第108話 家族会議

スサノオ達の騎士団は塩湖の無人島で2週間余り休息を取ると、逃避行を続ける為に離陸して再び飛行を始めた。

無人島では騎士団員とその家族や元領民達は湖水浴やバーベキューをして休養していたが、同時に高純度魔石の製造も行った。

高純度魔石の製造は、持ち運んでいる製造機器で行っている。

まず大砲のような大きな金属製の長い筒を垂直に立て、底にクズ魔石を入れる。

次に専用の溶液を筒に入れ、上部には小さな純正の魔石を吊るす。

そして筒に蓋をして高温で温め、内部を高温高圧にする。

高温高圧にするとクズ魔石が溶解すると共に、筒の中で溶液が対流を起こし、魔石を構成する成分が純正の魔石に付着し魔石が大きくなる。

このようにして高純度の魔石を作るのだが、通常地球では鉱石をこの製造法で満足な大きさまでするのに2〜3ヶ月、大きな物だと4ヶ月かかる。

だがこの世界には魔法がある。

魔法によって反応速度を大幅に短縮し、その結果1週間ほどで高純度魔石が出来上がるようになった。


(※ここで述べた製造方法は人工水晶の作り方です。電子部品メーカーのホームページに詳しい事が載っていますので、興味がある人は読んで見てください。ちなみに電子部品用の人工水晶が1週間で出来上がったらノーベル賞ものです。)


出来上がった魔石と元々持っていた魔石を合わせれば、飛空艦がこの世界を5周くらい回れるくらいの量になるが、金銭や商品の取引、その他諸々のエネルギー源にも使うので、保管庫は常に満杯にしたかった。

なので騎士団は事ある毎にクズ魔石を入手しておく事にしていた。



休養と魔石の製造が終わり、騎士団の艦隊は再び空を進み始めたが、レーダーが帝国軍の部隊を捕らえた。


本当にしつこい。

飛空艦隊の面々は心底そのように思った。


しかし距離は180マイル、約330キロとだいぶ離れているので脅威にはなり得なかった。

それに向こうはこちらの存在に全く気付いていないであろう。

飛空艦は最大で大型飛竜並みの魔力を使うが、この距離で飛竜の魔力を感知するのはまず不可能だ。

騎士団の現代日本の技術との組み合わせが無い限り、こちらを見つける事はまず無い。

ただし、下手に近づけば見つかる可能性は高い。

何しろ公爵領での戦い以来、帝国軍は騎士団のドラゴンファイターの見つけ方を覚えてししまったのだ。

それはやっと正当な評価を得たノブリとタントによりもたらされたものだったが、そんな彼らでも本当の騎士団の姿を知っている訳では無かった。

彼らはよもや3,000名もの人間が逃走しているとは夢にも思っていない。

せいぜい100名、多くても300名ぐらいが逃走していると思っている。

だが、油断は全く出来ない。

向こうがこちらの存在に気付く以上、偵察に近づくだけでも危険だった。

帝国軍を見つけたら急いで立ち去る。

これが今の騎士団の方針だった。

ただし、脅威になりそうであれば、ある程度の戦力は排除する事にしていた。


飛空艦はスピードを250ノットに上げ、急速に帝国軍から離れて行った。

帝国軍は騎士団が以前、クズ魔石と食料を調達した浮遊島に向かったようであり、周り道をしてくれている。

向こうが逃走に気付いても追いつく事は不可能だ。

暫く安心して飛行を続ける事が出来る。

だが騎士団は決して逃げているばかりでは無かった。

ロードリー2世が死んだとしても、打つ手は打つ事にしている。

それは復讐でもあった。


「皆集まってもらってありがとう。では始めるか。」


騎士団長のコウタ・サカイが集まったメンバーにそう話しかけた。

今日は生き残った公爵家の月に一度の家族会議の日だ。

実質、騎士団トップの話し合いの場でもある。

これとは別に騎士団運営委員会が存在する。

元領民や騎士団の各部署の代表者、それに公爵家関係者が集まっての報告会を行い方針の確認や資源の分配、問題点の解決はその委員会で最終決定している。

実質議会のようなものだ。


公爵家の集まりには、アルベルトやリサの公爵家生き残りの他、バレント/ロードリー3世夫人の地位にある赤ん坊を抱いたフローラとその祖父マンサ元侯爵、それに本人の預かり知らぬところでいつのまにかリサの婚約者候補とされてしまったスサノオと、それと同じく全く知らない内にアルベルトの婚約者候補とされたナオが参加していた。


いいのか?

まだ婚約も何もリサとそんな話しをしていないし、まだ恋人としての立場の筈なのに?

