第81話 中隊長を欠いた第3中隊
「中尉・・・」
「なんだい少尉?」
「私がリサ中尉と同じ状態になったら、大尉みたいに面倒を見てくれます?」
「もちろんだ!あいつに負け無いぐらいにお前を守って見せるぞ!」
「正義の味方だから?」
「そうだ!その通りだ!」
ナオは少し笑った。
「そう言えば、あのいじめっ子達は今はどうしてるの?」
「なんでも、帝都についた途端、裏切り者にされて持っていた財産をランポに取り上げられた。その後は没落したまま行方不明になったらしい。」
「ま、お可哀想な事。」
ナオは、ライブラリーで見た日本のアニメの某お嬢様キャラのセリフを真似してみた。
アルベルトはそれを見て、少し笑った。
リサとスサノオが医療区画へ行った後、第3中隊は圧縮休憩を取った後、食堂で次の出撃に備えて待機していた。
第3中隊はスサノオがリサの面倒を見るために抜けていて、その間の取りまとめは副官であるクサナギ中尉が行っていた。
誰も彼もが事情を知っているだけに文句を言う者はおらず、またクサナギ中尉も不満を言う事は無く、淡々と業務をこなしていた。
しかし帰還直後の第3中隊は通夜のような雰囲気だった。
囮役で被害担当部隊だった筈の第3中隊は全員生き残り、安全だった筈の第2中隊は全滅してしまった。
皆、少なからず罪悪感に苛まされていたが、運良く生き残った第2中隊の中尉から言われた一言に救われた。
彼の機体は飛竜によってボロボロにされたが、なんとか公爵領の結界内まで逃げ込む事が出来た。
その後ベイルアウトしたわけだが、飛空艦のオスプレイに救助された。
なので、飛空艦へ連れて来られた訳だが、第3中隊の落ち込みようを見て違和感を感じ、思わず言ったのだ。
俺たちは運が無かった。
けどお前らの姫様の忠告のお陰で逃げる事ができた。
ありがとう。
この言葉で第3中隊は救われた。
直ぐにスサノオにも伝えられたが、リサは酷いPTSDにかかっているため逆効果になる可能性もあった。
なのでこの言葉は様子を見て伝える事になった。
「リサ・・・大丈夫かな・・・」
「分からない・・・あんな状態になった妹を見たのは初めてだ。」
「心配?シスコン王子様?」
ナオは少し揶揄い気味にアルベルトに聞いた。
「あ、当たり前だろ!ずっと小さい時からリサとスサノオと共にいるのだ。心配無い訳が無いではないか!」
ナオは少し微笑みながら返した。
「ごめんなさい。でも側に行きたいのではなくて?」
「側にいてやりたいさ・・・。でも自分ではないんだ。やはりスサノオなんだ。さっきの様子をみたろ?スサノオが側に行ってやっとリサは立ち上がったんだ。もう妹の心の支えになれるのはスサノオなんだ。」
そう言ってアルベルトは少し寂しそうな顔になり俯いた。
「じゃあ、王子様は私の心の支えになってね。」
ナオはイタズラっぽい顔でアルベルトの顔を覗き込んだ。
「ああ、そのつもりだ。」
「アルベルト中尉!
