第74話 失点を取り返したい

スサノオ達は敵の真下から一斉に敵の飛竜艇と飛竜へレールガンで射撃を始めた。

予想外の場所からの攻撃に驚いたのか、飛竜艇も飛竜も一斉に隊列を乱して、バラバラになった。

しかし、飛竜艇は防御魔法を施したおかげか、これまでのように1発や2発で落ちると言う事は無く、しぶとく飛行を続けた。

飛竜はと言うと、こちらも防御が上がったようだ。

例の隠蔽魔法の中心だった飛竜は健在で、今度は防御魔法用の魔力で防御魔法を張っていた。

このため、なかなか落ちなくなった。

だがそれでもスサノオは撃ち続けた。

やがて敵部隊の端の方にスサノオ達は近づいた。

リサが叫んだ。


「小隊!射撃を止めて退避してください!」


小隊6機は一斉に射撃をやめ、機体を正常な位置に戻すと、スピードを上げ敵の部隊からの離脱を図った。



奴隷でドラゴンライダーのノブリは、下側からの攻撃に面食らった。

下側に飛竜の魔力を感じたと奴隷の魔道士から聞いた時は、敵は愚かな選択をしたと思い込んだ。

通常空中戦では、高度が高い者が有利になる。

それは地球の空中戦では当たり前の事で常識だったが、この異世界でも同じだった。

だから帝国軍のドラゴンライダーだったノブリからすると、敵の行動は理解に苦しむ行為だった。

しかし、それは間違った認識だった。

まさか下から攻撃をして来るとは思いもよらなかった。

しかも正確に飛竜に向かって攻撃を仕掛けて来る。

姿が見えないので数はわからないが、十数匹の”超飛竜”がいると予測した。

攻撃は斜め前方から大型飛竜に向かって、もの凄い高速で迫って来た。

間一髪で位置をずらして攻撃を避ける事は出来たが、何匹かの飛竜がイカヅチ魔法を何発か受けて落とされた。

ノブリは急いで”超飛竜“が向かった先を予測し、指を差して叫んだ。


「そっちだ!そっちの方向へ撃て!」


殆どの奴隷は上手く飛竜をコントロールする事が出来ない 。

その為、なかなか思った方向へブレスを放つ事は出来なかった。

しかし、一部の者は奴隷になる前に飛竜に仕事で乗っていた者がいて、その者達は何とかノブリが示した方向へ飛竜のブレスを放った。

光の筋が斜め後方に放たれた。

しかし、相変わらず手応えは無かった。

ブレスは虚しくそのまま飛んで行くだけだった。


ノブリは徐々に理解して来ていた。

ここ最近の公爵領騎士団の攻撃はだいたい何回かに別れて行われている。

その中で攻撃パターンが全く異なる時があり、それは意表を突く攻撃法だった。

その攻撃を受けると被害は大きくなった。

恐らく、その攻撃を率いている指揮官は機転が効く人物で優秀なのだろう。

今回もその指揮官なのだろう。


次はどこから来る?

以前は真横や後ろから襲われた。

それとも同じ方向か?


「タント!奴らだ!次はどこから来るか分からない!防御を固めろ!」

「分かった!高魔力の飛竜を固める!お前ら、死にたく無かったらこっちへ固まれ!」


タントはノブリと同じくかつて帝国軍に所属していたドラゴンライダーだ。

二人とも帝国軍で不祥事を起こし、多大な借金を負い奴隷に落とされた。

そして無理矢理ランポに買われて、奴隷のドラゴンライダーとして公爵領騎士団と戦う羽目になった。

タントとノブリは大型飛竜の周りに、隠蔽魔法をかける際に使った高魔力を持つ飛竜を集め防御を固めた。

飛竜艇も危機感を持ったのか、数艇、大型飛竜の周りに集まった。

攻撃は止んでいた。

妙に静かだった。

ノブリはゴクリと唾を飲んだ。



その頃、スサノオ達は増速して急上昇していた。

それでも敵の部隊から5マイル程の距離にいた。

高度がどんどん上がり29,000フィートの高さまで来た。


「小隊各機!高度350で操縦桿を引いて敵の真上まで移動!真上に来たらカウント3で真下に向かってカットオフし急降下して下さい。その後カウント3で大型飛竜付近の飛竜と飛竜艇を排除します!第2小隊は飛竜艇が排除出来たら、その隙間からミサイルを大型飛竜に打ち込んで下さい!」

