第110話 ハッキリ伝えろ馬鹿・・・

トンタテイーノ侯爵が捕まり、領地没収、お家取り潰しとなった。

駐屯していた奴隷軍団は多くが死ぬか捕まった。

今後、元老院で査問会が開かれ、これまでの事件の真相が明らかにされるだろう。


帝都の隠密達からの報告が騎士団運営委員会で発表された。

だが、誰も喜ぶ者はいなかった。

何故なら今更の事であったからである。

それよりも今後どこに行くかが問題であって、もはや日和見主義者達がどうなろうとどうでも良い事であった。

だがただ一点。

ランポに対しての復讐だけは成し遂げたかった。

全ての元凶は彼であり、彼がのうのうと生きている事は腹立たしい事であった。


「そろそろ切り豚運搬の任務ですか?」

「まだだ。まだ早い。大事なカードはギリギリまで出さない。」

「そうですか・・・」

「スサノオ。いつも苦労かけてすまない。」

「今更ですよ。それにそう言う運命だったのですよ。」


スサノオは父親でもある騎士団長にややぶっきらぼうに答えた。

それはそれでコウタにとっては気分の悪くなる態度ではあったのだが、飛空艦という狭い空間で衆目もある中、親子喧嘩をする訳にもいかず、騎士団長はややムスッとした顔で言った。


「焦るな。作戦まではまだ数週間ある。」

「承知しました、騎士団長。」


スサノオは3日ほど休暇を取った。

最近働きすぎだと周りから言われ、またオオニシ艦長や元第3中隊隊長で今は予備役扱いのヤマダ少佐からも注意されたので、仕方なくスサノオは休暇を取ることにした。


「休暇と言ってもな・・・」


以前と違い、生活は飛空艦の中である。

する事が無い。

だいたいほぼ職場である環境でゆっくりとは休めない。

騎士団ライブラリーの膨大なデータは飛空艦のデータベースに移植されていて、自室で動画を見て楽しむ事は出来る。

士官級は一応部屋を与えられるとはいえ、ベットとちょっとしたスペースがあるだけ。

日本のカプセルホテルを少し広くしただけのスペースだ。

そんな狭い部屋で動画をヘッドホンをつけて見るので、正直思う存分楽しむ事は出来ない。

と言ってリサとデートをするにも彼女は勤務中だと言うし、例えデートをするにも場所は限られる。

先日のように無人島に降りるか、浮遊島に降りなければ楽しめ無い。

仕方無く、スサノオは休憩室で椅子に一人寂しく座りながらぼーっと窓から外を眺めていた。


現在およそ高度36,000フィート。

帝国軍が迫ってくる様子は無く、魔力消費を抑えるため、飛空艦はあえて高い高度で飛行している。

眼下は天候が悪いのか雲だらけで面白みが無い。

飛空艦隊はやっと塩湖の1/3ほどを進んだところで、この塩湖を通り過ぎるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

魔石の補充は終わっているとはいえ、いろいろな生活用品も作るか補給しなければならない。

その為にまだ暫くこの塩湖にある浮遊島や島を巡る事になりそうだ。

その前に荷物を届けに、一旦来た道を戻ると言う話も検討されている。


「ファ〜ッ」


スサノオは欠伸をしながら伸びをした。


ガシャーン!


