第78話 切れ者二人
スサノオ達は敵の”巨大ガメ”の斜め上に登るべく高度を19,000フィートまで上げた。
そこから速度を上げて、マッハ1.2で敵へ迫る。
ヘッドアップディスプレイに表示されている敵との距離がどんどん縮まった。
20・・・15・・・10・・・。
近づくにつれて”巨大ガメ”の甲羅部分が前方の下側いっぱいに広がった。
よく見ると小さな点がいっぱい見える。
小さな点は皆飛竜だ。
更に距離が縮まる。
9・・7・・5・・4・・2!
スサノオは操縦桿を前に押して機首を下側に向けると甲羅の頂上付近に狙いを定め、引き金を引いた。
パァン!
パァン!
乾いた音が鳴り、レールガンは頂上付近の飛竜へ弾体を発射した。
それから数秒の後、急降下で迫っていた第1中隊のドラゴンファイターが爆弾を落とした。
大音響と共にレールガンを撃ち込んだ辺りから煙が上がった。
しかし、飛竜艇はまだ沈んでいなかった。
スサノオは引き金を引き続け、頂上付近を執拗に攻撃した。
後続のドラゴンファイターが爆撃を継続する。
ドカーンッ!
大きな音がして再び爆発が起きる。
すると飛竜艇は大きく崩れ、落下して行った。
同時に、殻の隙間から幾つもの光の筋がこちらに目掛けて放たれた。
ただし、どれも機体の遥か後方に伸びていて、こちらに当たる様子は無かった。
この状態であれば一先ず安心と言った所だった。
「シエラ・コントロール。こちらパパ・ワン。一先ず飛竜艇一隻を屠った。このまま退避空域に移動して監視と指揮を行いたいと思う。第3中隊はこのまま計画通りに攻撃を続行せよ。」
「こちらシエラ・コントロール。パパ・ワン、了解しました。くれぐれも油断しないように気をつけてください。」
「シエラ・ワン。こちらパパ・ワン。了解した。」
スサノオはとりあえず20マイル離れた退避空域へ向かった。
振り返ると、後続の2機が甲羅の頂上を攻撃し、同時に爆発が起きているのが見えた。
対空砲火の飛竜のブレスは、ドラゴンファイターに追いつけず空回りをしている。
だがリサの顔は浮かなかった。
彼女は犠牲が出ると予測しているのだ。
勿論、そうならないように対策はしているが、彼女曰く、戦場は予測が付かない、だから油断は禁物との事であった。
退避空域で監視・指揮をすると飛空艦へ連絡したが、それはリサが上層部へ望んだからでもあった。
スサノオはバックミラー越しにリサを見た。
リサはいつも以上に真剣にモニターを注視していた。
ロークリオは狼狽していた。
そして公爵領帝都屋敷の襲撃事件を思い出し、手が震え始めていた。
ドカーンッ!
上の方で何度か爆発音がする。
時々バラバラになった飛竜艇が降って来た。
一緒に人間や飛竜の肉片も降って来た。
ロークリオに取っては以前にも見た光景だったが、今回はじめて戦場に参加した者や、奴隷達に取っては見た事がない凄惨な光景で、何人かは飛竜艇の欄干に掴まって吐いていた。
なんとか、なんとかしなければ!
「飛竜艇が落ちたら距離を詰めて穴を塞げ!なんとしても大型飛竜を射程内に前進させろ!」
ロークリオはこれと言った対応策は思い浮かべ無かった。
ただ、こう叫ぶのが精一杯だった。
ノブリは殻の外周部で周りにブレスの方向を指示していた。
だが所詮は素人集団だ。
帝国軍の飛竜隊と違って統制が取れている訳でも無く、指示をしても反応は鈍かった。
別に志願して指示をしている訳では無いが、戦闘を重ねるうちに威張るだけで役に立たない奴隷監視役の代わりに自然と指揮を取るようになっていた。
それでもこの体たらくである。
やられるだけやられるのが、もはや定番のスタイルになっていると言って良い。
だが、それでもノブリは一度は帝国軍のドラゴンライダーだった自負もあり、なんとか反撃をしたいと思っていた。
そうした思いが功を奏したのか、ロークリオや他の軍団トップとは異なり、ここへ来て“超飛竜“の大凡の方角や速度が分かるようになって来ていた。
それでも実際は半信半疑だった。
大型飛竜の最大速度の4倍、たまにそれ以上と思われる速度で飛ぶ飛竜など見た事が無い。
出来るとすれば何らかの魔道具や魔力で出来るのかも知れないが、今までそのような物は聞いた事が無いし、それに魔力は小型飛竜並みとしか思えないものであった。
だが現実に戦ってみて、”超飛竜“が放つ“イカヅチ魔法”を観察する限りでは、どう見てもかなりの速度で移動しているとしか思え無かった。
それも人知を超える速度だ。
飛竜艇の魔道士から聞いた話では、魔力を感じたと思ったらいなくなっていると言う感じだ。
どうしたら奴らを捉えられるのか?
