第105話 商売

帝国軍の拠点を潰すと、騎士団はオスプレイと飛竜艇を塩湖に浮かんでいる割と大きめの浮遊島へ送った。

そして飛竜艇だけ隠蔽魔法を解くと、発着場に近づき着陸した。

オスプレイは隠蔽魔法をしながら近くで旋回して警戒した。


「コンニチハ。ワタシ、ショウニン。モノ、ウリタイ。」


公爵領の元領民で商人だったコメルシーが飛竜艇から降りて、役人と思われる現地の人間に話しかけた。

公爵領のあった帝国では酷い方言はあったが、ほぼ統一されていて言葉に不自由はしてなかった。

しかし、氷結の雲を越えると言語は完全に変わる。

コメルシーは付け焼き刃で覚えた言葉でなんとかコミュニケーションを取ろうとした。


「帝国から来られたのですね?大丈夫ですよ。通じますよ。」


コメルシーはホッとした。

話してみると、相手も商人だった。

彼は、ネゴシーと名乗った。

役人との通訳をしてくれて難なく領地に入るように計らってくれた。

ネゴシーが何故帝国の言葉を解せたかと言うと、彼は氷結の雲を命懸けで何度か乗り越えて帝国に行き商売をしていたからだ。


これで何とかいろいろと調達出来そうだ。

当面は食料が欲しい。

艦隊は一年分の食料を積んでいるが、新鮮な野菜はその都度調達しておきたい。

まだあと一年分はあるとは言え、食糧は出来るだけ補充しておきたい。

あと、クズ魔石も入手して補充したかった。

こちらは精錬して純粋な魔石に変えている。

装置は輸送艦に積んでいるし、無人島か無人の浮遊島があればそこで魔石を精製する予定だ。

魔石は魔導エンジンの燃料であるので、なるべく補充して置かなければならなかった。


商品をただで売れと言うつもりは無い。

騎士団の力があればそれは可能かも知れないが、騎士団は強盗では無い。

流浪の身とは言え、騎士団にだって売れる物がある。

だからこそ商人だったコメルシーが騎士団の調達役となったのだ。


売れる商品その1。

それは回復ポーションだ。

回復ポーションはロードリー公爵領の特産品だ。

と言っても騎士団が持ち込んだ栄養ドリンクやヤク◯ト◯◯◯◯をコピーして回復魔法を加えた物だったが・・・。

実はこれは帝国ではベストセラーの商品で、特に冒険者達には必需品となった物だ。

薄めて売ってはいたが、人気は絶大だった。

ただし、公爵領が灰塵に帰してからは供給源が無くなり市場から消え、今では貴重品になっている。

隠密達の情報では、帝都では冒険者の成功報酬と同じ金額で取引されているとの事であった。

逆に公爵領を滅ぼした供給源を絶ったランポは、冒険者だった奴隷監視役を死なせた事もあり、冒険者達からは非常に嫌われるようになった。


売れる商品その2。

それは高純度の魔石だ。

これも公爵領の特産品で、実はクズ魔石から作った物だ。

当然回復ポーションと同じように、今では帝国では貴重品になっている。

多くを売る事は出来ないが、しかしこの魔石を売る事によって多くのクズ魔石を得られる事の方が余程良いのだ。

何せ、この一個と引き換えに数個、上手く行けば数十個の魔石をクズ魔石から作る事ができるのだ。


これら二つの商品を見せられた交渉相手は驚いた顔をした。


「ほ、本当に売って頂けるのか?」

「ええ。こちらの欲しい物を頂けるので有れば差し上げます。」

「しかもクズの魔石が欲しいとは・・・」

「ええ。構いませんよ。」

「元が取れないのでは?」

「大丈夫です。ご心配には及びません。」


ネゴシーは額に汗を掻いた。


「も、もしかして貴方達は・・・」

「難しいようでしたらここを立ち去ります。また、我々がここに来た事をもし・・・」

「いえいえ!ご要求の品と交換させて頂きます!勿論、ここに貴方達が来た事は他言しません!是非!是非!」


ああ、ちょろいな・・・。

公爵領が健在だった時は、強かな帝国商人に苦労させられたっけ・・・。

そう思いながら、コメルシーは言った。


「では、そちらの商品を見せて貰えますか?」

「どうぞこちらに。」


そう言うと、ネゴシーはコメルシーを倉庫に案内した。



「ファ〜〜〜〜」


スサノオは大きな欠伸をした。

現在スサノオ達は、コメルシーが降りた浮遊島の周りを飛んで帝国軍がいないか警戒をしていた。

先日の拠点からは大分離れていたし、現れる可能性はかなり低いが念のためである。

また、今日はスサノオ達が哨戒の当番であった。


「大尉!不謹慎ですよ!」

「いや〜〜〜暇で暇で・・・」

「油断禁物!」

「そうは言ってもな・・・」

「こう言う時こそ気を引き締めなきゃ!」

「ま、そりゃそうんなんだけど・・・ってゲームしてる人に言われたく無いな・・・」

「へッ?ナンノコトカシラ・・・♪(´ε` ;」


リサは冷や汗を掻きながら吹けない口笛を吹いた。


「バレないとでも?」

「う・・・何故分かったの?」

「いつもよりも真剣に画面を見ているし・・・何故かボタンの音が頻繁にするし・・・」

「だってだって、暇過ぎるんだもん!」

「人に注意して起きながら・・・」

「流石に前を見て操縦して欲しいもん!」

「オートパイロットだよ?」

「えっと・・・痴話喧嘩?」


ナオから突然無線が入った。


「リサ!またお前!」

「え?いやいや切ってたわよ!」

「そりゃ隣を飛んでれば分かりますよ。」

「う・・・ごめんなさい・・・ってバカップルには言われたく無いわ。」

「だそうですよダーリン♡」

「お前達・・・真面目にしてくれ・・・」


アルベルトはウンザリとした感じで無線を返した。


勘弁してくれ・・・目の前にオオニシ大佐がいるんだぞ・・・。

っておい!

