第85話 殺るか殺られるか
第3中隊は飛空艦から続々と発艦し、飛空艦の脇で待機していたスサノオのタンデム機と編隊を組んだ。
12機全機が揃ったのを見て、スサノオはリンに呼びかけた。
「リン少尉!説明を頼む!」
「了解しました大尉!」
リンは緊張しながらも第3中隊全機に呼びかけた。
「第3中隊全機に告げます。これより敵飛竜艇・飛竜の集団に攻撃を仕掛けます。まず第2小隊は、音速で甲羅の上空を通過した後、やや減速して距離を取って後部に回ってください。第1小隊の4機は第2小隊の後に付き甲羅を爆撃します・・・」
既に飛空艦内で説明されている内容だが、改めて割り振り、攻撃のタイミングを合わせるために説明した。
「以上になります。各機ご武運を!」
スサノオは改めて無線を入れて全機に呼びかけた。
「こちらロメオ・ワン。改めて言う。全員死ぬな!」
このコードネームを言うのも久し振りだった。
リサがいない以上、”Princess/姫 “のP、フェネテイック・コードではパパと表現されるコードは使えない。
なので、以前仲間達から揶揄い気味に呼ばれたリア充/RealのRを表すロメオを今回再び使う事にした。
スサノオ自身は寂しい気分であった。
だが、私情を押し殺して任務に挑む事にした。
ただ後席の新人は少し不満気だった。
「リア充じゃないのに・・・」
スサノオは敵に向かって大きく旋回した。
「リン少尉!敵は?」
「はい!10時の方向、距離20です。公爵領までの距離、10を切ろうとしています!後20分程で大型飛竜の射程に入ります!」
「了解。全機聞け!敵は10時の方向だ。カウント3で行動に移る!リン少尉!」
「カウント入ります!3・・・2・・・1・・・今!」
全機がアフターバーナーを入れ、左へ旋回に入ると敵に向かった。
第2小隊が第1小隊の前に出て、音速を超えて敵の上空に向かった。
第1小隊も後に続くが、スサノオとアルベルトは小隊から離れて高度を下げた。
ヘッドマウントディスプレイに敵との距離が表示される。
表示されている数字があっという間に減って行った。
15・・・10・・・5・・4・・。
「リン少尉!カウント!」
「はい!第1小隊アルファ分隊!カウント3で爆撃を!行きます!3・・・2・・・1・・・今!」
ノブリは暗くなった辺りを見回していた。
回復ポーションを飲みながら何とか気力を保っている状態だったが、非常に疲れていた。
回復ポーションと言っても、配られた物は非常に品質が悪く、気休め程度にしかならない代物だった。
それでも無いよりはマシだったので飲んではいたが、正直きつかった。
帝国軍にいたノブリでさえそのような状態だったので、他の即席の奴隷ドラゴンライダーは居眠りをしている者が多数いた。
同僚のタントが側に寄って来た。
「どう思う?」
「どう思うとは?」
「お前、分かってて言っているだろう?この状況でまたあいつが攻め込んで来たらまずいぞ?」
「そうだな。結構やられるかもしれないな。だがあれ以来、あいつが攻め込んで来た形跡は無い。怪我をしたか死んだかも知れないぞ。」
「油断しない方が良い。何しろこっちから奴らの本当の姿は未だに見れていないんだ。」
「まあ、そうなんだがな・・・」
彼らはここ数時間の間に攻撃を受けたが、明らかに敵が安全策を取っているように感じた。
ただ、相変わらず姿は見えず、個々で見れば甚大な被害は受けてはいた。しかし彼らの言う“あいつ”、つまりリサが離脱した事をその後のドラゴンファイターの攻撃で感じていた。
公爵領からはずっとイカヅチ魔法と爆裂魔法の攻撃を受けていた。
周りは漆黒の闇であった。
そんな暗闇の中で光がピカピカと光っては、どこかの飛竜や飛竜艇が燃え上がって落ちて行った。
その攻撃の光や燃え上がる飛竜艇が辺りを照らし、暗闇の筈なのに周りは意外と良く見えた。
被害は決まった所で起きていて、損害が起きた場所には、あまり被害を受けていない場所から直ぐに飛竜艇が送られて補充されて行った。
だが、ノブリがいる場所からは離れていて、かつある程度対空砲の役割もあったので移動も命じられず、少し時間を持て余し気味だった。
そして疲れもあったせいで、少し気が緩み油断をしていた。
そんな時だった。
乗騎していた飛竜が突然、一点を見出した。
ノブリはすぐに反応した。
「敵だ!向こうから高度をとって・・・」
言い終わらない内だった。
突然大きな爆発音が連続して起きた。
同時に爆裂魔法が辺りを襲い、そして時々大きな爆発が起きた。
同時に下側から幾つかの光の筋が襲って来るのが見えた。
奴だ!
