第75話 常識外の防御結界
ロークリオは苛立ちが頂点に達しようとした。
全軍を前進させたら、なけなしの大型飛竜が2匹も落とされた。
前に進めば更に落とされそうだが、かと言って後に引くことも出来ない。
ここは何としても大型飛竜を守りつつ射程内に進み、大型飛竜による攻撃で公爵領の結界を破壊しなければならない。
彼には後が無かった。
もしここで撤退をすれば自分はランポの信用を完全に失うし、ランポ自身の失脚にも繋がってしまう。
更にここで公爵領を攻略し秘匿されているであろう魔道具を入手しなければ、自分はおろか主人であるランポは破産してしまう。
それだけこの遠征には金がかかっているのだ。
大型飛竜を温存するだけの為の理由で撤退する事は出来ない。
だが打つ手が無い。
効果的に責める手段が無いのだ。
公爵領側はジリジリとこちらの戦力を剥ぎ取って来ているし、違法ナランの実を喰わせた飛竜も公爵領からの結界越しの反撃によって2/3程の数に落ちてきた。
もともと兵器としか見ていない奴隷兵達だったので、生きようが死のうが気にしていなかったが、流石に数が減って来て心細くなった。
ロークリオは、先程よりも忙しなく狭い飛竜艇の中を行ったり来たりした。
策は無いのか?
何か策は?
残念ながら、騎士学校で用兵術を習った事が無く、書物もまともに読んだ事が無いロークリオには妙案らしい妙案は思い浮かばなかった。
もともと町の用心棒でしか無く、たまたまランポに気に入られて今の立場になっただけである。
そんな彼に妙案が思い付ける筈は無かった。
しかも厄介な事に、正義にならない正義感を持っていて、その役に立たない正義感を否定されると烈火の如く怒りだし、部下は下手に注進する事が出来なかった。
イライラしながらランポはふと横にいる大型飛竜を見た。
そこにはノブリがいて、大型飛竜を中心にして四方八方に高魔力の飛竜を配置させているところだった。
「あの奴隷は何をしている?」
「大型飛竜を守る為に、魔力の強い飛竜を防御魔法の核にして防御力を高めているのでは無いですか?」
・・・・ロークリオは無言でその様子をじっと見ていた。
暫くするとふと思いついた。
「大型飛竜を囲んでいる飛竜艇をもっと増やせ。その隙間に飛竜を潜り込ませろ。ただし、あいつがやっている様に、防御魔法の核になっている飛竜を常に一緒に居させろ。」
そう言い終えると、ロークリオは椅子に座った。
大型飛竜を落とさせ無いためには大型飛竜を防衛魔法で守るしか無い。
それにはかなり多くの飛竜艇で囲ました方が良い。
しかもかなり大規模な囲いでだ。
まるで亀の甲羅の中に入れるように・・・。
そうする為にはどうしたら良い?
全部の飛竜艇と飛竜とで隙間無く囲むか?
だが囲んでいる最中に攻撃されたらどうする?
そうなら無いために、少し下げるか?
少しでも被害を出さないように・・・。
敵の攻撃が一時的に止んでいる今がチャンスだ。
「全軍一旦下がれ!下がったら全大型飛竜を一箇所に固めろ!その周りを全ての飛竜艇とトチ狂っていない飛竜で囲ませろ!」
ロークリオはふとノブリがやっている防御を見た。
「あいつだ!あいつみたいに防御を高くした飛竜を飛竜艇の間に入れろ。それから、再び攻撃が来るまでの間に飛竜艇同士、それに飛竜、それぞれをロープや鎖で繋ぎ、大型飛竜の周りを囲ませろ!大急ぎでやれ!」
側近は驚愕した。
そんな防御は聞いた事が無い。
どう言う発想なんだ?
