第72話 軽口を叩きながら

睡眠圧縮から目覚め、回復魔法をかけて貰った後、スサノオ達4人は司令部で第1中隊の戦闘結果と第2中隊の戦闘推移を見ていた。

第1中隊は飛竜艇部隊迎撃の為に飛空艦から飛び立ったが、彼らも何機か欠けた状態だった為、スサノオ達が攻撃に出ている間に補充を受けていた。

だが第3中隊と違って時間が無かった為、シュミレーターでの圧縮訓練は少し行っただけで、殆どぶっつけ本番のような状態で実戦に参加した。

だが流石に新人を本格的な戦闘に参加させるには経験が圧倒的に不足していたため、補充した新人はもっぱら遠くからの戦場監視任務のような事をしていた。

だからと言って、戦力がダウンしていると言う訳では無いのだが、第1中隊の攻撃はあまり成果を出せなかった。

何しろ敵は近づくと、勘付かれて直ぐに反撃をして来たからだ。

この為、距離をとって攻撃せざるを得ず、何匹かの飛竜と数隻の飛竜艇を落とす事は出来たが命中率が悪く、敵の足を止める迄にはならなかった。

続けて発進した第2中隊も同じだった。

彼らも第1中隊と同じように反撃を受け、思うように近づく事が出来ていない。


「近づけないな・・・」

「飛竜艇には魔道士が乗っていますからね・・・流石に小型飛竜並の魔力を出すドラゴンファイターの位置はバレるのでしょうね。」

「それにあの飛竜の部隊、この間前線にいた奴らだろ?多分、飛竜の闘い方やコントロールの仕方を知っている。見ろよ。」


そう言ってクサナギ中尉は小型飛竜の配置の仕方を指摘した。


「小型飛竜と飛竜艇で大型飛竜を守っている。」

「帝都騎士団にいた奴が乗っているのかも知れない・・・。」


パンッ!

リサが突然手を叩いた。


「みなさん、くよくよしても仕方がありません。打破する方法を考えませんか?」

「何かアイデアがあるのか?」

「クラスターとソニックブームをぶつけるのは如何でしょうか?」

「なんだそれ?」


リサはクラスター爆弾と以前から脅かし用に度々使っている音速での通過について説明した。


「・・・と言う三段回で攻撃してみては如何ですか?」

「まあ・・・やって見る価値はあるかも知れない・・・」

「司令に許可を貰わないとな・・・」


スサノオは早速司令部のタカサキ戦闘飛行隊長を始め幕僚達にリサの案を説明して、実施の許可を貰った。


「許可はもらった。ただし、無理をせずに十分気を付けるようにとの事だ。」

「やれやれ、では割り振りを決めるか・・・」

「時間が無いので、俺は中佐にクラスタを用意して貰うように頼んでくる。」

「よろしく頼む。ではクサナギ先輩、こんな感じで・・・」


第3中隊は再び出撃する時間になった。

全員ブリーフィングルームに集まり、スサノオは作戦内容の説明をした。

内容を説明し終えると最後に連絡事項を通達した。


「以上が作戦内容の説明だが、最後に連絡する事がある。第1中隊は現在こちらに向かっている。飛空艦には戻らない予定だ。反対に我々第3中隊は戦闘終了後、飛空艦へ向かいそこに着艦する。良いか?間違えるなよ。」


