第99話 脚色された物語と現実

ボロロン♪

ボロロン♪


「見よ・・・神のご加護を得た勇気ある者が闘いに出る・・・」


ボロロン♪

ボロロン♪


「彼は言う・・・この世の悪き者を打ち負かす・・・」


ボロロン♪

ボロロン♪


「いざ戦わん・・・帝国にあだ名す裏切り者を断罪せんと・・・」


ボロン♬

ボロン♬

ボロン♬


「我が英雄ロークリオが進む・・・その主人ランポ伯爵の命に従い・・・」


ボロン♬

ボロン♬

ボロン♬


「敵の・・・悪に満ちた根城に進む・・・」


ボロン♬ボロン♬


「激しい闘い・・・果敢に責める英雄・・・」


ボロン♬ボロン♬ボロン♬


「卑怯なる敵・・・爆裂魔法が炸裂する・・・」


ボロン♬ボロン♬ボロン♬ボロン♬ボロン♬


「腕を失し我が英雄!しかして華麗に闘い、闘い、闘い、闘い、闘いーーーー!」


ボロ🎶ボロ🎶ボロ🎶ボロ🎶ボロ🎶ボロ🎶


「巨大な爆裂、爆裂、爆裂ーーーーーーーッ!」


ボロン♪


「我が英雄ロークリオ・・・」


ボロン♪


「見事、裏切り者を・・・」


ボロン♪


「打ち負かすーーーーーー!」


ボロン♪ボロン♪ボロン♪ボロン♪



ランポ伯爵に雇われた吟遊詩人が帝都の街角で、ロークリオ、ひいてはその主人であるランポを讃える詩歌を流していた。

貧困層に取っては娯楽の一種である吟遊は喜んで受け入れられ、多くの市民がその詩を聞く。

ランポが流した詩歌は勿論出鱈目だ。

こんな英雄物語は存在しない。

しかしネットはおろか、テレビやラジオさえ存在せず、更に文字の読める者は殆どいないこの世界では、吟遊詩人は唯一と言って良いマスメディアであり、例え間違った情報でも多くの人々に広まった。

ランポを好ましく思っていない貴族達はそんな吟遊詩人達を苦々しく見ていたのだが、市民どころか、未だに大部分の元老院議員が持ち上げているなかでは表だって批判する事は叶わなかった。


だが、実際に起きている事実は正反対の事であった・・・・・。



公爵領の宮殿の結界が破れ、ロークリオは奴隷兵達を飛竜艇から順次降ろして行き街へ突入させた。

奴隷兵達は順調に進み、やがて先頭の集団が宮殿へ辿り着き中へ入って行った。

後続の奴隷達が町を回って、掠奪のためにそれぞれの家々を物色していた時であった。


ズガーン!

ドドドドドドド!


突然、町の何百箇所もの場所で爆発が起きた。

爆発と一緒にこれまた数十箇所で火災が発生し、多くの奴隷兵達がやられた。

飛竜艇に乗っていた半数近く、およそ5,000人ほどの兵が降りたが、その中の約1/3が爆発に巻き込まれたか、或いは火災で焼かれた。

阿鼻叫喚の状態で奴隷兵達が混乱している時だった。

今度は大きな爆発音が7、8回聴こえたと思ったら、甲羅の何箇所かで爆裂魔法が炸裂した。

この爆裂魔法で10隻ほどの飛竜艇がやられた。

不幸中の幸いとでも言うべきか、搭乗していた奴隷兵達は上陸した後だったのだが、ロークリオの恐怖心を煽るには十分であった。


「ロークリオ殿!ロークリオ殿!」

「どうするのです?どうするのです?」

「超飛竜だ・・・超飛竜だ・・・」

「今度こそ死ぬんだ・・・もうお終いだ・・・」


ロークリオに助けを求める者、悲嘆に暮れる者、本陣を置いてる飛竜艇内は大混乱だった。

ロークリオ自身、またしても屋敷襲撃でのトラウマが蘇って恐怖心に襲われた。


うるさい!

黙れ!

黙るんだ!

こうなったのはお前らが無能だからだろ!


そう叫びたかった。

そして逃げたかった。

帝都屋敷襲撃時の時だったらそうしていただろう。

しかし、今は違う。

公爵屋敷襲撃で失敗をしたにも関わらず、ランポに奴隷軍団の軍団長にしてもらったのだ。

今度こそ失敗出来ない。

ランポの顔が思い浮かんだ。

失敗したら自分が奴隷にされるかも知れない。

それだけは嫌だ。

だからと言ってこのままここにいては、また公爵屋敷襲撃の時と同じく大怪我をするか、今度こそ命を失う。


考えねば、考えねば、考えねば!


そう思ってた時にある事に気づいた。


あいつら何処に行ったのだ?


帝国軍の様子を見に行かせた連中だ。

奴隷が脱走するのはあり得ない。

監視役は契約魔法によって縛られているので、こちらも逃げようとしたら死あるのみ。


ならば戦死したか?

どうして?


