第103話 EXILE (国外追放)
何もかもが終わった。
スサノオとリサ、そして多くの騎士団と領民は家も財産もそして故郷も、全てを失ってしまった。
ここまで破壊しなくても良かったかも知れない。
もっと政治的な画策で上手く対応出来たかも知れない。
だが、このような結果となった。
原爆が公爵領で炸裂した日、多くの人達は肩を落とし涙を流した。
何故こうなったのか。
もっと上手く出来なかったのか。
誰一人、怠けた者はいなかった。
皆、何とかしようとしていたのだ。
いろいろな状況からこのような結果となってしまった。
皆が悲しみで気落ちしている時に、突然誰かがポツリと言った。
「領民諸君・・・生き残れ・・・」
公爵が領民を他領へ送り出す時に言った言葉だった。
この言葉は広がって行き、やがて生き残った騎士団と留まった領民のスローガンとなった。
騎士団と領民に生気が戻った。
とは言え、訓練島に暫くいる事は出来るかも知れないが、長くここにいる事は出来ないと殆どの者は思っていた。
時間的余裕はせいぜい1〜2ヶ月と言ったところだろう。
あまり長くいれば、今度は帝国軍がやって来る可能性があったのだ。
一度は手を握った皇弟派ではあったが、元老院に日和見主義者が多い事を考えると、いつ唆されてこちらへ軍を差し向けるかも分からず、ここへの長居は無要だ。
かと言って行く場所は決まっていなかった。
残った領民は1000名。
これに残った騎士団員とその家族、およそ2,000名。
併せて3,000名余りが流浪の旅に出なければならない。
飛空艦は広いので多くを載せる事は出来るが、それでも2000名が限界だ。
後は、輸送専門の飛空艦に載せる以外方法は無い。
輸送用の飛空艦は6隻程いる。
これに150〜170名程乗って貰うが、大きさはアメリカ軍のC5Aぐらいの大きさしか無い。
正直、プライバシーの空間は殆ど無い。
更に輸送艦には食料や物資の他、機械の製造装置や航空機の予備部品を積み込む。
通常の一軒家で暮らしていた者達に取っては、絶望的な暮らしとなるであろう。
それでも我慢してついて行くと言うのだ。
見捨てる事は出来無い。
行く先は決まっていないが、行く方向は決まっていた。
実はこの世界を知るために、騎士団から調査用の飛空艦を出しており、今回はその調査艦の情報に基づいて旅をするつもりだ。
出発までは時間があるようで無かった。
領地を失った悲しみに暮れている訳にも行かず、騎士団の面々は忙しく働いていた。
いや、悲しみを忘れるために、敢えて忙しくしていた。
そんな中、スサノオは入院中のリサの元を訪れた。
最近毎日欠かさずにリサの元を訪れている。
「リサ、元気にしていたか?」
「ええ。大丈夫よ。先生が大分元気になったって言ってくれたわ。」
「良かった・・・。本当に良かった。でもあまり無理はしないでくれよ。ゆっくりで良いんだ。まだ出発までは時間があるし。」
「うん・・・スサノオは忙しいんでしょ?」
「ああ。滅茶苦茶忙しいよ・・・でも・・・リサには今はゆっくり休憩を取って欲しいんだ。また一緒に飛ぼう。」
「うん・・・また一緒に飛びたい・・・」
「リサなら大丈夫だ。絶対に戻ってこれる。」
「ありがとう、スサノオ。」
スサノオとリサはお互いに手を握って見つめ合った。
やっと二人の平和な時間を取り戻せた。
多くの物を失ったが、だが失わなかった物があった。
それを大切にしたい。
二人はそう感じていた。
その頃、帝国の元老院では、大激論が交わされていた。
ランポの奴隷軍団が大敗した事が白日に晒され、その事を巡り、ランポ派とエスパード率いる帝国軍派とで責任の擦りつけが始まっていたのだ。
ランポが狙っていたのは帝国軍の巻き込みと支配、それに公爵領残党を捕らえる事であった。
当然、エスパードには飲めない要求だ。
このため、議論にならない罵り合いが続いた。
そこに壊滅した穏健派も復活を狙って乗っかり、元老院は度々紛糾した。
穏健派もエスパードの帝国軍派も本音では一気にランポの追い落としを狙いたがったが、一度庶民の人気を得、更に子飼い達が少数とはいえ未だ健在な状況では、まだ完全に追い落とす事は不可能であった。
やがて延々と続く罵り合いに双方が疲れて来てしまった。
そこで、議長のブスケ侯爵の仲介の元、妥協案が示された。
公爵領残党狩りの許可を出す。
それも帝国軍の名において行うが、戦力その物はランポ派の貴族が供出する物とする。
帝国軍本体は人員は出さないし、指揮には関わらない。
ランポはこれで勝ったと思ったが、実はエスパードの仕掛けた罠だった。
エスパードは公爵領の技術の恐ろしさを垣間見ており、今回の追討でランポを支持している子飼い貴族達の戦力を潰して貰おうと考えていた。
戦力がある程度減ったら今度こそランポを潰そう。
裏ではそう考えていた。
一月半程が経った。
かなり無理をした日程ではあったが、やっと訓練島を出発する日が近づいて来た。
リサは大分元気になり、徐々にではあるが、飛空艦内に運ばれたシュミレーターで軽く訓練をする様になった。