突然大きな音がしたので、スサノオは振り返った。

するとそこにはリンがいた。

リンの足元にはお盆と飛び散ったドリンクとスナックがばら撒かれていた。


「リン中尉。久しぶりだな・・・っとその前に大丈夫か?」


そう言ってスサノオはそばに行き、落ちていた物を拾い始めた。


「え、あ、ええ。お久しぶりです。大尉。あ、そのすみません。だ、大丈夫ですよ。」


そう言って、リンは床に屈み一緒に拾い始め手を伸ばした。

するとリンの手にスサノオの手が触れた。


「!!!!!」

「リン中尉?」

「あ、いえ、なんでもありません。なんでも。」


リンは真っ赤になって答えた。


「?」


スサノオはお盆を拾い、食べ物を拾い集めると言った。


「これじゃあ台無しだな。コーヒーだろ?いや、カフェオレかな?奢るよ。」

「え?そんな私が自分で落としたのですから良いですよ!」

「良いから遠慮するなよ。隊長手当てで結構ポイントは貰っているんだ。けど使い道が無くて困っているんだよ。」


逃避行を始めてから、騎士団と元領民達にはお金の代わりに全員に渡しているスマホを通じてポイントが配られている。

スサノオは大尉であり飛行隊長であったので、ポイントは多くもらっているが、さりとて買えるものは飛空艦では限られているので使い道に困っていた。

なので奢る事にしたのだ。


「す、すみません・・・」

「カフェオレで良い?」

「え、ええ・・・」


スサノオは自販機のカフェオレのボタンを押すとスマホの画面をリーダーにかざした。

ピピっと言う音がして、カップが落ちてカフェオレが入れられた。


「はい、どうぞ。」

「ありがとうございます。」


二人は休憩室の椅子に並んで座った。


なんで?

なんで大尉がここにいるのよー!


リンは緊張して、カフェオレを飲んでも味がしなかった。

どうしよう・・・会話続かないし・・・。


「今日は休暇?」

「え?はい?ええそうです・・・ここで同期と待ち合わせしていたんですが・・・」

「あれ?じゃあリサも?」

「ええ。その筈なんですけど・・・」

「おかしいな・・・そんな休暇だなんて言っていなかったのにな?」


あれ?

変だな?

勤務表も確か・・・ん?


「え?そうなんですか?」

「同期だけで集まりたかったのかな?」

「そうなんですかね?」


シーン・・・・・。


静かになった。

スサノオはリンをマジマジと見た。


そう言えばいつから会っていないだろう?

2,000名の人間が乗っているとはいえ、リンはCIC勤務だし会わないわけは無いのに、何故か会っていない。

ま、以前のように数時間毎に戦闘に行くわけでは無いので、それ程CICに行く用事は無くなったのだが、実際にかなり長いこと会っていない気がする。


スサノオは不思議に思っていた。


「リン中尉。なんか久しく会っていない気がするけど、いつぶりだろう?」

「へッ?そ、そうですか?」


リンは焦った。

これまでリンはわざとスサノオに会わないようにしていたのだ。

CICにスサノオが現れると、わざと別の用があると言ってCICを出て行ったり、休憩してくると言って席を外したりした。

なのでドラゴンファイターからリンが降りて以来、数ヶ月程スサノオとは話していないのだ。


「そう言えば、この前のバーベキューの時もいなかったよね・・・。そんなにCICの業務って代えが効かないの?アルベルトは来てたのに・・・」

「え、ええ。そうなんです。」

「ふーん。」


その頃、休憩室の入口付近にはリサを含めた同期が集まっていた。


「ねえ、リサ。本当に良かったの?」

「うん。リンに気持ちの整理つかせるにはこう言う方法しか無いと思ったけれど・・・作戦失敗したかも。」

「でも・・・大尉がリンを好きになったらどうするの?」

「それは無いわ。」

「そ、即答ね。」

「何年一緒に過ごしてきたと思ってるの?スサノオの考えている事は手に取るようにわかるわ。」

「大尉は男・・・甘い・・・危険。」

「だ、大丈夫よ。大丈夫!ねえ、ナオ?」

「そこでなんで私に振るのよ?」

「いや・・・だって・・・ねえ?」

「やっぱり心配してる・・・。」

「う、そりゃ心配は心配よ・・・でもリンも心配・・・」

「複雑怪奇・・・話し進まない・・・我慢限界・・・。」


そう言うとサラは隠れていた入口からいきなり休憩室の中へ入っていった。


「サ、サラ!?」

「ちょっ、ちょっと!」

「だ、だれか止めて!」


後ろでコソコソと声が聞こえたが、サラはお構いなしに二人の元に向かった。

そしてスサノオの前に仁王立ちになってスサノオを睨みつけた。


「サラ軍曹?」

「サラ?」


バチーーーーンッ!


サラがいきなりスサノオの頬を叩いた。

いい音だった。


「「「「!!!!!」」」」

「!?」


同期組唖然。

スサノオは鳩が豆鉄砲を喰らった顔・・・。


「リア充爆発しろ・・・・・」

「な、な、な、な、何するんだよ軍曹!」


スサノオは打たれた頬を摩りながら言った。

サラは気にせず、リンに向かうと言った。


「気持ちハッキリ伝えろ馬鹿・・・」


そう言うと、サラはクルリと反転してその場を立ち去った。


後には目を丸くした面々が残された。

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