第73話 予想外の不利な展開
敵の飛竜と飛竜艇は第1中隊と第2中隊の攻撃にもかかわらず、既に30マイルの距離に迫っていた。
もはや、先に公爵領へ着いて攻撃を仕掛けて来た飛竜と合流するのも時間の問題だ。
スサノオ達第3中隊はマッハ1.2付近で急速接近した。
「リサ!頼む!」
「第3中隊各機に通達します!これより作戦を開始します。先ず我々第1小隊が音速で敵の上空を通過すると同時にクラスターを投下します。続いて第2小隊は高度を取って、いつものようにカットオフで後方の遠距離からレールガンで射撃を10秒間行ってください。ただし3秒毎に水平移動する事を忘れないでください。10秒経ったら、直ぐに離脱して9時方向へ離脱。距離10でマックスパワーで退避空域に向かって下さい。我々第1小隊は第2小隊が離脱した後にミサイルで大型飛竜を狙います。」
「クサナギ先輩よろしくお願いします。」
「ああ、任された!第2小隊!高度を400まで上げるぞ!ついて来い!」
第3中隊は二手に分かれた。
スサノオは高度18,000フィート、スピードマッハ1.1前後で飛行した。
あまり速すぎると爆弾を落とせなくなるのだ。
かと言って、遅過ぎるとソニックブームが起こらない。
なので、ぎりぎり妥協出来る速度はこれしか無かった。
「中隊長!カウント3で11時方向へ修正ください!」
「了解!投下のタイミングも頼む!」
「了解です!第1小隊カウント3で11時へ!続けてカウント3で爆弾投下です!」
あっと言う間に敵の飛竜艇に近づいた。
「カウントします!3・・・2・・・1・・・今!」
第1小隊6機は息を合わせたかのように11時方向へ向かった。
敵はもう目の前と言って良い。
「続いてドロップです。行きます。3・・・2・・・1・・・今!」
瞬間、第1小隊からクラスター爆弾が飛竜艇を目掛けて落とされた。
ロークリオは飛竜艇から前方を見ていた。
やっと公爵領の浮遊島が見えて来た。
ここまで来る間に何度か”超飛竜”による攻撃を受け、何隻かの飛竜艇と飛竜が落とされた。
上陸戦を考えたらあまり飛竜艇は減らしたく無い。
とは言え、まだ680隻の飛竜艇が残っていた。
やはり数の暴力で押し切れるかも知れない。
前進する直前に、小さく切った赤いナランの実を全部の飛竜に食わせた。
それによって若干スピードも上がり、後数分程で前方の第3、第4戦列に追いつける。
何とかなるかも知れない。
そう思った時だった。
ドゴーンッ、ドゴーンッ、ドゴーンッ!
立て続けに鼓膜が破れる程の大きな爆発音が轟いた。
飛竜艇の窓や戸がガタガタと激しく揺れた。
次の瞬間だった。
ドカ、ドカ、ドカ、ドカ、ドカ、ドカーッ!
目の前の飛竜艇が複数の爆裂魔法に巻き込まれて燃え上がった。
なんだ?
何が起きた!?
どうやら6隻程、やられた様子だ。
まずい!
そう思った時だ。
ズガーン!
ズガーン!
ズガーン!
今度は後方から光の筋が幾つも飛んで来て、小型飛竜を数匹撃墜した。
奴隷のドラゴンライダーが、横方向へ指を差して飛竜からブレスを吐き出させた。
手応えは無さそうだった。
体制を立て直さなければ。
ロークリオはそう思って指示を飛ばそうとした時だ。
ズガーン!
ズガーン!
