第95話 対艦攻撃

東の空は白み始めているとは言え、まだ湖面は暗かった。

暗い湖面の上で船が爆発と共に燃え上がる。

燃え上がる船はまるで篝火のようで、暗い湖面を照らした。


ロークリオは輸送艦隊が燃え上がって沈んで行くのを唖然として見ていた。

船が燃え上がり沈んで行く。

それが何度と無く繰り返された。


当初、輸送艦隊は補給用の部隊のため、ロークリオは守りを重視していなかった。

せいぜい遠征途中の休憩用と制圧した後の交代要員と思っていた。

しかし、これだけ本体の損害が大きくなると輸送艦の存在は重要になる。

それが爆発しながら沈んでいる。

とても容認出来るものでは無かった。

かと言って、これと言った対策は無かった。

今、ここで戦力を裂けば、ただでさえ少なくなった戦力が更に少なくなって制圧が出来なくなる。

しかし見過ごす事も出来ない。


「ロークリオ殿!輸送艦隊が!」

「黙れ!分かっている!」

「このままでは補給が難しく・・・」

「うるさい!黙れ!」

「ロークリオ殿!」

「黙れ!黙れと言っているのが分からないのか!」


そう言うと、ロークリオは部下の胸ぐらを片手で掴んで投げ飛ばした。

投げ飛ばされた部下は、床に転がり、怒りとも何ともつかない表情をしてロークリオを睨んだ。

もう皆我慢の限界に達しようとしていた。


「少し待て!輸送艦隊が危ないのは見て分かってる!ならこっちの戦力を裂けと言うのか?それは出来無い!」


そう言ってロークリオは周りを見た。


「良いか、我はランポ"侯爵候補"殿よりどんな事をしてでも裏切り者の公爵領を制圧しろと言われている。だが公爵領の卑劣な反撃で戦力はガタ落ちだ。もし、ここで戦力を裂けば更に戦力が落ち、制圧が難しくなる。」


珍しくまとも・・・とは言えない認識も混じっているが・・・な事をロークリオが言った。

本陣代わりの飛竜艇に乗っていた幹部の面々は皆押し黙ってしまった。

かと言って、ここで黙って輸送艦がやられるのを見ている訳にも行かない。


「せめて輸送艦が近ければ・・・」


部下の一人が呟いた。


「それだ!至急輸送艦隊に篝火か飛竜で知らせろ!全速力でこちらに迎えと!」



スサノオは爆弾を全て落とし終えると、今度は編隊を組んで輸送艦隊に襲いかかった。

急降下爆撃の時は、船体の後ろから攻撃をかけたが、今度は真横から狙った。


高度を1,000フィートまで下げた。

そのまま、船団の横腹を目指して300ノットで進み、更に徐々に高度を下げた。


「リン少尉!」

「はい!敵までの距離5、方角が少しズレたようです。1時方向に修正してください!距離が1を切ったら3カウントしますので、攻撃してください!」

「了解した!ウイスキー・ワン!聞こえたか?」


スサナオは編隊を組んでいる僚機に話しかけた。


「こちらウイスキー・ワン!了解です!高度はどこまで下ろします?」

「300だ!」

「300!?」


ウィスキー・ワンことワタナベ中尉は、以前スサナオがシュミレーター訓練でかました1対6の空中戦を思い出した。

何を隠そう、彼はその訓練で最初の反撃で落下したうちの一機であった。

あの時は100フィートぐらいだったか?

さすがイレギュラー第3中隊のエース。

常識では300フィートの超低空で300ノットなんてスピードは出さない。

下手したら湖面に衝突する。

しかし・・・


「こちらウイスキー・ワン。ロメオ・ワン。カウントよろしく頼む。」

「ウイスキー・ワン、了解です。」


そうこうしている内に、距離は2を切り1に迫っている。

スサノオは操縦桿の引き金に指を置いた。

距離、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1!