生きてやがった!
ノブリはそう感じた。
スサノオは二つに分けた第1小隊のアルファ分隊が爆撃を開始すると、少しタイミングをずらして甲羅の下側に潜り込んだ。
「リン少尉!」
「はい!デルタ・ワン。3カウント行きます!3・・・2・・・1・・・今!」
その瞬間、スサノオとアルベルは操縦桿を引き、かつエンジンのノズルを操作して機体を垂直に立てた。
シュミーレーター訓練で何度も使ったプガチョフコブラだ。
垂直になった途端、スサノオはレールガンの引き金を引いて撃ちまくった。
光の筋が幾つも飛竜艇やその周りに当たる。
1隻か2隻ほど当たって墜落して行くのが見えた。
時間にしてほんの数秒だった。
だが効果は大きいだろう。
何しろ、今までの甲羅への攻撃は上からが主体だったのだ。
まさか真下から攻撃を受けるとは夢にも思っていないだろう。
スサノオとアルベルはそのまま水平飛行に戻すと、アフターバーナーをつけて直ぐに退避した。
ロークリオは慌てていた。
何時間か前に、穴を開けられそうになり狼狽していたが、“偶然”奴隷達が真上に向かってブレスを撃ったお陰か”偶然”攻撃が止んだ。
その後、再びイカヅチ魔法や爆裂魔法の攻撃を受けたが、数時間前の攻撃よりはかなり弱かった。
その弱くなった攻撃のお陰で何とか前に進む事が出来、大型飛竜の射程内まで後少しと言う所まで来た。
そんな所に突然あの忌々しい大きな雷鳴が響き、爆裂魔法を受けた。
そして同じぐらいのタイミングで真下からの攻撃だ。
一体どうやって隠しているのだ?
相変わらず姿が見えない。
全くの謎だった。
気がつくと、攻撃が止んでいた。
非常に静かになった。
ロークリオが唾を飲み込んだその時だった。
突然背後から攻撃を受けた。
スサノオとアルベルトは第2小隊に合流して後ろ側に回り込んだ。
そして高速で近づくと、一斉にレールガンで攻撃を仕掛けた。
「リン少尉!距離とタイミング!」
「はい!各機距離5です!3カウントで本命お願いします!行きます!3・・・2・・・1・・・今!」
ドラゴンファイターから爆弾が投下された。
各機とも音速に近いスピードが出ており、爆弾はほぼ水平に近い軌道で甲羅を目指して飛んで行った。
最初に大きい爆発が起きた。
続いてやや小さな爆発が連続して起き、また大きな爆発が起き多種多様な爆発が甲羅の後部を襲った。
その間にもドラゴンファイターはレールガンを打ち続けギリギリの距離まで近づいた。
「全機!ブレイク!」
リンが叫んだ。
瞬間、スサノオとアルベルトそれに第2小隊の全機はアフターバーナーを入れ加速すると甲羅から離れた。
そうこしているうちに第1中隊が戦場にやって来た。
「インディア・ワン!こちらロメオ・ワン!後を頼む!なるべく時間を稼いでくれ!うちらのチンピラと一緒に前方を頼む!」
「こちらインディア・ワン。ロメオ・ワン、了解した!まかしてくれ!」
スサノオは返事を聞くと、第1小隊の一部を残し、直ぐに飛空艦へ戻った。
ノブリは大混乱の中にいた。
眠気はすっかり醒めていた。
いきなり爆裂魔法が襲ったかと思うと、真下から攻撃を受け、そして後ろからも大量の爆裂魔法を受けた。
そう思ったら今度は真正面から攻撃を受け、そして今は真下から大量のイカヅチ魔法だ。
数時間前の攻撃では敵の狙いや方法を推測する事が出来たが、今回は分からなかった。
それよりも逃げる事で精一杯だった。
敵の”超飛竜”は今度は何故か魔力を隠さずに攻撃してくる。
まるで存在を示しているかのようだ?
