第111話 笑っている方がいい

ノブリは破壊された拠点で、1ヶ月前に壊された建物や飛竜の厩舎の再建に勤しんでいた。

”残党達”・・・スサノオだったのだが・・・の攻撃によって建物は滅茶苦茶に壊され、10匹いた大型飛竜は4匹に減った。

これまでで最大の被害だった。

追跡すれば文字通り全滅する可能性もある。

この為、追跡する事は暫くやめて、帝国に増援を求め待つことにした。

その事に対して煩く言って来る者がいた。

ランポの子飼い貴族、アストット子爵の息子イデオットだ。


「何故だ?何故追跡せぬのだ?やっと見つけたのだぞ!」

「この戦力でですか?お忘れですか?奴隷軍団は500匹以上の飛竜と500隻以上の飛竜艇で大型飛竜を囲ませたのに全滅したのですよ?たった4匹の大型飛竜と数匹の飛竜で何が出来るのですか?」

「う、煩い!庶民風情が!だれがこの軍団を率いて・・・」

「ただし、帝国軍隊長の同意が無ければ勝手に・・・」

「グッ・・・絶対に後悔させてやるぞ!」


そう言ってイデオットはプリプリと怒って再建された建物に入って行った。

ま、出ても良いんだが、死にたく無いんでね。

だいたい、真の上司はランポ派の子飼い貴族では無くエスパード侯爵だ。

侯爵からはなるべく金を使わせるように仕向けろと言われている。

なので、公爵領残党に対抗する為と称して色々と贅沢な装備を薦めた。

大型飛竜を用意させ、それに風魔法の魔法陣が付与されている飛竜用の鎧も用意させた。

これだけでもかなりの金額になるのだが、加えて隠蔽魔法をかける事が出来る魔道士と大量の魔石も用意させた。

もっとも“残党達”にはあっさりと見つけられてしまったが。

更に氷結の雲を飛び越えたので補給等で費用が半端なくかかる。

合わせたら相当な金がかかっている筈だ。

エスパードから指示された目標はほぼ達成している。

だが、いつまでこの追跡が続くのか不明だった。

そろそろ帝都で動きがあっても良い頃なのだが・・・。


ノブリは厩舎の近くの草むらに寝っ転がると空を眺めながら思った。


あいつ生きているのかな?


公爵領の戦闘の際に散々苦しめられたが、途中から気配が無くなった。

しかし、最近の戦闘で似たような攻撃を再び受け始めた。

恐らく復活したのだろう。

相変わらず敵の本当の姿を見た事は無いが、一度サシで勝負したい。

空をぼんやりと見ながらそう思っていた。


そんな時だった。

突然、見張りの兵が叫んだ。


「早飛竜だ!早飛竜がこっちに来るぞ!」



ノブリが早飛竜を迎えているころ・・・。

スサノオは自室で悶々としていた。

リンが、リンが俺の事を想っている?

嘘だろ?

何故?

なんで?

リア充爆発しろって言っていたリンが何故?

いやいや!

俺はリサ一筋だ!

浮気なんか絶対にしない!

しないよな?

しないと思う・・・。

でも同期5人組って実は美人揃いなんだよな・・・。

リンも・・・。

いやダメだ!

絶対にダメ!

公爵殿下のようになっては絶対ダメだ!

どうしよう?

どう気持ちの整理を付けたら良いんだ?


「ピロン♪」


部屋の呼び鈴が鳴った。

公爵領の騎士団寮とは違う音で呼び鈴がなる。

誰だよ?

誰にも会いたく無いんだよ!


「ピロン♪ピロン♪」


だから!誰にも会いたく無いんだって!


「ピロピロピロピロピロピロピロ・・・」


ったくうるせ〜。

ガチャッ!


「ガーーーーーーッ!うるせー!1人にしてくれ・・・ってリサ?」

「こんにちは。お目覚めですか?」


スサノオがドアを開けるとリサが立っていた。


「いや。ちょっと1人になりたくて・・・」

「前にもこんな事あったわね。」

「うん、そうだね。逆だったけどね。」


スサノオは頭を掻きながら応えた。

するとリサはスサノオの首に腕を回して言った。


「お返しよ。」


そう言ってリサはスサノオの唇にキスをした。

スサノオは腕をリサの体に回しそのまま抱きしめた。

だがスサノオは後めたさを感じていた。

暫くして顔が離れるとリサが言った。


「入れてくれないの?」

「ダメ。」

「どうして?」

「こんな狭い部屋に?」

「いいわよ。」

「規則だし。」

「でも他の人は破っているわよ。」

「隊長自ら破るわけには・・・」

「ヤマダ中隊長は平気で破っていたのに?」

「え!?本当に?」

「嘘よ。ガッカリした?」

「リサ〜!」

「でも二人きりで話したい事があるの。ちょっと付き合ってくれない?」


そう言うとリサはスサノオを部屋の外に連れ出した。

リサが連れ出したのは飛行甲板だった。


「あら姫様じゃない。デート?」

「あ、おばさんこんにちは。商売は順調?」

「ええ、お陰様でね。何か召しあがる?」

「じゃあ、ミルクティーをお願い。」

「分かったわ。そちらの士官様は?」

「え?ああ、コーヒーで・・・」


場所は飛行甲板にある元格納庫だった。

以前は24機のドラゴンファイターに2機のシーホーク、それに2機のオスプレイが格納庫に納められていたが、今は機数が減り、余った格納庫は元領民のために解放されて、小さな商店街のようになっていた。