「カウントします!3・・・2・・・1・・・今!」


スサノオは操縦桿のトリガーを引いた。

僚機も一緒に攻撃を開始する。


「グオーン、ダダダダダダ・・・」


胴体下に取り付けた30ミリ・ガトリング砲が回転しながら1秒65発の勢いで弾丸を発射する。

ガトリング砲のオレンジ色に光った焼夷弾が吸い込まれるように輸送艦に当たる。

弾丸が当たると船は舷側を木端微塵にされ、炎に包まれた。


スサノオは思いっきり操縦桿を引き、エンジン出力を上げた。

目の前で燃え上がっていた船が、視界の下にスクロールして行く。

振り返ると、僚機も後からついて来ていて、ギリギリで船をかわしていた。


「全く・・・中隊長は相変わらずトチ狂った操縦しますね・・・。」

「そうか?そんな事無いと思うぞ?なあ、リン少尉?」

「イエ、狂ってます。イレギュラーの第3中隊でも一番かと。」

「えッ?そうか?」

「「そうですよ!」」


二人に同時に突っ込まれた。


そんな軽口を叩きながら、スサノオは高度を上げると艦隊の周りを回って様子を見ていた。

対空砲火は1発も無い。

恐らく全くの素人が艦隊を操っているのだろう。

回避行動も取らず、攻撃されると右往左往して逃げ回っている。

ただ妙な事が起きていた。


「何か妙な感じだな・・・」

「妙・・・ですか?」

「ああ。混乱したと思ったら、また列を作り始める・・・それに・・・。」

「?」

「リン少尉。敵艦の速度は?」

「少しお待ちください・・・・7ノットです。少し上がっています。」

「どこに向かっている?」

「甲羅の方角です。」


スサノオは公爵領の浮遊島を見た。

遠目にだが、ロークリオの甲羅防御が相変わらず維持されているのが見える。

そして、甲羅そのものはゆっくりとではあるが、結界内に侵入して宮殿の方角に向かっていた。

いまいましかった。

更に飛竜が数匹狂ったようにブレスを吐いているのが見えた。

恐らくまた違法ナランを食わされたのだろう。

あまりにも滅茶苦茶な方角に撃つので、第1中隊のドラゴンファイターは近づく事が出来ないようだ。


「少尉。他に変わった事は?」

「甲羅から飛竜が10匹ほど輸送艦に向かっています。」


飛竜がこちらに向かっている?

多分連絡役だと思うが・・・。

輸送艦が速度を上げた事に関係しているのだろう。

どうする?

当初の目的通りに行くか?

それとも排除するか?


「少尉。飛竜は安定して飛んでいるか?」

「へッ?待って下さい・・・・・・えっと・・・あまり上手いとは言えない感じですね・・・あっちへフラフラ、こっちへフラフラと言った感じです。」


つまり素人同然のドラゴンライダーって事か。

プロ並みの腕を持った連中は甲羅にいるか、戦死したって事だろう。

なら、こちらへの脅威にはならないな。


スサノオは冷静に状況を分析すると各機に指示をした。


「全機に告ぐ。攻撃を継続する。近づいてくる飛竜は恐らく素人が操っている飛竜だ。脅威にはならないだろう。だが動きに注意して、もしこちらに攻撃を加えるようであれば撃墜する。いいな?」


全機から了解した旨の返答があった。

ガトリング砲はまだかなりの弾が残っていた。

スサノオは再び編隊を組んで、輸送艦への攻撃に入った。



ロークリオは二つの戦闘に頭を痛めていた。

暗い湖面を見ると、次々と赤い炎が立ち、船が沈められているのが見える。

こちらはと言うと、浮遊島から爆裂魔法やイカヅチ魔法が放たれていて、なかなか前に進めない。

時々超飛竜と思われる攻撃も受ける。

小心者でかつ短気な性格のロークリオではあったが、それでも我慢と言う言葉以外に妙案が浮かばず、ただただイライラして宮殿に近づくのを待つのみであった。

それでも、若干だが公爵領からの攻撃が弱まっているように感じた。

今まで、島の縁からイカヅチ魔法が撃たれていたが、突然発射地点と思われる場所が爆発して、その後沈黙するケースが増えて来た。

ロークリオにはそれが何故なのかを理解する事は出来なかったが、少なくとも少しづつ成果が上がっているのだろうと結論づけた。

それでも宮殿までの道のりは想像以上に遠かった。



スサノオは何回かに分けて30ミリガトリング砲で船を沈めて来たが、いよいよガトリング砲の弾も尽き、今度はレールガンによる攻撃に切り替えた。

しかし、もともとレールガンは対空用、歩兵攻撃用で、木造とは言え、船に対してはあまり効果が無いように思えた。

射程が長いので遠くから撃てるのは有利だが、当たって火災は起きるものの、ガトリング砲と比べ破壊力は無い。

そして何より腹立たしいのは、レールガンで襲った船は、火災を消した後、プカプカと湖面に浮いているのだ。

飛竜艇であれば、そのまま落下して行くパターンが多いのだが、船の場合は落下すると言う事が無く、防水さえ出来れば浮いていられるのだ。


スサノオは何度目かの攻撃が終わり、輸送艦隊の上空をグルグルと回ると、リン少尉へ訪ねた。


「リン少尉。戦果の確認を頼む。」

「はい。戦果は撃沈20。大破12。小破18です・・・。敵艦隊はおよそ110いましたが、無傷は60、小破を含め稼働出来る状態なのは78隻です。」

「現在地は?」

「現在地は浮遊島から3マイルの位置です。このままですと、輸送艦が公爵領の真下に着くのは時間の問題です。」


それを聞いてスサノオはグッタリした。

1時間近くかけて攻撃して、動けなくしたのは32隻。そのうち完全に撃沈したのは20隻だけ。

輸送艦達は、公爵領の真下に到着する寸前だ。

もう爆弾も無くなり、ガトリング砲の弾も尽きた。

レールガンの弾体はまだ残っていたが、正直、ハエ叩きでハエを追っているような感じで効率が悪い。

口惜しいが、一旦戻るしか無い。

そう思っていた時だ。


「前方に魔力反応!大型飛竜です!」


突然、甲羅の脇が開き、大型飛竜がこちらを向いていた。


「全機ブレイク!」


編隊の全機がアフターバーナーを点火してその場から離れた。

その直後、大型飛竜からブレスが放たれた。

ブレスが向かった先は、先程までスサノオ達がいた空域だった。


こう言う事か・・・。

だから輸送艦隊はスピードを上げていたのか・・・。


スサノオは何度目かになる悔しさを感じながら、飛空艦へ向かった。

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