「こちらゴルフ・ワン!了解した!ナオ!出来るな?」

「はい!やって見せます!」


第1小隊の各機は高度が35,000フィートに達すると、操縦桿を引き裏返しのまま敵の真上付近に来た。


「第1小隊、カウント行きます!3・・・2・・・1・・・今!」


第1小隊の全機はエンジンをアイドル状態にすると操縦桿を引き、一斉に真下へ向かって急降下に入った。


「第1小隊!攻撃に入ります!3・・・2・・・1・・・今!」


第1小隊の全機から一斉に真下の敵に向かってレールガンが放たれた。



ノブリは静かになった周りを見て不気味に思っていた。

実は決して静かになった訳では無く、少し先の方では違法ナランを喰わされてトチ狂った飛竜達が公爵領を攻撃していたのだが、ノブリにとっては遠くから聞こえるその音は騒音には感じられなかった。

先程の攻撃の中で聞いた飛竜の咆哮や混乱する奴隷達の声が無くった事で、物凄い静かな場所にいる様に感じていた。

なので尚更不安を感じていた。

ノブリは頻繁に周囲を見回した。

どこだ?

飛竜の手綱をギュッと握り締めた。

心なしか、額から汗が流れて来た感じがした。

まさかな・・・そう呟いて、ノブリは何と無く上を見上げた。

その瞬間だった。

イカヅチ魔法が一斉にこちらを目掛けて上から振って来た!

逃げようと思う暇も無かった。

何匹かの飛竜は防御魔法をかけていても耐えきれず、落とされまた傷ついた。

飛竜艇も何とか耐えてはいたが、一隻、防御魔法が破られ大きく破壊されて落ちて行った。

攻撃されている時間は凄く長く感じた。



スサノオ達第1小隊は高度15,000フィートまで降下すると一斉に操縦桿を引き、離脱した。

少なくとも一隻の飛竜艇は落とした筈だ。

だが後を振り返る暇はなかった。

エンジンをカットオフし、魔力をなるべく出さないようにして、降下した際のスピードを活かして遠くまで敵から離れなければならなかった。

その間、高高度からクサナギ中尉が引きいる第2小隊が同じくカットオフで降下しながら高速で大型飛竜に近づいた。


「ナオ少尉!見えるか?」

「はい、見えます!小隊長!」

「俺たちはレールガンで射撃して援護する。その間にミサイルで大型飛竜を落とせ!落ち着けば出来る!」

「はい!」

「カウント3します!」


クサナギ中尉の機体に乗っている戦術航法士が知らせた。


「行きます!3・・・2・・・1・・・今!」


第2小隊のナオを除いた全機が前方の飛竜と飛竜艇に向かってレールガンを放った。

ナオは操縦桿のウェポンセレクトでミサイルを選択し、機体を大型飛竜に向けた。

ヘッドアップディスプレイに表示される距離がどんどん縮まる。

5・・・4・・3・2。

ロックオンの警告音が鳴った。

反射的にナオはトリガーを引いた。



上からの攻撃の後、飛竜部隊に再度静けさが戻った。

だがそう思ったのは一瞬の間だけだった。

突然、後方の上空よりイカヅチ魔法が放たれた。

なす術も無く、飛竜がイカヅチ魔法に撃たれて落とされて行った。

先程の真上からの攻撃で、防御魔法の中心だった高魔力を有する飛竜が落とされて、防御魔法が弱くなってしまったのだ。

不味い!

ノブリがそう思った瞬間だった。


ズガーンッ!

ズガーンッ!


突然大型飛竜が爆発し、粉々に砕けた。


やっと本当の静けさが訪れた。

奴隷のドラゴンライダー達は呆然としていた。

ノブリは大型飛竜がいた場所を見た。

そこには白い雲がうっすらとあった。



スサノオは攻撃を終えると、距離を取りまず被害状況を確認した。

一番心配だったのはナオ達、新人が集まっている第2小隊だった。

かなり接近させる事を想定していたので、被害が出るのではと心配していたが、リサが全員の無事を確認した。

被害状況を確認した後に、戦果を確認した。

今回は何とか大型飛竜を2匹落とした。

しかし、敵の防御力を高めてしまう失態をしてしまった。

正直、スサノオ達“イレギュラーの第3中隊”でさえ防御力が高まった敵の大型飛竜を落とすのは1匹が限界だった。

これが堅実な攻撃法を取る第1・第2中隊ではもっと苦労する予感がした。


「第3中隊全機に告ぐ。これにて攻撃を終了し、飛空艦へ向かう。」


スサノオの宣言で、第3中隊は全機飛空艦へ向かったが皆無言だった。

頑張ったにも関わらず大型飛竜は残ってしまい、また多くの飛竜がまだ残っている。

公爵領の結界が破られる事に現実味が増してしまった。

第3中隊のメンバーはその事を自覚しているのだ。




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