突然、大型飛竜が爆発しバラバラになって落ちて行った。
ほんの数分間の出来事だった。
他の者には数秒に感じた者もいたし、逆に数十分に感じた者もいた。
確実に言えたのは、対応する暇も無く攻撃を受けた事だった。
ここまで絶え間無く攻撃は受けてはいたが、何故か敵のイカヅチ魔法が外れる事が多くなって来ていて、進軍を止める程では無かった。
なので若干油断していた。
しかしあっと言う間に攻撃を受け、虎の子の大型飛竜をまた落とされた。
これまでこのようなパターンは無かった。
ロークリオは驚愕して椅子に座り込んでしまった。
まるで公爵屋敷を襲撃した時と同じだ。
訳も分から無いうちに被害が出てしまった。
「・・・・・殿・・・・・クリ・・・殿!ロー・・リオ殿!ロークリオ殿!」
ロークリオはハッとして見上げた。
呼ばれていたのに気がつかなったのだ。
どうやら先程の爆発音で耳をやられたらしい。
周りの飛竜艇を見ると、以前攻撃を受けた時のように隠蔽魔法を解いてしまっている飛竜艇が何隻かいた。
ロークリオはここに来てやっと悟った。
公爵領騎士団には隠蔽魔法は全く効いていない。
やるだけ魔力の無駄だ。
「ロークリオ殿!ロークリオ殿!聞こえますか?ご指示を!」
「ああ、聞こえてる。」
そう言ってゆっくりと立ち上がると言った。
「全軍に通達だ。隠蔽魔法を解いて、防御魔法を張れ。出来れば二重三重に張れ。魔力を防御に回せと伝えろ。」
スサノオ達第3中隊は、一旦退避空域に逃れ様子を見た。
遠くから赤外線カメラやレーダーを使って戦果を確認していたが、確認作業をしていたリサが突然驚きの声を上げた。
「あれ?あれあれあれ?」
「リサ中尉?」
「敵の隠蔽魔法が・・・敵が隠蔽魔法を解除してる・・・。」
「なんだって?」
「中隊長見てください。あっちを・・・・・」
そう言われてスサノオは敵がいる方向を見た。
本当だ・・・。
黒い点がところどころ現れ始めていた・・・。
その現れ方は、まるで騎士団ライブラリーにあった日本の超有名監督の超有名アニメの超大型の蟲の群れの赤い目が青い目に変わる時のようで・・・。
「な、何が起こったんだ?」
「分かりません・・・。けど魔力反応は先程と変わりありません・・・と言うよりも強くなってる?」
「どう言う事だ?」
「・・・つまり・・・隠蔽魔法に代わる魔法・・・それは・・・つまり・・・防御魔法・・・」
「防御魔法?」
「敵は隠蔽魔法をやめて防御魔法を張ったという事・・・です。つまり今までよりも打たれ強くなった・・・。」
スサノオは天を仰いだ。
今の攻撃で、敵に一番必要な魔力の使いどころを気づかせてしまったと言うことか!
しまった!
「赤外線カメラ越しよりも狙い易くなりましたが・・・落とし辛くなりました・・・。」
「リサ中尉。取り敢えず、CICへ報告してくれ。」
「了解しました。」
スサノオはミラー越しにリサを見た。
少し落ち込んだ顔をしている。
恐らく、リサも自分が考えた作戦がこのような展開を生むとは思わなかったのだろう。
人間完璧なものなんて無い。
成功してもどっか抜けがあるものだ。
リサが報告し終えたのを見計らって、スサノオはリサへ話しかけた。
「リサ、落ち込む事は無い。次を考えよう。まだレールガンの弾体は十分残っている。一当てして様子を見て見ないか?」
「そうね・・・・・ちょっと作戦を考えさせて。」
リサは考え込んだ。
長くかかるかと思ったその時だった。
「狙わなければならないのは、大型飛竜・・・。大尉!ナオ少尉達はミサイルの残弾はありますよね?」
「ああ、あると思う。確認を取って見ては?」
リサはスサノオが指摘する前に、無線で様子を聞いていた。
「分かったわ。まだ2発残っているのね。ありがとう。」
???
スサノオはリサの考えが分からなかった。
すると、
「中隊長、方針が決まりました。」
「で、どうする?もう大型飛竜は公爵領攻撃への射程圏内に入るぞ。」
「説明します・・・」
そう言ってナオは説明を全機に向けてした。
「それしか無いのか・・・」
「すみません・・・また犠牲者が出るかも知れません・・・。」
「だが時間が無い・・・自分は賛成だが小隊長。」
クサナギ中尉が賛成した。
「自分も賛成だ。」
アルベルトも同意した。
「分かった・・・それで行こう。だがみんな、絶対に生き残る事を考えてくれ。被弾したら頑張って飛び続けろ。何とかコントロールする方法を考えてくれ。分かったな?」
全機、返事の代わりに翼を振って答えた。
「全機に告ぐ!二次攻撃を行う。クサナギ中尉!よろしく頼む!」
「任せろ!そちらも頑張ってくれ!」
「了解だ。再び飛空艦で会おう!」
「ああ!」
そう言うと、スサノオは再び敵の飛竜艇へ向かった。
退避していた空域はそれ程距離が離れていない事もあって、あっという間に敵に近づいた。
「リサ!頼む!」
「小隊全機へ!これより敵の下部へ潜り込みます。速度は450、高度は3,000で近づきます。近づいたらカウントしますので、CCVを使って機種を上に向けて一斉に射撃をしてください。その際、3秒毎に位置をずらす事を忘れずに!その後、カウントを入れずに離脱を合図します。そうしたらマックススピードで通り抜け、ハイレートクライム(垂直上昇)して下さい!」
そう説明をしているうちに小隊各機はとっくに高度3,000まで高度を落とし指示された速度になっていた。
「カウントします!3・・・2・・・1・・・今!」
ドラゴンファイターは機種を上に向け、かつ水平にそのまま進んだままレールガンを斉射した。
パンッ!
パンッ!
パンッ!
レールガン特有の破裂音と共に、光の筋が一斉に飛竜艇やその周りにいる飛竜へ向かって放たれた。
何とか大型飛竜だけでも減らしたい。
スサノオ達は必死の思いだった。
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