通達が終わると解散となり、全員駐機場へ向かった。

駐機場には先日と同じようにドラゴンファイターが並べられていたが、今日は少しのんびり気味である。

先ずは第1中隊の帰還を待つのである。

発進はそれからだ。

スサノオ達はコクピットに収まると、第1中隊の帰還を待った。

待つ事しばし。

高いエンジン音が聞こえたかと思うと、第1中隊の機体が次々に着陸して来た。

しかし、途中で煙を出しながら帰って来た機体がいた。

整備員を含め騒然としていると、煙を出していた機体は天井から降って来た消化剤を何箇所か潜り抜け、やがて滑走路の端まで来て止まった。

どうやら公爵領へ来襲している飛竜の流れブレスが掠めたらしい。

消火班による対応で事なきを得たが、滑走路の出口を塞ぐ状態になった。

第1中隊の他の機体は仕方無く、少なくなった燃料を気にしながらもSTOL機能を使って次々に降りて来た。

STOLを使ったのは着陸距離を短くして事故機との衝突を避ける為だ。

皆、普段よりゆっくりとした感じで降りては、直ぐに誘導路へ逃げ滑走路を空けた。


やっと第1中隊の全機が着陸したが、まだ問題は続いていた。

事故機が滑走路端で止まった為、スサノオ達は予定していた方向とは反対方向へ離陸しなければならなくなったのだ。

つまり風下側に向かって離陸しなければならない。

通常、航空機の離着陸は風上に向かって行われる。

追い風では押されるようになって安定しないのと、離着陸距離が伸びてしまうのだ。

ただ、今は風はそれ程強く吹いていない。

しかし、安全性に問題が生じる可能性があったので、スサノオは数機が同時に飛び立つのは避けて、一機、一機が時間を置いて飛び立つ方法に変えた。

先ずはスサノオが飛び立って様子を見る事になった。

ややこしい事に飛び立っても、浮遊島の正面付近には敵の飛竜がいる。

なので、離陸直後に素早く旋回して飛竜が密集している場所を避ける必要があった。


「第3中隊。こちらパパ・ワン。面倒な発進となって申し訳ない。これから離陸して様子を見てみる。離陸後に様子を連絡する。その後に離陸してくれ。」


そう言うと、スサノオは事故機がいる手前の誘導路から滑走路に入り正対した。

ブレーキをかけ、スロットルを押してエンジンをフルパワーにした。

待つ事数秒。

ブレーキがエンジンの出力に耐えられず、機体がズルズルと前へ引きずられるように進む。

スサノオはエンジンが安定したのを確認すると、ブレーキをリリースしアフターバーナーを点火した。

ドラゴンファイターは数秒で170ノットに達し、スサノオはギアをしまった。

ここまでは普通だった。

問題はトンネルを抜けてからだ。

ただでさえ気流が乱れやすい浮遊島の下部である。

これが追い風の時どうなるのか?


ドラゴンファイターはトンネルを抜けた。

その瞬間、機体はガタガタと音を立てながら上下に激しく揺れた。

振動への対応も必要だが、このまま直進すれば来襲して来た敵飛竜にぶつかる。

なのでスサノオは右へ急旋回して、浮遊島の縁をなぞるように旋回して島の下部から外へ出た。

スサノオは大きく息を吐くと中隊各機に伝えた。


「中隊諸君。こちらパパ・ワン。トンネルの出口から直ぐのところでタービュランスが発生している。しかし落ちついて対処すれば大丈夫だ。チャーリーで回れば敵飛竜とも接触しない。戦闘前に面倒な事になったが大した事はない。自分は先に行って待つ。健闘を祈る。」


そう言ってスサノオは先に集合空域へ向かったが、実はかなり心配していた。

こうして落ち着いた感じで、尚且つ事実を伝え無ければ、誰かが事故を起こす可能性がある。

なのでスサノオは集合空域ではかなりヤキモキした。


ヤキモキする事数分。

先ずはアルベルトがやって来た。

続いてポツリポツリと言った感じで中隊の各機が集まって来る。

やがて15分程経つと、やっと全機が指定された空域に集まった。


「リサ中尉、頼む。」

「こちらパパ・ワン。みなさん生きてますかー?」

「ゴルフ・ワン。小隊メンバー生きてまーす。それにしても酷いタービュランスでした。」

「こちらデルタ・ワン。同じく小隊メンバー無事です。よくあのタービュランスを抜ける事ができたと思います。」


いや、確かにね、難しかったと思うよ。

何しろギッタンバッタンって感じで、上下に激しく動いたからね。

しかし扱いた甲斐があったな・・・新人の頃の自分だったら抜け出せていたかわからない・・・。


「それにしても、良いウォーミングアップでした♪」


ナオが会話に参加した。


「こら!調子に乗るな!これから戦いに行くんだぞ!」


すかさずクサナギ中尉が釘を刺した。


「す、すみません・・・。」

「クサナギ先輩・・・その辺で・・・」

「デルタ・ワン、お優しいですね・・・私と言う妹を差し置いて・・・」

「えッ?ちょっと待て!なんでそうなるんだ!?」

「・・・私語は慎め・・・」

「おや?中隊長?無線切っている間はどんな会話を?」

「もちろん内緒ですよ♡ね、大尉。」

「戦術の話に決まっているだろ!お前ら、良い加減にしろーッ!」


ドラゴンライダー達は、こうして軽口を叩きながら死地に赴くのであった。





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