第83話 逃げろ?何故?
スサノオはリサを見送るとすぐにCICへ赴いた。
CICの空いているコントロールを見つけると、そこに座り状況を確認し始めた。。
コントロールをいじって第3中隊が出撃した際の攻撃を見る。
確認したは良いが、不満を感じた。
スサノオが見た攻撃方法は、今の第3中隊で取るべき方法では無いと感じたからだ。
後ろ向きの攻撃になってしまっていて、これでは敵を止める事は出来ない。
大モニターにはつい先程出撃した第1中隊が攻撃している様子が映し出されていた。
かなり遠くからレールガンを撃っている。
だがこれは先程の第3中隊の攻撃と同じで、ただ敵のごく一部を傷つけているに過ぎない。
仮に効果があったとしても、670隻くらいいた飛竜艇を630隻ぐらいまで減らしただけだ。
それも第2中隊を犠牲にした前回の攻撃を含めた数字だ。
もっと積極策を取るべきではなかろうか?
そう思っていると、オオニシ艦長が近づいて来た。
「不本意か?」
「ええ。これでは敵の足を止める事は出来ません。」
「お前ならどうする?」
「積極策を取るべきではありませんか?」
「具体的に何かあるか?」
「・・・見つけてみます。」
スサノオはもう一度モニターを見た。
モニターにはレーダーやその他センサーから作った合成画像が映し出されていた。
合成画像は上からの二次元の俯瞰図にする事が出来るし、三次元の立体画像にする事も出来る。
スサノオはコントロールをいじり、画像を変更したり拡大したりしてなんとか打開策は無いか探った。
リサならどうする?
リサはこう言う時あらゆる可能性を探るため、いろいろな画像を見ていた。
彼女ならどう言う画面を見る?
スサノオは投げやり的にいろいろな画面を呼び出した。
すると、ある画面が目に止まった。
敵の動きを矢印で表した画面だ。
それぞれの飛竜や飛竜艇の動きがベクトル化されて表示されている。
スサノオはその画面を凝視した。
これは?
この動きは?
「大尉。何か見つけたのですか?」
リサの同期のリンが、スサノオの傍らに立ってモニター画面を覗き込んだ。
「少尉はこれをどう見る?」
「一見纏まっているように見えますが、バラバラに動いていますね。でもやっぱりリア・・・じゃ無くてパートナーですね。リサ中尉も同じのを見て考え込んでいましたよ。」
「リサが?何か言っていたか?」
「危険過ぎる・・・これはやめた方がいいかも・・・ってぶつぶつと呟いてました。」
スサノオはもう一度画面を見た。
もしリサが同じ事を思いついてたとしたら、確かにリスクが高い。
あちらの攻撃のタイミングと合ってしまったら、もう一つ中隊を失うかも知れない。
しかしこれが大々的に反撃する最後の機会かも知れない。
何もしなければ、敵に易々と上陸を許す事になる。
そんな簡単に上陸させたく無い。
例え公爵領が滅びようと、最後の最後まで足掻きたい。
「大尉。考えは纏まったか?」
「はい・・・もしお許し頂けるのであればやって見たい事があります・・・しかしリスクは第2中隊を失った時と同等か、それ以上になります。」
「それを行う意味はあるのか?」
「敵に大打撃を加える事が可能になります。」
「上陸を阻止出来る程にか?」
「・・・分かりません。前々回の出撃はそれが目的でした。恐らくリサ中尉は彼女なりの確実性を持って作戦を立案したのだと思います。しかしその目論見は外れてしまいました。それが戦場なのだと思い知らされます。なので出来るとは言いません。けれど、このまま公爵領が滅びる姿を見たくありません。」
「お前の言いたい事はわかる。公爵領を守りたい。騎士団員は全員そう思っている。だから最後まで足掻きたいと言う思いも理解しているつもりだ。」
そう言うとオオニシ艦長は一呼吸ついた。
「だが極度の精神論は俺は好まぬ。だから特攻のような真似は自分の部下にはして欲しくない。だが現実として、捕虜の処遇が悪いこの世界ではそれが起きてしまっている。地球であれば、脱出するだけで済んだパイロット達は多くが脱出を選ばずに死を選んだ。大切に育てた筈の部下の多くを失ってしまった。これ以上の犠牲を出したく無い。」
スサノオは黙ってしまった。
第3中隊のメンバーには生き残れと言い続けている。
だから上官として、部下の命を守りたい気持ちは分かる。
だがこのままで良いのか?
リスクを避けてこのまま黙って見ているのが正解なのか?
