第106話 レジャー

ランポはイライラしていた。

何故だ?

何故残党を捕えられ無い?

報告によれば、戦闘が行われた際“たかだか3割兵を失っているだけ“の筈だぞ?

つまりは全戦力が失われた訳ではない。

失った戦力は直ぐに補充させているし、拠点を作る事も命じている。

これは指揮官の怠慢以外に考えられない!

こんな時にロークリオがいれば!


ランポはこのように考えていたが、いろいろと間違っていた。


第1に戦力の3割を失うと言うのは、地球では全滅の判定になる。

何故なら組織だった戦いが維持出来なくなるからだ。

分かりやすい例で言えばサッカーのパワープレーだ。

11人のうち、一人でも欠ければシステムが狂いかなり不利になる。

これが命のやり取りを行う戦場であれば尚更だ。


第2にロークリオと比べ指揮官は格段に優秀だった。

ただし現場のノブリとタントの事だが。

この二人の実戦経験者がいなかったら、損失は3割どころか確実に5割を超えていた。

他の司令官、ランポの子飼い貴族の子息が多かったが、ランポが嫌ってる筈のタイプでプライドばかし高く、融通が効かず、しばしばノブリ達と衝突していた。

そして無謀な事をしでかす事が多く、終いには戦死してしまっていた。


第3にランポは軍事には全くの素人だった。

武器さえあれば何とかなる、そう思い込んでいた。

正確には、ランポとて補給の必要性は知ってはいるものの、ほぼ軽視していて、補給や補充はままならず、現場は疲弊していた。

そして遂には、残党達は氷結の雲を飛び越えたとの情報がもたらされた。

それでも追跡を続けるよう命じたが、子飼い貴族達の疲弊はかなりのものであった。

彼らの財政状況はもはや風前の灯になりつつあり、いつ爵位を取り上げられてもおかしく無いぐらいに困窮し始めた。


どうするどうする?


ランポは極度に神経質となり、事あるごとに周りに怒鳴り散らしていた。

結果、ランポに取って機嫌が悪くなる情報は・・・例えばまたしても戦力が減った・・・ランポの耳に入らなくなった。

それでも現状が厳しいのは変わりは無く、ランポは打開策を考え続けある事を思いついた。

それは侯爵をもう一人葬ってしまう事だった。

しかも子飼いの中でも最も大物な人物だ。

トンタテイーノ侯爵だ。

愚鈍なトンタテイーノは百戦錬磨のサモン侯爵よりも容易に陥す事が出来る。

彼を貶めて領地を完全に奪ってしまえば、当面資金繰りには困らなくなる。

早速ランポは策を練り始めた。



公爵領から逃げて数ヶ月。

騎士団の飛空艦隊は無人島に着陸した。

ここは調査艦が以前探索した場所で、訓練島のように泥沼だらけで川が無いと言う事は無く、小川が流れ丘があり、まあまあまともに見えた。

ただし、ジャングルはあった。

そして訓練島よりも暑かった。

なので人はいなく無人島になっていたが、ここで暫く休養を取る事にした。

騎士団は、たまにこうして陸上へ降りて1〜2週間ぐらい休養をとる時間を設けていた。

こうしないと、いつまでも空の上で揺られ、また狭い飛空艦や輸送艦にずっと閉じ込めれているのでストレスが溜まりやすく、健康に良く無いからだ。

ただし、引き篭もり癖のあるネヅに取っては意味の無い事ではあったが。


休養を取る間、飛空艦と輸送艦を交代でAWACS(早期警戒管制機)代わりにして周りを警戒すると共に、島の所々に結界用の魔法陣を敷き、島の様子が外から覗えずまた近づけ無いようにした。