オオニシ大佐?

なにそれ?


オオニシは何故か親指を立ててニッコリしていた。


えッ?

何をやってるんですか艦長・・・。


暫くすると、飛竜艇が発着場を飛び立ち、平原に向かった。

後を追うように数台の荷馬車と数隻の飛竜艇が向かった。

オスプレイは飛竜艇の上空を飛んでたいたが、一旦離れるとかけていた魔術を欺瞞魔法に変えて飛竜艇の後を追った。

この欺瞞魔法は依然ネヅがリサにかけた欺瞞魔法の拡大版である。

飛竜艇が少ない現状、こうして飛竜艇に見せかけて一般の土地に近づく事にしたのだ。


「こちらで荷物を受け渡したいと存じます。」


コメルシーはそう言って、ネゴシーを飛竜艇の前に招いた。

ネゴシーは横に着陸している別の飛竜艇を見て驚いた。

見た事も無い大型飛竜が飛竜艇につけられている。

その中から、厳つい女性が出て来た。


なんだこの者は奴隷か?

それとも冒険者か?


ドイ曹長はギロッとネゴシーを見た。


ヒッ!?


ネゴシーは思わずたじろいだ。


「ボス。荷物はここに置けばいい?」

「ええ、そうして下さい。」

「おい!野郎ども!さっさと降ろしやがれ!」


飛竜艇の何故か真後ろから、木箱を担いだ人間が何人か出てきてネゴシーの前に置いて行った。


「中を改めてくんない?」


ドイ曹長はネゴシーにそう伝えたが、ネゴシーは驚愕した。

帝国の勢力範囲外とは言え、ここの地域も女性は慎ましいのが最良とされている。

それがこの態度。


なんなんだ!?

この女は?


リサと同期のアヤがドイ曹長のそばでその様子を見ていた。

まるで騎士団のライブラリーで見たドラマにあった、違法な薬物を港の倉庫で受け渡しする場面を見てるようだと苦笑いしていた。


商品を渡し終えると、今度は荷車の荷物を飛竜艇に見せかけたオスプレイに積み込んだ。

しかし、全部は載せきれない。

そこで、コメルシーはネゴシーに連れて来て貰った飛竜艇に後から付いて来て欲しいと言って、飛竜艇で塩湖に向かった。

コメルシーは黙って付いて行った。


塩湖に出ると徐々に高度を下げ、そして2隻の飛竜艇とも船ともつかない物の側に行かされた。


飛竜艇は魔力が尽きない限り、空中に浮かんでいられる。

しかし、この物体はなんだ?

何故、塩湖の上にわざわざ浮かんでいる?

これは一体?


ネゴシーは不思議に思いながら、言われたまま、その物体の上に飛竜艇を浮かばせた。

前にはこれまた見た事も無い大型飛竜が繋がれている。

不思議な物体の上には人が何人かいて、飛竜艇から荷物を受け取って物体の中へ入れて行った。

やがて一杯になったのか、別の同じように塩湖に浮かんでいる物体の上に行かされた。

そして同じように荷物を渡した。


渡したのは、食料だった。

一箱一箱がバケツリレーのように受け渡されて物体の中に運ばれた。

高度が低い分気温は高く、作業している者達は額に汗を掻いていた。


やがて、全部を引き取ると、コメルシーはネゴシーに言った。


「これで取引は終了です。ありがとうございました。残念ですがここでお別れとなります。大変申し訳ないのですが、そちらが上にいると浮かぶ事が出来ないので先に帰って貰えませんか?」

「は、はい・・・。良い取引でした・・・。お元気で・・・。またお会い出来たら良いですね。」

「ええ。そうですね。では、これで。」


そう言って互いに別れ、ネゴシーは浮遊島へ帰って行った。



「こちらパパ・ワン。目標全機は浮遊島へ着陸した。周辺に船舶無し。離水に支障はありません。」


スサノオ達は上空で旋回しながら周囲を確認してた。


「こちらウォーター・ドラゴン。了解した。これより離水して飛空艦へ向かう。」


塩湖に浮かんでいた飛行艇2機は4発のエンジンを始動すると、水飛沫を上げながら離水して飛空艦へ向かった。


「シエラコントロール。こちらパパ・ワン。US -2、2機の離水を確認しました。これより周囲を警戒しつつ、帰投します。」

「パパ・ワン。こちらシエラコントロール。お疲れ様。帰るまでが作戦です。気を抜かないでください。」

「こちらパパ・ワン。了解です。」


そう言ってリサは交信を終えた。


「じゃあ、帰ろっか?」

「うん。帰ろスサノオ。」

「私を忘れないでよ。」


ナオからだった。


スサノオとリサは二人揃って笑い、飛空艦へ向かった。





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