第77話 再びの一番槍
飛空艦と地下基地とを通信で結び、戦闘飛行隊全中隊の合同ブリーフィングが行われ、作戦の説明が行われた。
説明は淡々と行われて、各中隊の割り振りが伝えられた。
爆撃は第1/第2中隊が行い、囮役は第3中隊が受け持つ事になった。
ブリーフィングが終わるとスサノオ達は発進甲板に向かった。
第3中隊の各機は既に発進甲板に列を作って並べられていて、いつでも発進出来る状態にされている。
スサノオは列の先頭に駐機していた愛機にラダーを伝って昇った。
リサと共にコクピットに治ると直ぐにラダーが外され、同時にスターターから圧縮空気が送られてエンジンがスタートとした。
エンジンスタートと同時に、スサノオは中隊全機に話かけた。
「全員聞いてくれ。今回は2機編隊で順次レールガンで攻撃を仕掛ける。知っての通り、我々は囮役だ。エンジンを吹かして我々の存在をアピールしろ。そして攻撃をまともに受けないように音速で逃げろ。そう簡単には当たらない筈だ。飛行隊長がブリーフィングで言っていた通り、みんなで生きて帰ろう。」
言ってみれば、昭和の時代に子供達の間で流行った”ピンポンダッシュ”・・・家の呼び鈴を鳴らして逃げる悪戯・・・と同じだ。
エンジンをフルパワーにして近づき、爆撃ポイント付近の飛竜艇をレールガンで攻撃して猛スピードで離脱する。
言うは簡単だが、実際は数百隻・数百匹いる敵の目を引きつける訳で、本当に逃げ切れるのかの保証は全く無い。
今回この任務に第3中隊が選ばれたのはこれまでの実績からで、第1/第2中隊の堅実な戦い方をする部隊には無理だと判断されたからだ。
中隊に声をかけているうちに、機体の斜め前にいた黄色のベストを着た整備員が手を頭に上げ忙しく手の交叉を繰り返した。
「では先に出る。みんな頑張ってくれ。」
スサノオはエンジンを上げ、発進位置に機体を前進させた。
そしていつも通りに機体が天井から吊り下げられ、ギアを上げ、床面が開くとエンジンをフルパワーにした。
「リサ、行くよ。覚悟は良いかい?」
「いいわ。行きましょう。」
機体が飛空艦の外に吊り下げられた。
整備員が腕を真っ直ぐに伸ばす。
ガコンッと言う音がしてドラゴンファイターが飛空艦から落とされた。
スサノオは飛空艦の真横に位置を取ると、続いて出て来る予定になっていたアルベルトを待った。
1分程して直ぐにアルベルトが飛空艦から落とされた。
アルベルトはゆっくりと横にズレて行くと、スサノオの斜め後ろの位置に並び編隊を組んだ。
「デルタ・ワン。よろしく頼む。」
「パパ・ワン。こちらこそよろしく頼む。」
ロークリオは殻の中心の、大型飛竜に近い場所にいる飛竜艇に乗船していた。
椅子に斜めに座り、机の上に左手を乗せ、憮然とした顔でイラついたように貧乏ゆすりをしていた。
ロークリオの乗船していた飛竜艇は中心にいたために、上には防御用の飛竜艇が何隻もいた。
何隻も飛竜が上に被さっているせいで、空からの光が遮られ飛竜艇はやや暗がりにいるような感じだ。
その為、飛竜艇の内部は魔石を使った照明がつけられていたが、光に当てられたロークリオの顔は不気味だった。
打てる手は全て打った。
防御力をかなり高めた筈だが、不安は尽きない。
この姿を見て公爵領がどう思うのか、そしてどんな攻撃を仕掛けて来るのか、ロークリオは全く予測が出来なかった。
せめて射程圏内までこの防御がもって欲しい。
考えれば考える程不安が尽きない。
ロークリオは失った右腕を見た。
見たと言ってもそこにあった腕はもう無い。
ただふと見ただけであった。
帝都で起きた事を思い出した。
爆発が鳴り響き、忌々しい騎士達が次々に死んでいった。
内心いい気味だと思っていたら突然横に立っていた部下が死に、気が付けば右腕を失っていた。
右腕腕を失ったと同時にランポの領地騎士団も多くを失い、与えられた実質トップの地位を失うところだった。
恐怖感と悔恨の思いが甦って来る。
悪夢の出来事であった。
今度こそ成果らしい成果を出さなければならない。
もう失敗は許されない。
ノブリは殻の外側、やや斜め上にいた。