何故だ?
何を狙っている?
スサノオ達は飛空艦に近づくと、直ぐに着艦を始めた。
時間が惜しいため、後部のハッチだけでは無く、普段はあまり使わない前方のハッチからも着艦した。
戦闘をまだ続けている第1小隊の4機以外の全機が着艦した。
いつもならハンガーへ向かう所だが、全機列になって飛行甲板に並んだ。
スサノオはキャノーピーを開けるなり叫んだ。
「直ぐにやってくれ!」
整備員が重たい装備を急いで機体に取り付ける。
レールガンの弾体もすぐに補充された。
整備員は他にもエアーホースを取り付けたり、コードを繋いだり、液体水素の補充をしたりでてんやわんやの大騒ぎだった。
3分程すると全ての作業が終わり、再びエンジンの始動が始まった。
地球のF1レースのピットイン作業程では無いが、装備やその他諸々の作業を考えれば、それに匹敵する程の素早い作業だった。
エンジンが始動すると、スサノオ達は直ぐに機体を前進させ次々に飛空艦を発艦した。
全機が出て揃うまで約7分程の時間を要した。
ただし、スサノオは少しスピードを落としながらも既に敵へ向かいつつあり、編隊は後から他の機体を追い付かせながら組んだ。
編隊を組み終わるとスサノオは全機に呼びかけた。
「これからが本番だ。今までのは単なる揺動だ。次の攻撃で本命を狙う。もう敵の攻撃まで時間が無いと思う。もしかしたら同じタイミングになって第2中隊のような目に遭うかも知れない。だが、言わしてくれ!何としても生き残れ!」
珍しく、各機から了解したと返事が返って来た。
いつもなら機数が多いので返事は敢えてしないが、今回は皆特別な思いがあるのか、全機が返信して来た。
敵に向かって行く途中で第1小隊のアルファ分隊とすれ違った。
レールガンを撃ちつくして補給のために飛空艦へ戻って行くのだ。
翼を振っている。
エールを送っているのだ。
敵に近づくとリンが全機に指示した。
「全機、一旦宮殿の後方の方角に向かってください。後方近くで4時方向へ転身。第1中隊の第1小隊、それに地上部隊と連携して本命を討ちます!」
そう言っているうちに第1中隊の第1小隊がスサノオ達の前に並んだ。
「こちらインディア・ワン!ロメオ・ワン。久しぶりだな!」
「こちらロメオ・ワン。食事してただけですよ。大袈裟です。」
「まあ、そう言うな。ところで合唱会はそちらのお嬢さんがタクトを取ってくれるのかい?」
「ええそうです。ドラムも一緒に奏でてくれます。」
「そうかw。それは楽しめそうだ。よろしく頼む!」
「こちらこそよろしくお願いします!」
そう言っているうちに敵との距離は10マイルになった。
スサノオとアルベルトは第2小隊の前に位置を取った。
リンが告げた。
「地上部隊の攻撃が始まります!」
そう叫んだ直後、地上部隊が甲羅の前方中心を目掛けて一斉に砲撃を開始した。
ノブリはここへ来て漸く敵の狙いに気づいた。
敵は甲羅の正面中心部、つまり大型飛竜の砲口となる部分を狙うことにしたのだ。
どうやって気づいたのか分からんが、この甲羅の防御では弱点に当たる。
何しろ、ここに置いている飛竜艇は鎖やロープで繋いでいないので、一旦崩れると直ぐにバラバラになる部分であったのだ。
このままではまずい。
だが甲羅全体が先程からの攻撃で混乱していて収拾が付かない。
まだ数時間前の攻撃のように一箇所を狙うだけだったらいい。
その場合、被害を受けていない連中が多いので敵の方向を言うだけでそちらへ向かって飛竜へブレスを吐かさせてくれる。
だが今のように全体が動揺している状況だと、それぞれが勝手に飛竜にブレスをは吐かせ、尚且つ声が届かない。
正直お手上げの状況だ。
ロークリオはもはや狼狽するどころの話では無く、混乱の極みにいた。
そして以前のように怒鳴り散らしていた。