「そ、それでは大型飛竜がブレスを撃て無くなります!」
それもそうだ・・・。
いつもなら注進されると怒り出すロークリオであったが、今回は本人も驚くほど素直だった。
「ならば、正面は自由に動ける様にしろ。ただし、他の場所よりも多く飛竜や飛竜艇を配置しろ!10分でやれ!急げ!」
側近は何か言おうとしたが、ロークリオが珍しく矢継ぎ早に命令をくだす姿を見て取り敢えず言う事を聞く事にした。
だが、まだ言いたい事があった。
「10分はあまりにも短すぎます。せめて60分ください。何卒・・・何卒・・・。」
ロークリオは少し機嫌が悪そうな表情をしたが、やがて憮然とした顔で言った。
「好きにしろ。」
飛空艦のCICでは、モニター画面を注視しながら次の手を考えていた。
スサノオ達第3中隊の活躍で何とか大型飛竜を5匹までに減らす事が出来たが、ドラゴンファイターを何度も出し過ぎた。
ドラゴンライダー達パイロットは圧縮睡眠と回復ポーション&魔法で繰り返し出撃させて来たが、そろそろ1〜2時間ほど休ませないと、体や精神に異常を来す恐れがあった。
それに、整備士達も酷使していて、彼らにも交代させながら睡眠圧縮や回復魔法をかけていたがそれも限界に達しようとしていた。
レーダーや各種センサーで敵を見ていると、向こうも攻撃を恐れたのか後退し始めている。
ただし、まだ違法ナランを食わされたと思しき飛竜は多数残っていて、公爵領目掛けてブレスを吐き続けていた。
相手は軍用では無い一般の飛竜とは言え、まだ700匹弱程いる。
対空砲火で大分落としはしたが、まだ1/3程落としただけである。
通常であれば1/3も兵力を失えば全滅判定だ。
何故全滅判定になるかと言えば、それだけ兵力を失えば組織的な動きが出来ないからだ。
だが、ランポ軍団は話は別だった。
彼らは奴隷兵であり組織的な動きは取らないし取れ無い。
彼らは連携も何も無く、無茶苦茶に突っ込んできてはブレスを吐いた。
元々奴隷兵だから連携がないと言う理由もあったが、違法ナランを飛竜へ喰わせたからと言う理由もあった。
対空砲火で落とされようとされまいと、とにかく無茶苦茶に突っ込んで来た。
まるで秩序の無い自爆兵の集団だ。
こちらの撃墜の方が遥かに面倒だった。
だがその自殺兵もそろそろ限界がきている様で、何匹かの飛竜から血が吹き出していた。
それにしても違法ナランを食わされてから大分時間が経ったのに、まだ大多数が何とか飛んでいる。
騎士団司令部にとっては何故に長持ちしているのか不思議だったが、ようはブレスを吐き続けた事で、上手い具合に余った魔力を吐き出す事が出来ていたのだ。
それでもそれ程上手く魔力を消費していると言う訳では無く、消耗は確実にしていていずれ落下する事になるのは確実だった。
大型飛竜と飛竜艇が後退してから暫くしてからだった。
敵は妙な動きをし始めた。
CICのスタッフはその動きを怪訝そうな表情で見ていた。
距離は10マイル以上離れて20マイルに達しようとしていたが、一箇所に集まっている様に見えた。
一体何をしているのだ?
偵察機を飛ばしたかったが今オスプレイやシーホークを出せば、公爵領へ取り憑いている飛竜達が吐くブレスの流れ弾に当たる可能性があった。
かと言って今はドラゴンファイターは出せない。
ドラゴンライダーはクールダウンをさせている最中だ。
そんなところに休憩中の筈のリサがふらりとCICへ現れた。
「リサ中尉?休憩中では?」
「そうなんですが・・・ぼっとしている気分じゃ無くて・・・情報収集を兼ねて来ちゃいました。」
そう言うと、リサはモニターを見た。
「これは?」
「敵の大型飛竜と飛竜艇が下がったのですが・・・集まっている様に見えるのですよ・・・。」
「何をやっているか分からなくてな。司令部とも無線で相談してたところだ。」
艦長のオオニシ大佐が答えた。
リサは黙ってモニターを見続けていた。
「すみません。少しいじっても良いですか?どなたかのコントロールをお借りしたいのですが・・・」
リサは艦長の顔を見た。
「良いだろう。リン少尉、席を譲ってやれ。」
リサはリンに礼を言うと、小型モニターのついた席に座りコントロールを弄り出した。
カチカチとマウスを動かす音がし、時々キーボードを叩く音もした。
リサは右肘を机に付き、顎を右手に乗せ、眉間に皺を寄せ考え込んだ。
考えこみながら左手の人差し指を動かし、トントンと机を叩いた。
やがて何かを思いついたのか再びマウスを動かし、キーボードを叩く。
同じ動作を数回繰り返した後、リサは突如立ち上がった。
「艦長。大変な事が分かりました。」
「大変な事だと?」
リサは黙って頷いた。
「説明しろ。」
「はい。」
そう言うと、リサは少し屈みながらマウスを動かすと、モニターの画面を正面モニターに映し出した。
「ここを見てください。」
そう言ってリサはポインターでまばらに点在している点をなぞった。
「これは、50隻程の飛竜艇ですが前面に回ろうとしています。」
そう言いながら、今度は真ん中と幾つかの点が集まってベタになりつつある箇所をポインターでなぞった。
「これは100隻近い飛竜艇が集まっている様子です。ここまでは分かりますね?」
「ああ。それが何故そのように集まっているのかがわからないのだ。」
「この動きがいつ始まって、どのような推移したのか確認してみました。過去40分前までは、飛竜艇は集まると言ってもせいぜい多くて20隻ほどでした。その飛竜艇の部隊は大型飛竜を囲むように集まっていました。それが後退をし始めたと同時に大型飛竜と一緒に動き、大型飛竜と一緒に一箇所に集まり始めました。」
「ああ、そうだ。」
「そして、他の残りの飛竜艇は何箇所かに固まり始めています。それも100隻程の集団に。」
リサはジッと艦長を見た。
「続けろ。」
「はい。この集団はどこに向かっているでしょうか?大型飛竜の所です。大型飛竜も一箇所に集まり始めています。そして通常の飛竜も大型飛竜の周りにいる飛竜艇の集団に入り込み始めています。」
「どう言う事だ?」
「彼らは大型飛竜の周りを卵の殻のように囲んで防御壁を作っているのです。それも何重にもなるように重ねて。飛竜は恐らく我々が攻撃した時用の防御壁の一部として使い、また対空砲火にも使うつもりです。」
「!?あと何分でその多重の防壁は出来る?」
「恐らく完成間近です。あと20分と言った所でしょうか?」
意味を瞬時に理解したオオニシ大佐は青褪めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます