第69話 終わることの無い出撃

地下基地の掩体壕のような駐機場所にドラゴン・ファイター12機がそれぞれ止められていた。

各機にそれぞれスターター用のエアーホースや電源用のパワーケーブル、それに通信用のインカムケーブルが繋がれいる。

コクピットの外側にはラダーがかけられていて、またエンジンやミサイルの格納庫、それにレールガンやピトー管の先端にはタグがそれぞれ付けられていた。

機体はそのような状態で静かに待機していたが、やがて整備兵達が駆けつけたかと思うと、スサノオ達第3中隊のパイロット達も駆けつけて辺りは途端に騒がしくなった。


スサノオ達はそれぞれ自機に到着すると全員ラダーを昇ってコクピットに入り安全ベルトを締め、ヘルメットを被り出した。

パイロット達はコクピットに入り、彼らが装備を付け始める頃にはラダーが外され、スターターから圧縮空気が送られ始めた。


グオーン、グオーン、グオーンと電車のインバータモーターを低音にしたようなノイズでエンジンが始動した。

やがてその音が連続音となり、ゴーと言う音に変化すると、エアーホースとパワーケーブルが整備兵によって取り外される。


スサノオはエンジンの始動を確認すると、モニターに映し出されたエンジンの計器類を確認した。

モニターには機体を真上から見たような図が示されていて、機体中央のメインエンジン、および翼に取り付けられたサブエンジンが描かれている。

そしてそれぞれのエンジンが位置する図面の横側に、低圧圧縮、高圧圧縮、排気温、燃料流量、発電出力の数値が出ていた。

異常であれば赤色に変わる。

スサノオはそれぞれを指で差しながら確認する。

続いて燃料タンク温度と圧力の確認。

こちらも正常。

電気系統、それぞれ異常なし。


スサノオが計器のチェックをしている間に、機体の下に潜っていた整備兵がそれぞれのタグを外し始めた。

前方に立っていた整備兵はそれを見届けると、口元付近に突き出ている小型マイクを指で摘み何かを話だした。

整備兵が会話を終わり機体を見ると、翼と垂直尾翼の動翼が動き出した。

整備兵が親指を立てる。

動翼チェックが終わると、機体の下に潜り込んでいる整備兵がインカムのコードと車止めを外した。

前方に立っている整備兵が肩の上でクルクルと手を回すと、スサノオはスロットルを押し出し、エンジンの出力を若干上げ、ブレーキをリリースした。


キーンと言う音が一瞬聞こえたかと思うと、機体はそのまま前進し、90度右へ回転しそのまま誘導路を伝って滑走路へ向かった。

その後をアルベルト機が続き、またその後に別の機体が続き、第3中隊の各機は誘導路で一列に並んで滑走路へ向かう。

スサノオは第3中隊の全機に向かって呼びかけた。


「こちらパパ・ワン。第3中隊全機につぐ。全機、離陸したら120.5にセットし、アルファ、ゼロ、ヒト、ロクで合流。識別はイエロー。そのまま敵飛竜の後方部隊に向かい、大型飛竜を落とす。各員の検討を祈る!」


全機に返答を求める野暮はしなかった。

だが雰囲気で各機の覚悟を感じた気がした。

スサノオは滑走路端で機体を滑走路に正対させると、リサがスサノオの代わりにタワーへ呼びかけた。


「アルファコントロール、こちらパパ・ワン。第3中隊全機これより発進します。」

「パパ・ワン。こちらアルファコントロール。滑走路ワンファイブよりの第3中隊の離陸了解した。風向130、5ノット。離陸後、ゼロロクに向かい、120.5に合わせて下さい。ご武運を!」

「こちらパパ・ワン。滑走路ワンファイブよりの離陸了解しました。離陸後、全機120.5に合わせます。行ってきます!」


交信が終わるとスサノオはスロットルを目一杯押し、エンジンの出力を最大にした。

右後方にいるアルベルトの機体もエンジンが上げられたのが音で分かった。

機体がビリビリと振動した。


「リサ!カウント!」

「パパ・ワンよりデルタ・ワン!カウントします!よろしいですか?」

「こちらデルタ・ワン!いつでもどうぞ!」

「カウント5で行きます。5・・・・・4・・・・・3・・・・・2・・・・・1・・・・・今!」


瞬間、スサノオとアルベルトはブレーキをリリースし、アフターバーナーのスイッチを押した。

機体はあっという間に加速、僅か数秒で170ノットに達した。

すかさずスサノオはレバーを上げギアーを格納した。

ほぼ同時にアルベルトもギアをしまい、2機揃って滑走路の上数メートルを高速で水平飛行し、浮遊島の下部に出た。

中隊の他の機体も次々に後を追うようにして離陸してきた。

平時であれば、離陸間隔は1分半ほど時間をおくが、今は戦時体制でスクランブル発進と同じ扱いだった。

なので、スサノオとアルベルトのコンビが離陸してからほぼすぐに別のペアが滑走路に侵入して、そのまま次々と離陸して行った。



スサノオは合流地点に到着すると、スピードを落として第3中隊の各機を待った。

10分程すると、全機が追いついて来て、同時に各小隊毎、各分隊毎に編隊を組み始める。


「リサ!小隊は?」

「全機揃っています、大尉。」

「クサナギ中尉、そちらは?」

「全機揃っています。」

「ではいよいよ攻撃に移る。事前に取り決めた通り、まずは高度を400に上げ、 いつものようにカットオフで急降下しながら後方部隊を攻撃する。ただし、攻撃は敵の斜め後方に位置を取ってからだ。位置とタイミングはリサ中尉の指示に従ってくれ。射撃のタイミングも彼女が指示する。射撃開始と同時に隊長機、リーダー機は大型飛竜をミサイルで攻撃しろ。攻撃後、直ぐに離脱して、ブラボー・イチ・ハチへ移動する。それから前衛部隊が迫っているが、公爵領が攻撃を受けていても手出しをするな!対空部隊に任せろ。では向かうぞ!」


そう言ってスサノオは中隊の先頭に立つと、増速して高度を取った。


「リサ中尉!敵までの距離は?」

「敵飛竜部隊は3つに分裂しています。最初の前衛部隊は距離50まで迫っています。約20分ぐらいで公爵領へ到着します・・・ただし今のままの速度であればですが・・・。その後、10ぐらいの距離に別部隊がいます。その中に大型飛竜の反応が10あります。・・・そしてその後、80ほどの距離、公爵領から140の距離に後方部隊が飛竜艇と共にいます・・・」

「どうした?」

「・・・こちらも増速しているように見えます。それに・・・ちょっと待って・・・」


何やら後ろでタッチパネルを操作している。

数秒ほど経った。


「飛竜が増えています・・・それも500匹程・・・全部小型飛竜です・・・恐らく飛竜艇の飛竜を戦闘用に回したものと思います。」


スサノオは驚かなかった。

いや、もはや色々とあり過ぎて、驚くと言う感情が無くなってしまったように感じた。

ただただ、危機感のような感情を抱きかつ冷徹に憐れみもない敵の排除だけを考えた。


「急ごう。速度を2.0まで上げる。全機に通達してくれ。それが終わったら、司令部に状況を報告してくれ。」

「分かりました。」


リサは全機に直ぐに呼びかけた。


「こちらパパ・ワン。敵の動きが思ったよりも早くなりそうです。速度を2.0にあげます。カウント3で全機増速しこちらについて来てください。カウント始めます。3・・・2・・・1・・・今!」


その瞬間、第3中隊の全機はアフターバーナーを入れ、音速の2倍の速度に達した。

すかさずリサは司令部に連絡を入れた。


「パパ・ワンよりアルファ・コントロールへ。敵の飛竜が更に500匹増えてます!増えたのは後方の部隊です。恐らく飛竜艇より飛竜を割いたものと予測します。そちらでの確認と対策を検討願います。第3中隊はこれより、”中間部隊”にいる大型飛竜を攻撃します。」


