。では、お気をつけて、いってらっしゃいませ。」

と送り出してくれた。


中ホールに進むと、3人の男女が先に座っていた。席に名前が書いてあったので、座ってしばらく待っていると、4人が入ってきた。

すると、スーツを着こなして、顔から首あたりを黒い布で覆っている男性が、舞台上からやってきた。

「今から、CSG開会式を行います。私、今回のCSGゲームマスターのRihitoと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。まず、責任者であるZ Office社長Ruraよりご挨拶を申し上げます。しかし、社長は本日、急用によりこちらの会場に来られなくなりました。そのため、私がメッセージをお預かりしています。失礼ながら、私が代読させて頂きます。」

私は、ZOfficeを知らなかった。調べてみても、検索は引っかからず、謎に満ちていた。

「CSG参加者の皆様、今回はご参加ありがとうございます。Z Officeの社長、Ruraです。本日は、急用のため参加できず申し訳ございませんでした。さて、皆さんはZ Officeの存在を知らずにこちらにいらっしゃっていると思います。Z Officeは、ある大企業の一部の社員が設立した、会社です。あくまでZ

Officeは仮の名前なので、インターネット等に載せないよう、徹底しています。ご協力をお願いします。長々とZ Officeについて話しましたが、最後に皆さんがCSGをきっかけに人生を大きく変えることが出来れば幸いです。2週間よろしくお願いいたします。」

私は凄く納得できた。

他の参加者も、皆納得したような顔をしていた。本当に未知の世界過ぎて皆不安だったんだと思う。

ZOfficeがまだ、信用できる場所なのかは分からない。でも、人生は変えてくれる。それは良い意味でも悪い意味でも。そんな気がした。

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