こんな強引に決めるなんて全く大人って・・・。


と思いつつ、既にこの世界ではとっくに成人の年齢でかつ20人の部下を持つ立場のスサノオはこう言う時だけ、自分は子供であると思う事にしているのであった。


「まず、帝都の状況についてマンサ殿から説明をしてもらおうかと思う。マンサ殿。」

「うむ。では説明したいと思う。」


マンサは契約魔法を施されてから騎士団の正体とその技術を知ったが、驚きの連続であった。

周りからは驚きすぎて心臓発作を起こすのではと心配されたが、生来の好奇心が優っていたようで、年老いているにも関わらず、騎士団の現代地球技術を吸収してある程度使いこなす様になった。

今では平気で電話を使っている。

ただし、PCやスマホは理解するには難しいようで、使えるようになるにはまだ時間がかかりそうだった。


「ゴホン。帝都の様子・・・と言うよりも元老院だが、相変わらず腐っとるようじゃ。ランポが今度は自分の仲間だったトンタテイーノ侯爵の排除に動き出しおった。それも濡れ衣を着せてな。もっとも、今ではランポの悪い噂を隠密達が広げてくれたお陰で、ランポ派だったトンタテイーノを助ける者は一人もおらんがな。このまま放って置こうと思うぞ。」

「何故、排除を?」


リサが聞いた。


「領地を乗っ取るつもりなのじゃ。流石に我らを追うのに金がかかりすぎて困窮しておるようじゃ。そこで前から自分の手駒にしておったトンタテイーノの領地を奪う事にしたようじゃ。」

「まあ、お可愛いそう。」


リサはまるでどっかのアニメキャラのように言った。

スサノオはそれを見て苦笑いした。


「それで今後はどうなるのです?」


アルベルトが質問した。

彼は政治に関わりたく無いと宣言してたものの、騎士団の行く末に関わる為、やはり気になっていた。


「先程申した通り放置じゃ・・・と言うのは建前で本音では、是非潰してもらいたいと思っておる。ただし、元老院に処分を決めさせたらまたランポの良いように決められてしまう恐れがある。そこで我が息子のブスケがコントロールしようとしたのじゃが・・・なんとエスパードがこちらの意図を読んだように動いた。」

「意図ですか?」

「ああ、フローラ。敵であった奴がだ!あれ程わしを嫌っておった奴がこちらの行きたい方向に話しを持って行きおった!あの愚かな奴がだ!驚いた!あの愚か者のエスパードがだ!あやつが!あの愚か者が・・・」


年寄りは拘ると、そこから話が進まなくなる。

人間は年を取るとリピート機能が強化されるらしく、同じ話しを何回もする。

若者には耐えられない。


爺さん・・・。

お爺ちゃん・・・。

じじい・・・。

お爺さん・・・。

お祖父様・・・。


「「「「「話しを進めて!」」」」」


スサノオ、リサ、アルベルト、ナオ、フローラが声を揃えて言った。


「おう、すまんすまん。で、そのエスパードがな、皇帝の決裁を仰ぐよう元老院で提案しおった。本来ならば息子のブスケがそのようにコントロールする筈だったのじゃが、エスパードがその役割を担った。」

「何故、エスパード侯爵様はそのような振る舞いを?」

「公爵殿下の手紙が効いたようじゃ。あの手紙には元老院の怠慢を非難する文言があった。恐らくそれがエスパードの胸に刺さったのじゃろう・・・と帝都の隠密達が申しておった。」

「で、今後は?」

「今後は皇帝陛下の決裁に委ねる事になるが、領地没収、爵位剥奪、お家取り潰しとなる。」

「それはこちらからの要請で?」

「ああ。そうだ。」


横からサカイ騎士団長が応えた。


「皇帝陛下とは隠密を通じて話し合いをしている。これで仇の一人が潰れる訳だ。」

「ええ。そうですね・・・。」


フローラは唇を噛み締めながら言った。


「その後、トンタテイーノ領はどうなるのです?」

「奴隷兵は追い出され、帝国軍に占領される事になる。」


騎士団長がニヤリと笑った。


「そして奴隷兵達はランポの領地に戻らざるを得なくなり、更に困窮する。」

「例の切り豚はまだ出さないんですか?」

「まだじゃ。まだその時ではない。ランポにとどめが刺せると確信を持てる時まで待つのじゃ。」

「ますます帝都から離れて行くんだけど・・・。」

「ま、頑張って運んでくれ。」

「スサノオすまないな。また嫌な役割を押し付ける。」


うへ〜。

当面先だろうけど・・・。

あれを帝都まで運ぶのか?


スサノオは先を思うとウンザリした。


「大丈夫。その時は私も一緒だから。」


リサが笑顔でスサノオに言った。


うん。

可愛い。


スサノオは少し前向きになった。

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