異常があれば直ぐにアラートを発する事になっていたが、既に氷結の雲を一つ越し帝国軍の飽和攻撃の可能性は無いため、アラート要員だけで対応出来る見込みだった。

ただし、スサノオとリサ、それにナオはアラートがかかったら直ぐに飛空艦へ行かなければならなかった。

それでも休みは休みだ。

彼らなりに十分楽しむつもりだった。


「うーん。久しぶりの陸地だ〜。」

「やっぱり人間は陸上生物だよな〜。」


スサノオはアルベルトの車椅子を押しながら、島の砂浜でしみじみと語るのであった。

飛空艦は大型と言っても、元々は兵器であり居住空間は非常に狭かった。

このため、広い大地に降り立ち空を見上げるのは格別な贅沢に感じた。

そんな感慨に浸っていると、近づく二つの人影があった。


「ス、スサノオ・・・ど、どう?」

「ダーリン・・・私は?」


リサとナオがスサノオとアルベルトの前に立った。

二人とも水着を着ている。


リサは濃い青を基調とした色に斜めの白い線が入ったビキニを着ていた。

白い肌に長い銀色の髪が流れ、更に出るとこは出て、締まっているところは締まっている理想的なプロポーション。

対するナオは、赤色のビキニで、男の視線を釘付けにせんばかりに胸は大きく、別の意味で理想的なプロポーション。


スサノオとアルベルトは固まってしまった。


「いい・・・」

「言葉が出ない・・・」


リサもナオも恥ずかしそうにモジモジした。


「こらー!そこの変態二人!」


遠くからアヤとサラが叫んだ。


「さっさと手伝ってよ!」

「料理が出来ない・・・」

「あ、ごめんごめん。」


そう言うとスサノオはアヤとサラが準備しているテントに向かいつつ、チラッとリサを見た。


「変・・・かな・・・」

「いや・・・かわいい・・・・・。」


ぽた・・・ぽた・・・。


「???」


アルベルトは頭に何か液体が落ちて来たので、思わず手で触って見た。

頭を触った手を見ると赤い液体が・・・。

振り返って思わず叫んだ。


「スサノオ!鼻!鼻!」

「えッ?えッ?」


スサノオの鼻からツツーと赤い液体が流れ出していた。

リサの水着姿を見てのぼせてしまったのだ。

以前にリサを見てのぼせ、鼻血を出して気絶した事があった。

だが今回は気絶せずに何とか踏みとどまった。

これもそれもドラゴンファイターで鍛えられたからか?とアルベルトは余計な事を思った。


「す、すまんすまん!悪いナオ!代わってくれ!」

「え?え?え?」

「スサノオ!?大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。いや、その何というかリサがその・・・」

「・・・・・スサノオのスケベ・・・」

「な、なにーッ!スサノオ!我が妹に・・・」

「あらダーリン?私ではダメなの?」

「い、いや、そ、そんな事は・・・」

「だからーッ!早くここに来て手伝って!」

「リア充爆発しろ・・・」


アヤとサラが加わってしっちゃかめっちゃかの大騒ぎとなった。

やがて全員落ち着くと、皆でワイワイとバーベキューを始めた。

そしてスサノオとリサは手を繋いで、湖面に泳ぎに行ってしまった。

後にはアルベルト、ナオ、アヤ、サラの4人が残された。


「ねえ・・・リンはやっぱり・・・」


アヤが腫れ物に触れるように切り出した。


「ま、あれだけ激しい闘いで一緒だったからね・・・。」

「一応誘ったんだよ。でも任務があるからって・・・。」

「中佐にかけあうよって言ったんだがな・・・」

「リア充爆発しろ・・・」

「誰に言ってんの?」

「本人達は気づいているの?」

「妹は気づいていると思う。だがスサノオはな・・・」

「親友同士の三角関係ね・・・」

「リア充爆発しろ・・・」

「だから誰に言ってんのよ・・・(・Д・) 」


リンの事は同期グループ+リア充クワッド−スサノオには頭の痛い問題であった。

が、スサノオは明らかに自覚が無いし、リサ一筋だ。

かわいそうだが、リンには諦めさせるしか無い。

だが、気持ちだけでも伝えてあげても・・・。

皆、悶々とした気分であった。

そんな時だった。

何も勘付かない鈍感男が戻って来た。


「はあ〜疲れた〜。焼きそば残ってる?あと飲み物〜。」


ボカッ!


突然、アルベルトがスサノオの尻を殴った。

すると他のメンバーも・・・。


ボカッ!

ドコッ!

カーンッ!

「リア充爆発しろ・・・」


最後のはサラだった。

持っていた鍋で殴ったのだ。


「痛い!みんな何するんだよ〜!」


スサノオは涙目で訴えた。

すると、


「「「「別に〜〜〜」」」」


全員声を揃えて答えた。


リサは困ったような顔をして、それでも微笑みながらその様子を見ていた。


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