間髪入れずに、スサノオはリサに作戦の指示を出すように言った。


「リサ中尉!指示を出せ!」

「はい大尉!パパ・ワンより全機へ!距離20でカットオフして急降下に入りつつ、”中間部隊”の後方に付きます。まず、我々の小隊が向こう側に周ります。その後にこちらから合図を出しますので、クサナギ中尉の小隊はこちら側から敵の後方に向かって下さい。」

「ゴルフ・ワンよりパパ・ワンへ。了解した。タイミングを教えてくれ。」

「パパ・ワンよりゴルフ・ワンへ了解しました。」


あっという間に距離は20に迫った。

リサは各機へ指示を出した。


「カウント3でカットオフ!降下率4で15,000まで下げて下さい!行きます!3・・・2・・・1・・・今!」


第3中隊全機のエンジンからアフターバーナーの炎が消えた。

全機が機首を下げて、40,000フィートの上空から15,000フィートの高度へ急降下を始める。

エンジンはアイドル状態だが、それでも急降下によりスピードはある程度出ているので音速になっていた。

スサノオ、クサナギ、アルベルト、リサの4人は事前の話し合いで、敵の近辺で音速を出すか出さないか議論したが、早さが求められる場合は仕方なしと言う結論になった。

なので音速が出る事は織り込み済みで、高高度からの急降下を行った。

距離が5ほどになった。


「第1小隊!カウント5で10時方向に向かいます!5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・今!」


瞬間、スサノオは操縦桿を引きつつ左に倒し、更に左のペダルを踏みゆるい左旋回に入った。

敵部隊の脇をすり抜けるような位置になった。

すかさずリサが指示を出す。


「第2小隊2時 の方向にカウント3で旋回!行きます!3・・・2・・・1・・・今!」


その瞬間、クサナギ中尉の小隊は2時方向へ右旋回を始めた。

まるで糸で繋がっているように、それぞれ小隊長機に従って飛んで行った。


スサノオ達の小隊は敵の中間部隊の後方を遠ざかるようにして離れて行った。

距離が10ほどになった。

すかさずリサが指示した。


「第1小隊!カウント3で180度旋回、行きます!3・・・2・・・1・・・今!」


スサノオ達の小隊は180度旋回をした。


「続いて第2小隊!カウント3で180度旋回!行きます!3・・・2・・・1・・・今!」


リサはモニター画面を見た。

第2小隊の方向ベクトルが回転して行くのが見えた。


「全機!予定通りの攻撃をカウント5で開始します!行きます!5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・今!」


その瞬間、小隊長機とリーダー機からは大型飛竜に向かってミサイルが、サポート機からはレールガンの弾体が断続的に発射された。

レールガンの弾体の方が当然早いので、直ぐに大型飛竜の周りにいた小型飛竜を撃ち抜いた。

遅れてミサイルが大型飛竜に吸い込まれるように迫り、炸裂した。

大爆発を起こす飛竜。

パニック状態に陥る中間部隊。

それぞれの小隊から撃たれたレールガンは、中間部隊がいる場所でちょうど交差するようになっている。

撃たれた方としては、四方八方から攻撃を受けたように見え、逃げ場が無いと感じる。

見たところ、あまりにも混乱状態が酷く、昨日まで戦っていた前衛部隊よりもレベルは低いようだった。

それでも何とか生き延びようとして、撃って来た方角へ向かってブレスを吐き出そうとしているのが見えた。

そろそろ中間部隊の真上に差し掛かる頃だった。


「こちらパパ・ワン!全機!射撃停止!そのまま退避場所へ移動しろ!」

「こちらゴルフ・ワン。了解した!小隊ついてこい!」


そう言って両小隊は退避場所へ向かった。


「リサ中尉!戦果・・・」


スサノオがそう言いかけた瞬間だった。

先程攻撃をした中間部隊から光が前方に発せられたのが見えた。


生き残った大型飛竜から吐き出されたブレスは真っ直ぐに、前方の味方である筈の飛竜達に向かっていた。






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