第82話 戦線離脱
スサノオのいない第3中隊は飛空艦から発艦して敵の攻撃に向かった。
巨大な甲羅はだいぶ公爵領へ近づいていて、浮遊島からは対空砲火の火が放たれている。
日はだいぶ傾いていて、太陽が水平線に隠れるのも時間の問題だった。
それでも双方はその面子をかけて、命の削り合いをしていた。
「こちらキロ・ワン。シエラ・コントロール。もうすぐ予定の位置だ。これより地上部隊と連携して攻撃に入る。」
「こちらシエラ・コントロール。キロ・ワン、了解した。114.5でブラーボにコンタクト。向こうの好みのポイントに向けて撃ってくれ。」
「キロ・ワン。了解した。これより114.5でブラーボにコンタクト。彼らのフェバリットを聞いて攻撃する。」
ナオはクサナギ中尉の後について、攻撃の指示を待った。
以前のミサイルでの大型飛竜撃墜以来、ナオはクサナギ中尉機のバディに選ばれるようになった。
最初の頃は他のベテランのバディ機にされ、バディ機で支援すると言うよりも守られている様にして飛んでいた。
実際に守られているのは事実だった。
だが前々回の出撃で、リサからの指名で大型飛竜を撃墜をしてから様子が変わり、今ではクサナギ中尉の支援要員としての役割を与えられた。
クサナギが旋回を始めた。
圧縮訓練で散々いろいろなパイロットとバディを組まされたが、それぞれの癖を無理矢理覚えさせられたので、難なくクサナギの後について行けた。
目の前には巨大な甲羅がゆっくりとした動きで公爵領へ迫っていた。
公爵領の周りにはつい1時間程前までは、気が触れた飛竜達がブレスを吐きまくっていたが、全て力付き戦果も無く塩湖へ落下していた。
本命は飛竜艇が集まって作られた巨大甲羅である。
これが本隊であり、敵にとっても公爵領にとっても正念場の戦いなのだ。
浮遊島からは対空砲火が放たれていた。
前回の出撃時に空きかけていた甲羅の穴は、他の飛竜艇によって塞がれたようだ。
なんとも忌々しい。
地上部隊は砲弾の軌道を考慮して、前面やや右上を狙っていた。
クサナギは地上部隊からの要請を聞くと、砲撃を始めるべく機体を巨大甲羅に向けた。
ナオはクサナギの後につきながら、ヘッドアップディスプレイ越しに巨大甲羅を見た。
距離がどんどん縮まる。
と言っても前回と比べギリギリまで接近する事は無く、10マイル、約20キロほど離れた位置から砲撃を開始した。
ドラゴンファイターのレールガンの精度は非常に高い。
なので20キロ離れていても、地球のミサイルのように目標へ向かって攻撃する事が可能だ。
だが、爆弾やミサイルと比べた場合、破壊力は小さい。
更に言えば距離が遠いと砲弾と異なり減衰が大きく、近距離からの破壊力より弱くなってしまう。
何とも味気ない攻撃ではあったが、敵に対してはダメージになる。
それでもただ単に初期の攻撃方法に戻ったようになり、劇的に敵を殲滅するとまでには至らない。
第3中隊にとっては派手に大型飛竜を落としていた以前の攻撃を思うと、何とも言えないフラストレーションが溜まる攻撃だった。
そうこうしているうちに第3中隊の殆どの機体はレールガンの弾体を撃ち尽くしてしまい、そろそろお帰りの時間となった。
「第3中隊全機!お帰りの時間だ。全機帰投せよ!」
クサナギ中尉が全機に呼びかけた。
全機、無言でそれに応じ、飛空艦へ機首を向け戦域を離れて行った。
スサノオは医療区間でリサに戦力外を伝えた。
リサは目から涙を流したが、大泣きする訳でも無く、ただただ下を向き涙を流しているだけだった。
リサ自身、自分に何が起きたか分かっていた。
そして自分の弱さを呪った。
何故、何故自分はこうなってしまったのか?
一番大事な戦いの時に何故?
自分はなんて弱いのか!