もう直ぐ一緒に飛べるようになる。
スサノオは逸る気持ちを抑えつつも、その日を楽しみにしていた。
その一方リンはと言うと・・・突然CIC勤務を申し出た。
スサノオは懸命に引き留めたが、性に合わないと言い張り、結局CICへと戻る事が決まった。
実は、リンはこれ以上スサノオと飛べば想いが募ってしまうと自覚し、自ら身を引くために転属を願い出たのだ。
ナオは戦闘飛行隊に戻って中尉に昇進した。
戦闘飛行隊の第1中隊、第3中隊は解隊され一つの戦隊に再編成された。
機数は一個中隊分12機のみで、万が一の事が起こった場合は2機を使う事になる。
2機の予備機は予め飛空艦へ積んである。
常時稼動させる機数は12機だが、構成する人員は18名のパイロット+3名の戦術航法士で構成する事になった。
交代要員を確保するためである。
隊長は若いながらもスサノオが務める事になり、バディ機はナオが務める事になった。
ただし、参謀として引き続きタカサキ中佐が戦闘飛行隊の全般を見る事になっている。
スサノオはあくまでも実行部隊としての指揮だ。
アルベルトは、戦闘での大怪我による後遺症から足が全く動かせ無くなった。
このため、車椅子での生活を余儀なくされ、二度と操縦桿を握る事は叶わなくなった。
それでも空への憧れが捨てきれず、何とか関わりたいとオオニシ大佐へ掛け合い、CIC要員とし従事する事になった。
ただ、ナオとは相変わらずのバカップルぶりで、無線で互いに愛を囁きあって周りから引かれていたが・・・。
公爵領の政治は当面はサカイ騎士団長とマンサ元侯爵の2巨頭体制で行う事となった。
二人は飛べなくなったアルベルトに政治に関わらせようとしたが、本人から強く拒絶されてしまった。
アルベルトはもう一人いるでは無いかと言った。
フローラのお腹の子供の事であった。
フローラはもう直ぐ臨月になる頃だった。
恐らく出発後に生まれると予測されている。
その為、周りから極度と思われる程大事にされ、何も手伝いをさせてもらえ無かった。
大事なバレントの子を失いたくなかったため、渋々大人しくしていたが不満を溜めつつあった。
そんなフローラを見てリサは良くお茶に誘い、不平不満を聞いてあげるのであった。
そんなこんなで遂に出発の日が来た。
帝都からの隠密の情報では、ランポ派の騎士達を主力とした帝国軍がこちらへ向かっていると連絡があった。
もはや遅らせる事は出来無い。
各飛空艦は飛行場にずらりと並び、離陸を待った。
やがて準備が整うと、輸送艦から順次離陸して行った。
一機、また一機とエンジンが始動し、滑走路からその巨大な図体に似合わず、短距離で離陸して行った。
最後に大型飛空艦が残された。
飛空艦がエンジンを始動する。
右舷側から徐々に始動し、やがて全エンジンが動き出した。
飛空艦は非常時以外は燃料を使わないため、ゴーと言う風の音しかしない。
そのエンジンのノズルが下に向いた。
やがてインバーターモーターを低くしたような音が強くなり、風が強烈にノズルから噴き出した。
やがてふわりと浮くと、飛空艦はゆっくりと高度を上げて行った。
飛空艦は巨大すぎる為に滑走路が使えず、このようにVTOLで離陸するしか無いのだ。
しかし、同じ垂直離陸を行う飛竜艇と比べると、飛空艦は風の力を生み出して浮くので、魔力消費量は飛竜艇に比べると遥かに少なかった。
飛空艦は徐々に高度を上げながらノズルの角度を変え、やがて水平飛行に移り飛行場を離れた。
乗っている者の殆どが窓から離れて行く訓練島を眺めていた。
故郷では無いにしても公爵領だった場所だ。
これで本当に公爵領から離れる事になるのだ。
数マイル離れた時だった。
訓練島のあちこちで閃光が瞬き、そして爆発が起きた。
訓練島にあった全ての施設が跡形も無く破壊されたのだ。
こうしてスサノオ達は、帝国から追われ流浪する事になったのだ。
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数ヶ月後・・・・・
飛行甲板に止めたドラゴンファイターのコクピットで、スサノオはゆっくりと目を開けやがてラダーを降りて行った。
飛行甲板の先でリサが手を振って待っている。
素敵な笑顔だった。
「早く行ってあげてくださいよ、大尉殿!」
ナオが揶揄うようにして追い越して行った。
あれから数ヶ月経った。
ランポ派の帝国軍はしつこく追っかけてくる。
もう青い氷結の雲を飛び越え、帝国軍の勢力範囲が及ばない地域なのに余程の執着があるのだろう。
もはやストーカーだ。
騎士団に入り、ドラゴンファイターのパイロットになってからいろいろな事があった。
これでもかと言うぐらいに、辛い事が多くあった。
先に行ってスサノオを待っていたリサに追いついた。
こちらの顔を覗き込んでニコニコと笑っている。
改めてスサノオは決心した。
絶対にこの笑顔は守ろうと。
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