そんな会話に突然割り込んで来た者がいた。
クサナギ中尉だ。
「すまない。オオニシ艦長が呼んでいる。恐らく新しい作戦が決まった。一緒に来てくれ。」
「承知しました。クサナギ先輩。」
アルベルトはクサナギ中尉のお供のような雰囲気でCICへ行った。
中に入ると、なんとそこにはスサノオがいた。
ちょうどリサの病状を説明しているところだった。
終わった後、アルベルトとクサナギはスサノオへ話しかけた。
艦長の話を聞く前に、スサノオの話を聞いたわけだが、オオニシ大佐は特に咎めなかった。
「戦線離脱か・・・」
「どれくらいの期間だ?」
「最低でも1ヶ月・・・」
「痛いな・・・圧縮治療でも無理なのか?」
「心の病は時間が必要らしい。」
「もう本人には伝えたのか?」
「これからだ。気が重い・・・」
三人とも無言になってしまった。
「ところで後任はどうするのだ?」
「それはこちらに考えがある。追って指示をする。」
オオニシ大佐が代わりに応えた。
スサノオはリサの状態が心配なのか、話が終わると敬礼をして医療区画へ向かった。
「さて、二人共。悪いがスサノオ大尉はあの状態だ。それにリサ中尉は多大な貢献を我々戦闘飛行隊にした。だからスサノオ大尉が一旦戦線を離れるのを許そうと思う。彼に取っても公私共にパートナーであるリサ中尉があのような状態に陥ったのはショックであったろう。すまないが、今少し我慢してくれ。」
この事については二人どころか、第3中隊のメンバーは全員文句は無かった。
むしろ心配であった。
最近の日本ではやっとこう言う行為は認められるようになったが、ひと頃昔であれば甘いとか我儘とか言われてとても許される行為では無かった。
だが、騎士団は決してそのような事は無かった。
騎士団は優しいな・・・そんな呑気な事をアルベルトは思っていたが、突然、オオニシ艦長が気合の入った声で命令を二人に言い渡した。
「そろそろ本題に入ろう。クサナギ中尉!作戦を命じる。」
「は!」
「本日、ヒト・ナナ・サン・マルに第3中隊は発艦し、地上部隊の対空砲火を支援しろ。地上部隊はリサ中尉が発案した一点集中の戦術で穴を空けようとしている。これを距離10マイルの距離から支援しろ。近づいても5マイルだ。それ以上は正確に魔力を検知される可能性がある。近づくな。いいな。」
「は!本日ヒト・ナナ・サン・マルに発艦。地上部隊と連携して敵部隊の防御網に距離10から5マイルの距離で攻撃を行います!」
二人共揃って敬礼をした。
やがてCICから出て、ブリーフイングルームへ向かった。
CICへ向かう前に既に第3中隊のメンバーには集まるように伝えていた。
いつもなら集める役割はアルベルトが行っていたが、今日はクサナギ中尉が中隊長代理でアルベルトが副官のようになっていたため、メンバーを集めるのはベテランのドラゴンライダーが行った。
ブリーフイングルームに入ると既に全員が集まっていた。
いや、それは正確ではなかった。
ここにいるべき者がいなかった。
スサノオとリサだ。
アルベルトは寂しく感じつつも、クサナギの隣に立ち副官代理として控えた。
「よ!中隊長代理!」
メンバーの一人がクサナギ中尉を揶揄った。
「よしてくれ。中隊長は次の出撃には戻ってくる。」
「おいおい!副官殿も緊張しているのか?」
「うるせーよ!」
アルベルトは照れ笑いした。
笑いが起きた。
第3中隊はいつもの雰囲気になった。
笑いが収まった後、クサナギ中尉は作戦を説明した。
クサナギ中尉が概要を説明し終わると、詳細内容はアルベルトが説明した。
地上部隊との無線周波数の割り当て、作戦開始の位置。
一通り説明が終わると一旦解散となり、全員飛行甲板に向かった。
皆、何も言わなかったが、なんと無く物足りない雰囲気だった。
それだけスサノオとリサの存在が大きかったのだが、今はその二人はいない。
なんと無く寂しい雰囲気だった。
それに付け加えて、アルベルトは他の感情も持っていた。
そこへナオが話しかけて来た。
「ねえ・・・いつまでこれが続くの・・・?」
実はアルベルトも思っていた事だった。
「分からない・・・あえて言えば敵が諦めて撤退するまでだが、大型飛竜が5匹にまで減らされているにも関わらず、あいつらは諦めていない。奴らの執念が折れない限り終わらないだろう。」
「終わりが見えないわね・・・」
アルベルトはナオを見た。
そして突然肩を掴むと顔を近づけ、キスをした。
リサは黙ってそれを受け入れた。
二人はキスを終えると、黙ってお互いを見つめた。
暫くするとナオが出し抜けに言った。
「ねえ、これが終わったら・・・結婚して♡」
「はあ!?お前、何言ってんだよ!それにそれモブキャラのフラグじゃねーかよ!」
「大丈夫よ。だいたいこのセリフは男のキャラが言うセリフよ。逆の意味でゲンを担いだの。絶対に死にませんようにって。」
アルベルトはナオを見た。
そしてそっと頬に触れて言った。
「ああ。死なないよ。お前こそ生き伸びろよ。」
「ええ。」
二人は飛行甲板に向かった。
既に第3中隊の機体は列になって並べらていて、二人はそれぞれの愛機に向かうとラダーを昇ってコクピットに収まった。
ラダーが外されて、エンジンが始動した。
クサナギが第3中隊に向かって無線で呼びかけた。
「野郎ども!今日も生き残るぞ!」
こうしてスサノオのいない第3中隊は敵に向かって発艦して行った。
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