「正直に言おう。公爵領騎士団のスーパーコンピュータや図上演習で何度もシュミレーションした。どんな対策をしても、どんなに反撃を繰り返しても結果は公爵領の占領で終わった。この結果を覆すには核兵器の使用しか無い。だが、我々は被曝国の日本から来た海上自衛隊が大元だ。それに人権意識が全く無いこの世界の人々に悪魔の兵器が存在する事を知らしめたく無い。だから・・・」
そう言うと、オオニシ艦長は珍しく言葉が詰まってしまった。
スサノオは艦長の言いたい事は半分はわかっていた。
それでも足掻きたかった。
艦長は一呼吸すると再び言った。
「第2中隊が壊滅した時、急遽遠隔会議を開いた。公爵殿下も同席された。殿下もお前と同じように最後まで足掻かれるおつもりだ。だが同時に殿下は領民の保護もお考えになっている。抵抗し敵方に損害を与えつつも、如何にして終わらせるかを考えておられる。つまり・・・それは・・・我々に・・・」
オオニシ艦長は再び言葉に詰まった。
オオニシ艦長は側に置いてあった水筒を手に取ると、中に入っていた水を飲み出した。
「我々に公爵領を見捨て、ここから逃げ伸びろと・・・。」
逃げろ?
公爵領を見捨てて逃げろと?
何故?
どうして逃げなければならないんだ?
そんな事、許されて良いのか?
自分達が何をしたって言うんだ!
第2中隊や他の先輩達は何故死ななければならなかったんだ!
オオニシ艦長は絞り出すように言った。
「だからこれ以上犠牲を出したく無いんだ・・・」
「今の話・・・本当に父殿下がおっしゃったのですか?」
いつの間にか、アルベルトがCICに入って来ていた。
クサナギ中尉も一緒だった。
オオニシ艦長はギョッとした目でアルベルトを見たが、目を伏せがちに応えた。
「ああ。そうだ。」
「逃げろって・・・でも殿下は最後まで足掻くおつもりだと言うのですか?」
オオニシ艦長は黙って頷いた。
スサノオもアルベルトもそんな艦長の様子を見て察してしまった。
そんな事はさせたく無い。
いやさせない。
「殿下の気持ちは痛い程分かります。だけど父殿下一人にそれはさせたくありません。」
「私も同じです。」
「二人とも何を言っているんだ?」
クサナギ中尉は事情が察せず思わず二人に問いただした。
「クサナギ先輩。次の出撃が恐らく大々的に反撃出来る最後になります。その後は良くて時間稼ぎの遅滞戦闘です。死ぬ事になるかも知れません。付き合ってくれますか?」
「もとよりそのつもりだが?」
「お前、どんな作戦を思いついた?」
オオニシ艦長が問いただした。
「地獄の窯の蓋を壊しに行きます。」
そう言ってスサノオは思いついた作戦を話だした。
ロードリー2世は刻々と報告される戦況を聞いて、撤収の準備を早めるように指示をした。
大型飛竜の残りが5匹になったとは言え、それだけでも十分な脅威だ。
何しろ大型飛竜1匹だけでも、20〜30分の時間をかければ結界を壊す事が出来る。
そして厄介な事に、その5匹の飛竜は防御魔法を施した大量の飛竜艇によって守られており、ドラゴンファイターがその防御を破ろうとして失敗したとの報告を受けた。
もはや甘い期待をするべきでは無い。
ロードリー2世は騎士団長を呼び出した。
これまでにも戦闘の合間、合間で呼び出していたが、撤収作業を促すために再び呼び出した。
「コウタ。もういい加減、撤収を早めてくれ。」
「そう簡単にはうまく行かない。特にドラゴンライダー達は納得していないようだ。突拍子も無い作戦案を提案してきた。」
「突拍子も無いだと?」
「ああ。犯人はうちの愚息らしい。戦友が死んでいくのを見ているんだ。撤収に納得していないようだ。オオニシ達と揉めに揉めている。」
「時間がないぞ。何とか出来ないのか?」
「撤収計画に支障が出るようであれば逆に認めてやっても良いかも知れない。ただし、一個中隊を再び失うかも知れない。リスクは大きい。」
騎士団長は自分の息子の命がかかっていると言うのに、冷徹だった。
だが、多くの民の事を気にかけている親友の気持ちを察すると冷徹にならざるを得なかった。
「仕方が無い。どうせうちのバカも一緒になって騒いでおるのだろう?」
「ああ、その通りだ。」
「良いのか?お前の息子の命がかかっているのだぞ。」
「そちらこそ同じだろう?」
二人とも苦笑いをした。
「この最後の攻撃はいい時間稼ぎになる可能性がある。帝国軍が間に合う可能性もある。」
「そうか・・・。」
ロードリー2世は頭に手を置いた。
「撤収要員それぞれに伝えよ。撤収作業を早く進めるようにと。それから地下基地を放棄しろ。今後撤退用の輸送機以外は着陸してはならぬ。訓練島へ避難しろ。最後に・・・」
「最後に?」
「バカ息子達に伝えろ。命を無駄にするなと。」
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