ノブリは相変わらず爆裂魔法を打ち込まれている甲羅の頂上付近を見ていた。
魔力を感じたと思った瞬間に周りの飛竜達にブレスを吐かせているが、直ぐに魔力反応が消える。
そして頂上付近で爆発が起き、既に4隻ほどの飛竜艇が落ちた。
もう一度ジッと頂上付近を見た。
“イカヅチ魔法”が斜め前の上空から打ち込まれて、頂上付近で爆発が起きる・・・。
何故、頂上なんだ?
何故斜め前から近づいている筈なのに、真上を狙う?
何度目かの爆発の後にノブリは気がついた。
“イカヅチ魔法“は囮だ。
では本隊はどこに?
そして前回の攻撃を思い出した。
真上から光の筋が降って来た光景を・・・。
リサはドラゴンファイターの後席でずっとモニターを見ていた。
彼女は予感がしていたのだ。
作戦が見破られる事を。
バレて欲しく無かったが、飛竜部隊の中に頭が切れる者がいるらしく、他の飛竜部隊とは異なり、妙なところで反撃をして来る部隊がいた。
そのおかげで第3中隊に大きな犠牲が出た。
スサノオが中隊長に無理矢理昇格されたのも、その大きな犠牲で前任が再起不能になった為であった。
その原因となったのは恐らく正体不明の切れ物だ。
何度と無くその存在を感じていた。
予測だが、ロークリオや他の軍団の上層部とは違い、要所要所で際どい反撃をして来た。
幸いどの反撃も難なく躱して来たが、今度ばかりは敵の数も多く、頑強なためどうなるか分からない。
この不安要素はオオニシ艦長を含め戦闘飛行隊の上層部には伝えていた。
なのでスサノオは監視・指揮で退避空域に残ったのだ。
リサは考えた。
どんな反撃を敵はして来るか?
考えられるケースは幾つかあった。
その中で一番危険なケースは真上から別のドラゴンファイターが攻撃している事を看破られる事だった。
なのでリサは敵の動き、特に魔力の反応を集中して見ていた。
第1中隊の攻撃が終わり、今度は第2中隊が攻撃に入った。
第3中隊は引き続き囮役で、レールガンの攻撃をする事になった。
ただし、今度は別の方角から行う事になっている。
甲羅の穴は徐々に広がり、かつ深くなり始めていた。
このままであれば、次に第1中隊が爆撃する頃には何とかミサイルが打ち込めるようになる見込みだ。
スサノオは第2中隊の爆撃に合わせ、再びレールガンの攻撃に参加するべくアルベルトと共に甲羅へ向かった。
退避空域から大きく旋回して、甲羅の正面やや右に回る。
ここで高度を20,000フィート近くに上げ、スピードを上げた。
「リサ、カウントを頼む。」
「はい、カウント3で行きます。3・・・2・・・1・・・今!」
スサノオはレールガンを引いた。
先程と同じ容量だ。
しかし!
突然、ブレスが機体の間近をを掠めた。
スサノオもアルベルトも一瞬自分がやられたのでは無いかと勘違いする程の距離だった。
「急速離脱して下さい!位置がバレています!ブレイク!ブレイク!」
リサが叫んだ。
スサノオはスロットルを目一杯押すと操縦桿を左に倒し、同時に目一杯引いた。
アルベルトも合わせるように同じ起動をかけた。
機体が90度左に傾く。
左側に青い塩湖の湖面と雲が見えた。
それが急激に向きを変えて流れて行く。
機体がGに抗ってビリビリと振動した。
機体が旋回した瞬間、右斜め後方に光の筋が走るのが見えた。
飛竜から放たれたブレスだ。
あのまま真っ直ぐに進んでいたら・・・。
スサノオは肝を冷やした。
しかし、次の瞬間、リサが悲鳴のように叫んだ。
「第2中隊!今すぐ離脱して下さい!大量のブレスが上に向かいます!退避!直ぐに退避!」
その直後、甲羅の上半分から一斉に真上に向かってブレスが吐き出された。
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