正直、こんな防御方法は見た事が無いが、これまでの公爵領からの攻撃を考えれば仕方ない方法だと思った。
だが帝都での公爵領屋敷事件の際、防御魔法は強力な爆裂魔法で壊されたと聞く。
今回も公爵領騎士団は爆裂魔法を仕掛けて来るであろう。
ただ、帝都の事件の時とは違い、防御魔法を施した飛竜艇が何重にも取り巻いている。
どれだけの攻撃力を公爵領が持っているか不明だが、恐らくそう簡単にはこの防御は壊せないだろう。
しかし、例の謎の指揮官が出て来たら状況は分からない。
十分に気をつけるべきであろう。
そう思いながら、ノブリは騎乗している飛竜の様子を見ながら周りを警戒した。
スサノオはアルベルトと合流すると一旦敵とは反対方向に向かった。
第1中隊の爆撃のタイミングに合わせる必要があるからで、彼らが高高度を取った段階で敵に高速で向かい攻撃をする事になっていた。
「リサ。第1中隊の様子はどうだい?」
「いま、急速上昇中。予定通り、300で急降下に入る予定よ。後5分ってところかしら。」
「先にこちらが先制しなければいけない。残り3分になったら教えてくれ。」
「分かったわ。カウントはいる?」
「アルベルトと連携する必要がある。カウント3で合図を奴に送ってくれ。」
「分かったわ。」
そう言うと、リサはアルベルトを呼び出した。
「デルタ・ワン。聞こえますか?後2分程したら作戦を開始します。カウント3で敵に高速で向かいますのでタイミングを合わせてください。」
「こちらデルタ・ワン。了解した。スピードはどれくらいだ?」
「1.2で頼む。」
スサノオがリサの代わりに応えた。
「了解した。では2分程待ちますか。」
音速は低空になるほど出しにくい。
低空では気圧が高く、その為に抵抗が大きい。
そして1万メートル以上の高度では人がまともに暮らせない程低い気圧と気温なのだが、低高度の高い気圧では摩擦熱も大きく音速が出しにくいのだ。
なのでスピードは1.2に抑える事にしたのだ。
※余談ですが、かつて唯一の超音速旅客機だったコンコルドは、通常の旅客機が飛ぶ高度の2倍の2万メートルの高度をマッハ2で飛んでいましたが、その高空でも機体の温度が上がり、20センチほど伸びたと言います。
2分間と言う時間は長いのか、短いのか微妙な時間だった。
それでもスサノオ達にとっては気持ちが昂ぶって緊張感があったため、長く感じた。
「私用通信ですまないが・・・気楽に行こうぜ、中隊長殿!」
「ああ、そうだな。こう言う時は戦いが終わった時のことを考えよう。」
「戦いが終わったら・・・ゆっくり休みたいわ。」
「同感・・・いくら圧縮睡眠や回復魔法をかけられても、精神的に参るな・・・」
「休み終わったらどうする?」
「そうだな・・・デートか?」
「ナオと一緒に?」
「ああ・・・ってなんでお前が聞く?」
「妹にだって聞く権利はあるわ!それとも何か言えない事でもしてるの?」
「はぁ!?な・な・な・な・何を言っているんだ!お・お・お・お・お前らだってそれくらいあるだろう?」
「無いぞ?」
「無いわよ?何を言っているの?」
「へ?あれ?いや、その・・・」
「そこら辺で許してあげる・・・それよりもそろそろ時間よ。」
話をしているうちに2分近くになっていた。
そろそろ攻撃を開始する時間だ。
因みにこの会話は中隊全機に聴こえてたわけだが、誰も文句は言わなかった。
何故なら全員こう言った馬鹿話も出来ないくらい余裕が無かったからだ。
少しだけとは言え、こう言う話を聞きたいと思っていたのだ。
ただ一人だけ顔を真っ赤にしていた者がいた。
「アルベルトの馬鹿・・・」
ナオは誰にも聞かれない独り言を呟くのであった。
「カウント3します。行きます。」
リサがカウントを開始した。
「3・・・2・・・1・・・今!」
スサノオとアルベルトはスロットルを目一杯に押すと、アフターバーナーを点火した。
G対策が施されているコクピット内でもグンとした加速を感じた。
スサノオ達は、先頭に立って一番槍として敵へ向かって行った。
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