「何をしているんだ!敵を撃退しろ!全軍を直ぐに前進させろ!急げ!言う事を聞かぬか!」
「無理です!どこから責めて来ているのか分かりません!」
「貴様、何を言っている!イカヅチ魔法が放たれた方角へ撃てば良いのだ愚か者!」
「そう言われましても・・・」
「俺の言う事が聞けないのか!貴様―・・・」
そう叫んだ瞬間、公爵領から正面の中心部を目掛けて一斉にレールガンの砲撃が始まった。
それに混じって通常の火薬による砲弾も撃ち込まれた。
砲弾は炸裂弾と徹甲弾が混じっていて、爆発と破壊が繰り返されていた。
「撃って来た方角に向かってとにかく撃て!早くしろ!」
ロークリオは甲高い金切り声で怒鳴った。
しかし、前方を固めていた飛竜艇と飛竜はは統一行動が取れず、バラバラになり始めていた。
リンは地上の攻撃が始まり、更に敵との距離が縮まったのを見て第1中隊へ要請した。
「距離が5マイルに来ました。3カウントで攻撃をお願いします!3・・・2・・・1・・・今!」
第1中隊が一斉にレールガンを放ち始めた。
そしてアフターバーナーを点火し、急激に増速した。
敵との距離が2マイルを切ろうとした時だ。
リンが地上部隊へ伝えた。
「マイク!直ぐに砲撃目標を敵下部に修正して下さい!インディア・ワン!方角、速度そのままでカウント5で爆撃してください!」
「こちらマイク!了解した。」
「インディア・ワン。了解した!」
「カウント行きます!5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・今!」
第1中隊の小隊は速度450ノットで中心部に迫ると、そのまま持っている爆弾を全て切り離し、垂直方向へ離脱した。
落とされた爆弾はそのままやや落下しながら開きかけた開口部の奥へと進み、眩い幾つかの閃光となった。
「第3中隊全機!砲撃開始してください!マイク!照準を一旦戻してください!」
今度は第3中隊が一斉にレールガンを放った。
「デルタ・ワンとロメオ・ワンはこのまま直進!第1中隊と同じようにプレゼントを放り込んでください!」
距離が2マイルになった。
「マイク!照準を下げてください!デルタ・ワン。カウント5で爆撃行きます!5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・今!」
スサノオとアルベルトの機体から爆弾が甲羅に向かって放り込まれた。
ロークリオもここに来て、やっと敵の意図に気づいた。
そう思った瞬間、第1中隊の攻撃があり、正面を守っていた飛竜艇の多くがやられ、バラバラになってしまった。
「大型飛竜を前に出せ!もう射程内だろ!公爵領を攻撃させろ!」
「しかし、やられる可能性があります!」
「つべこべ言う・・・」
今度はスサノオ達が放った爆弾が甲羅の中で炸裂した。
一発はロークリオの載っている飛竜艇付近で炸裂し、ロークリオは頭を抱え涙目になって言った。
「いいから前に出して打ちまくれ!」
ナオ達第2小隊は最後の攻撃だった。
甲羅の中心部が大きく開き、やっと奥に大型飛竜が見え始めていた。
クサナギ中尉が叫んだ。
「正念場だ!野郎ども行くぞ!」
第2小隊はスサノオ達からそれほど離れていなかったため、攻撃によってやっと開いた開口部付近に直ぐに着いた。
ナオはヘッドアップディスプレイを通して前方を見た。
大型飛竜に照準が合う。
ロックオンの警告音がなり、ナオは反射的にミサイルの引き金を引いた。
第2中隊から6発の空対空ミサイルが発射された。
隠蔽魔法で騎士団にしか見えないが、それでも紅い光を放ちながらミサイルが甲羅の奥に進んで行った。
だがその時、ナオは前方から光の束が五つこちらに向かって来るのが見えた。
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