そう思った時、スサノオがベットに座りリサを抱きしめて言った。
「リサは弱くないよ。むしろここまでいろいろな事が起きたのに良く耐えたよ。強いからここまで耐えて来れたんだ。だからゆっくり休んでくれ。無理をするな。お願いだから。」
スサノオはリサに優しく話しかけた。
スサノオには分かっていた。
リサが自分を責めている事を。
だからこそ、自分を責めないでほしい。
そう思ってリサを諭したのだった。
リサはそのスサノオの深い愛情に触れ、思わずスサノオを抱き返した。
スサノオの首に抱きつくように縋ると声を上げて泣き始めた。
やっと声を出して泣いてくれた・・・。
スサノオは少しホッとしながらも、リサを優しく抱き続けるのであった。
ナオは飛空艦へ着艦すると、無言で機体を降りて休憩室に向かった。
そして簡易ベットの上に横になると、次の出撃に備えるべく睡眠圧縮を魔道士にかけてもらった。
・・・5分後、リサは眠りから目覚めた。
ボーッとした頭で周りを見る。
圧縮睡眠で8時間ぐらい眠った感覚だが、疲労感が凄くあった。
魔道士に回復魔法をかけてもらい、回復ポーションを飲む。
暫くすると体力も頭もハッキリとしてきて、やっとベットから起き上がれるようになった。
本当にこんな事、どれくらい繰り返せば良いのだろう?
そんな事を思いながら、最近第3中隊の溜まり場になっている食堂へ向かった。
食堂でコーヒーを啜っていると、アルベルトがやって来た。
ナオを見つけると、側によって来て言った。
「お嬢様、同席させていただいてよろしいですか?」
「いやだ!」
「へッ?なんで?なんで?」
「そこの席は正義の味方様専用よ。」
「え?俺は正義の味方じゃないの?」
ナオはクスっと笑った。
「冗談よ。冗談。そんな哀しい顔をしないでください中尉殿♡」
「む・・・機嫌損ねたのかと思った。」
「そんな訳ないでしょw、愛してる♡」
「・・・・・」
こんな話をしつつも、二人の気分は晴れ無かった。
何しろ戦果らしい戦果は無いのだ。
最初の頃であれば飛竜艇を一隻落とした、飛竜を何匹落としたと言うのは喜んで報告しあっていた。
ナオは途中から第3中隊に参加したが、これまで何回も出撃に同行したおかげですっかり第3中隊のメンバーとして溶け込んでいた。
だからこそ、この戦果らしい戦果があげられない戦い方には納得出来ないものがあった。
犠牲者を出させないためである事は分かっていた。
分かってはいたが、何とも不満が溜まる事であった。
そうこうしているうちに、敵はもう目の前だ。
大型飛竜のブレスが吐かれるのも時間の問題だ。
「リサはもう無理なの?」
「1ヶ月は戦いに参加出来ない。お前も見たろ?」
「ええ、そうね・・・責任感強いからね・・・」
第3中隊が食堂にいた頃、飛行甲板では負傷者の移送準備がされていた。
本来なら地下基地へ送られるのだが、ランポの軍団が迫っているため、負傷者は訓練島に運ばれる事になった。
移送はオスプレイやシーホークによって行われる。
その負傷者の中にリサもいた。
泣き腫らした顔で、リサはシーホークの前でスサノオを見た。
スサノオはニッコリして手を振る。
リサは側にいたシーホークの乗員に促されて乗機した。
大きな扉が閉められる。
リサは機体の窓からスサノオを見た。
スサノオは笑顔で手を振り続けている。
リサは窓にしがみつくようにしてスサノオを見た。
シーホークは吊り下げられるようにして後部へ運ばれ、そしてエンジンが始動した。
ガスタービンの音がして高い金属音が鳴る。
同時にローターから発生した強い風が辺りを吹きまくる。
やがてバラバラと言う音を立てながら、機体が後部ハッチから外へ吊り下げられた。
吊り下げていたフックが外され、シーホークは空中に浮かびやがて機体を回転させたかと思うと、訓練島に向かって飛び去って行った。
スサノオはその姿が小さくなり見えなくなるまで、いつまで黙って見つめていた。
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