勿論、彼らには契約魔法が施されると同時に真実が教えられていて、リサが生存していた事実も周知されていた。

その事実を元領民達が知った時、公爵家がほぼ全滅したと思い込んでいた彼らは涙を流して喜んだ。


スサノオとリサは、粗末なパイプ椅子に座って手にそれぞれが注文した飲み物を持った。


「こんな店があったなんて知らなかった・・・」

「商店街は知っていたでしょ?」

「うん。存在は知っていたけど、まさか飛行甲板の横にあるとは気がつか無かった。」

「まあ、シャッターを降ろしてるから気付きにくいわよね。灯台足元暗しってところね。ここは整備士さん達の憩いの場になっているんだって。以前アヤに教えてもらったの。」


そう言うと、リサは手にしたミルクティーを啜った。


「リサ・・・」

「何?」

「リンの事、知っていたんだね?」


リサは一瞬飲む動作を止めた。


「うん。知っていたと言うよりも気づいていた・・・」


リサは静かにカップを降ろした。


「そうだったんだ。」

「もう鈍感なんだから・・・お兄様ですら気づいていたのに・・・」

「えッ?あいつが!?」

「そりゃそうよ。リンの振る舞いを見て気がつかないのはスサノオくらいよ。」

「だって・・・リサ以外にそんな目で見た事ないし・・・」


リサは顔をスサノオに近づけた。


「嬉しい♡」


そう言ってスサノオの頬にキスをした。


「でもね・・・親友も大事にしたいの・・・。だってほら・・・私ずっと宮殿で育ったでしょ?親友と呼べる人は少ないのよ。だから・・・うん・・・壊さない程度に・・・リンの気持ちをわかってほしいかな・・・。」

「でも、どうしたらいいんだ?俺はリサ一筋なんだ。だけど傷つけたく無い。本当にどうしたら・・・」


パコーンッ!


突然スサノオの頭上にお盆が降り注いだ。

なんで最近こんな事ばかり・・・と思って上を見ると、店主のおばさんが仁王立ちになってスサノオに言った。


「甘えるんじゃないよ、この色男!玉ついてんだろ!情け無い!そんな事ぐらい自分で考えろ!」



リンは飛空艦の上部にある、ヘリウムガス嚢の近くにいた。

ここにはガス嚢を膨らましたり、縮めたりする魔導で動く空気ポンプがあり、整備の時以外、滅多に人は入らなかった。

と言うより、整備用のランプが灯っているだけで暗いため、好き好んでこの場所に入る人物はいない。

リンは最近この場所を見つけ、一人になりたい時はここに来ていた。

彼女も悶々としていた。

どうしてもスサノオに対する想いを棄てる事が出来なくなっていた。

その想いを必死に隠そうとしていたが、サラにバラされてしまった。

あの様子からすると、どうやら同期全員にはバレバレだった様子だ。


どうしよう?

リサはどう思っているんだろう?

どうすればいいの?

これで苦労を共にした仲間と仲違いする事になるのかな?

地獄の特訓を共に乗り越え、戦いでは死線を共にくぐり抜けて生還した仲間なのに?


リンは親友を裏切る罪悪感、それに伴って失う仲間、その結果、訪れるであろう孤独を想像した。

仲間の冷たい視線に晒される自分。

誰とも話せなくなってしまう自分。

そして・・・。


リンは寂しくなって、一人でシクシクと泣き始めた。


「いた・・・泣いてるの・・・・・?」


突然親友の一人が現れた。


「ヒック・・・ヒック・・・サ、サラ?・・・ヒック・・・何故ここが・・・ヒック・・・分かったの?・・・ズズ〜〜〜ッ!」


リンは真っ赤になった鼻を啜りながらサラを見た。


「ん・・・何となく・・・」


サラは不思議ちゃんだったが、何故かこう言うところは鋭い。

誰も思いつかない場所にリンがいる事を分かってしまった。

サラは心配して来てくれたのだが、リンは少し気まずい感じがした。


「ごめん、サラ・・・」


一人になりたいの、だから・・・と言おうとしてリンは立ち上がりかけた。

しかし、その腕をサラが掴んだ。


「この前はごめん・・・・・見ていられなかった・・・。」

「サラ?」


リンはサラを見た。

いつものように表情は乏しいが、目を伏せがちにしている。


「いいのよ・・・でもなんで大尉をぶったの?」

「リンが可哀想だったから・・・」


親友は親友なんだ・・・私の事を思ってそれで・・・。


リンは思わずサラを抱きしめた。


「ありがとう、ありがとう・・・」

「私・・・百合属性では無い・・・」

「何、馬鹿な事言ってるのよ。」


そう言ってリンは笑った。


「・・・リンは笑っている方が良い・・・」

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