そう考えているうちに思いついた。


「落ち着け!いいから落ち着け!敵陣に入ったのだ。もう勝ったも同然!このまま押し込め!」


周りの部下達は涙目でロークリオを見た。

ロークリオはゆっくりと周りを見回し、一息吸うと言った。


「残りの兵の上陸を急がせろ。ただし、一部の魔道士達は残せ。そしてそいつらを我々と大型飛竜の周りに集めさ、防御を固めろ。空になった飛竜艇はその周りに配置して壁にしろ。急げ!」


再びロークリオは考えた。


「輸送艦の補給部隊達はどうしてる?」

「港に入ったようです。こちらに向かって登っている筈です。ただ、高度差があるのでかなりの時間を要する見込みです。」


ロークリオは、少し時間を取って考えるとまた指示した。


「全部が上陸した訳ではあるまい。空になった飛竜艇50隻ぐらいを港に移動させろ。それで上まで往復させて兵を運べ。」

「そ、それでは我々の守りは?」

「ギリギリ450隻残っている。大丈夫だ。」


皆、目を見張った。

愚者の権化だったロークリオが適切な指示を出していると・・・。

もっとも、次の言葉でその評価は半減した。


「帝国軍に行った奴等が何故か戻って来ない。俺が行って確認して来る。お前らはここに残って引き続き指揮をしろ。いいな!」



サカイ騎士団長は、訓練島のコントロールルームで成り行きを見守っていた。

敵の動きを見ていたが、ある事に気がついた。

甲羅から50隻程の飛竜艇が下部の港に向かっている。


何を今更・・・。

今頃そんな事に気づくとは。

ただ、そんな愚かな連中に公爵領を追い出される事になってしまったのだが・・・。


もう一箇所、妙な動きがあった。

数隻の飛竜艇が領民の避難所だった場所に向かっている。


既に領民は全て帝国軍に引き取ってもらっているし、兵器や魔道具は全て破壊した後だ。

今更行っても何もない。

事が終わった後に、念のためオスプレイを飛ばして確認するか。

それよりも、最後の仕上げの御膳立てだ。

オオニシは上手く指示を出しているようだ。

御膳立てが終われば直ぐに皆がここに来る。


最後の仕上げを見たら皆怒り出すだろうか?

悲しむ事は確実だ。

だから止めたかった。

人間とはなんと弱くて愚かな事か。

あのルカでさえこんな決断を下してしまうとは。

騎士団長は肩を落とした。



スサノオ達は飛空艦に戻ると、爆弾の補給を受けた。

以前の作戦の時と同様に、整備員がF1レースのピットクルーのような早技とチームプレーで手際良く爆弾を機体へ装着し、燃料の液体水素を補填した。

ものの数分だった。

スサノオはコクピットに座って待っていたが、全てが完了して整備員が離れると、再びエンジンを始動した。


これが最後の出撃か・・・。

ヤマダ中隊長が負傷していなくなった。

同期のユウキが死んだ。

クサナギ先輩がいなくなった。

アルベルトもナオも闘いから離脱した。

愛するリサは精神を病んでしまった。


「フゥー・・・・・」


スサノオは思わず大きなため息をついた。

いなくなった者達を思い出してしまったが、今は考えないようにしよう。

少しの油断が死を招く。

第二次大戦のエースパイロットもそう言ってたではないか。

同じ苗字のエースパイロットが・・・。


「中隊長。大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。すまない。心配かけた。リンは優しいな。」

「い、いえ!そんな事は!」


リンは真っ赤になって答えた。


「???」


スサノオはやや不思議そうな顔をした後、続けて言った。


「これが最後の出撃になる。爆撃したら訓練島だ。そこで皆に会ってゆっくりしよう。どれくらい滞在するのか分からないけど・・・。」

「そ、そうですね。訓練島でゆっくりしましょう。」


そう言ってリンはパッドとモニターを見比べながら最終確認を始めた。


もう、私のバカ!バカ!バカ!

これじゃあ、親友への裏切りじゃないの!

もうバカ!バカ!バカ!

ええーい!

今は作戦に集中!


スサノオ達第3中隊の機体と第1中隊の第2小隊の機体が次々と前進し、発艦場所に吊り下げられると、飛行艦から空中へ落とされて行った。

スサノオも例に漏れず機体が吊り下げられた。

その時、珍しい事に騎士団長から無線が入った。


「各飛行隊。こちらは騎士団長のサカイだ。皆、困難な闘いに従事させる事になり申し訳無い。通達したように公爵殿下は公爵領の放棄を決められた。よって今回の戦闘飛行隊の出撃が最後の出撃になる。作戦が終わり次第、他の飛行隊を含めた全機は訓練島に向かえ。決して領地に戻ってはならない。繰り返すぞ。いいな。決して領地に戻るな。以上だ。」


スサノオは何が起こるのか察してしまった。

他の隊員も薄々気付いているのでは無いか?

全く、これから戦闘に赴くと言うのに親父は余計な事を言いやがって・・・。


「こちらロメオ・ワン。全機に告ぐ。騎士団長が言った通り、これが最後の出撃になる。だからと言って気を抜くな!必ず生きて帰るぞ!いいな!絶対に死ぬな!」


「こちらウイスキー・ワン了解した。必ず生きて帰ります!」

「こちらドッグ・ワン。了解しました。必ず生還します。」

「こちらゼブラ・ワン。勿論、生きて帰ります!」


各機体から続々と返信があった。

そして・・・。


「こちらシェラコントロール。ロメオ・ワン。そう言うのは発艦した後に言って貰えませんか?」


あ、しまった。

まだ、ぶら下がったままだった。


後席でリンがクスクスと笑っていた。


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