第68話 戦局が動き出す

第3中隊が訓練を終えて飛行場で待機していた頃、飛竜艇に乗っていたロークリオはなかなか前進でき無い事にイラついていた。

だが、かと言って無闇に前進すれば公爵領屋敷襲撃と同じ目に遭い、再び多くの戦力を失う事になる。

奴隷兵とは言え、揃えるのはロークリオにとっても大変な事だったのだ。

更に殆どの奴隷は兵の経験が無く、それどころか飛竜に乗った事さえ無い。

訓練はほんの触りの部分しか行え無かった。

元冒険者や元帝都騎士団や元帝国軍に所属していた奴隷がほんの僅かにはいる。

彼らを大型飛竜に乗せたり飛龍隊の前衛に配置させているが、戦局に大きく貢献するほどの戦力とはならなかった。

だがここに来て、やっとロークリオは彼らが貴重な戦力である事に気がついた。

だがどうやって活用して良いのかは全く分からなかった。

側に置いて参謀役にすれば良いのだが、奴隷の意見を聞くなどロークリオのプライドが許さなかった。

よって戦線は膠着状態だった。

ただ双方僅かづつ戦力が削られている事は確かだった。

だがロークリオは、公爵領側も被害を僅かに受けている事実には全く気がついていない。

それに彼はかなり臆病になっていた。

今はまだ僅かづつ戦力が削られているだけだが、屋敷襲撃のように大打撃を受けるのでは無いのか?

そうなれば今度は片腕どころか、両足が無くなるのでは無いか?

戦闘そのものよりそんな事ばかしを考えていた。


「ロークリオ軍団長!このままでは膠着状態です。何かしらの作戦を立てねばなりませぬ!ご指示を!」

「分かっている!少し待て!考えておるのだ!」


部下がロークリオへ何らかの動きをするよう進言するが、全く動きが無かった。

そうこうしているうちに、前衛の部隊からは戦力が削られて来ていると言う報告が入る。

進言した部下はイラついて来た。

このままでは何も出来ずに悪戯に戦力を消耗させるだけだ。

何より奴隷とは言え、そろそろ体力も限界に近づいてくるだろう。


「そろそろ第1戦列の奴隷どもも体力の限界に近づく頃です。下手をしたら500匹の飛竜を失い兼ねません。一旦下げられてはいかがでしょうか?」

「一旦下げるだと?」

「第1戦列には元帝国軍や帝都騎士団だった者がおります。どうですか、飛竜艇の護衛も兼ねて下げられては?」


この進言は単なる思いつきだった。

だが、この進言が戦局を動かす事になった。


「・・・・・いい考えだ。一旦、第1戦列を下げさせよ。そして休憩を兼ねて飛竜艇の護衛につかせよ。」

「承知致しました。してその後は?」


「第3戦列は第4戦列と共に後方に下げたままだったな。第3戦列と第4戦列を共に前へ出せ・・・・・。そうだな・・・・・大型飛竜は前に出るな。第2戦列へ止まらせよ。」

「はあ・・・。」


そう言ってロークリオはしばらく黙った。


「第3、第4戦列は前に出たら例の物を飛竜に食わせろ。その前に全力で公爵領へ向かって前進させろ。第2戦列は第3、第4が前進し始めたら、奴らに向かってブレスを吐かせろ!それから、新しい戦列を作れ。飛竜は飛竜艇に繋いでいる予備の飛竜を全部使え。1戦列ぐらい用意できるだろう。」


やっと作戦を考えた。

まともとは言えないが、何も無いよりはマシだ。

それにしても奇抜な作戦だ。

少しは戦局が動く事になるかも知れない。

部下は僅かな期待を持った。



第2中隊が飛空艦へ帰還し、編成が終わった第3中隊に出撃命令が出されようとしたその時だった。

突然、第3中隊は待機を命じられた。

飛空艦が飛竜隊の新しい動きを感知したためだ。

どうやら敵は前衛にいた部隊を下げさせたらしい。

その代わり、これまで飛竜艇付近にいた部隊が前に進出し始めた。

前衛にいた部隊へは第1中隊、第2中隊によって繰り返しの波状攻撃を行っていた。

なかなか敵の数を減らす事が出来なかった為である。

波状攻撃は帰還した中隊に圧縮睡眠をかけ休ませ、更に回復魔法とポーションを加えて体力を回復させ、圧縮訓練で行っていた時間短縮を実戦で行い繰り返しの攻撃を行っていた。

お陰で前衛部隊の飛竜をやっと350匹ぐらいまでに減らす事が出来た。

その代わり2機、新たな犠牲が出ていた。

1機は何とか安全な空域でベイルアウトが出来たが、もう一方の機体は操縦困難となり敵飛竜と共に爆散した。

それでも攻撃を続行し第3中隊を加えさせればあと一息と思ったところで、前衛部隊の飛竜は後方へ引っ込んでしまった。


気になるのはその後の動きだった。

最初のスサノオ達の一番槍攻撃で引っ込んだはずの後方部隊が、前進し始めたのだ。

意図が全く分からなかった。

しかも大型飛竜をつけていない。

どうも様子がおかしい。


コウタ・サカイ騎士団長は敵の様子を見て嫌な予感がした。

もしかして・・・。


「各員に通達しろ!結界と結界のバックアップ体制を大至急確認しろ!もしかしたら来るかも知れんぞ!急げ!」


指示をしてから数分が経過し、司令部内は更に騒がしくなった。


「前に出た飛竜の部隊、数およそ1,000、速度140に増速して公爵領へ向かって来ます!」

「大型飛竜は?」

「・・・後方の部隊にいたままです。」


どう言うつもりだ?

しかしこの様子だとやはり!


「飛空艦へ戦線から直ぐに離れるように連絡しろ!それから防御魔法を最大にするように!」


騎士団長は予測が外れて欲しいと思った。

だがこの予測はかなりの確率で当たる事を確信していた。


「閣下!敵はあと50分程でこちらへ到着します!対応は?」

「対空戦の用意だ!基本は以前から通達している通り、対空砲で対応しろ。ミサイルは撃ち漏らしに使え。あまり使うな。いいな!」


ミサイルは命中率、破壊力は大きいが、2000匹全部に使えるだけの数は揃えていない。

それに使うとしたら、大型飛竜や飛竜艇に使用する予定だった。

通常の小型飛竜へは、基本的に弾頭がミサイルよりも揃えやすいレールガンと通常の対空砲を使う予定だ。

このため、サカイ騎士団長はミサイルの使用制限をしていた。


「それから・・・」


一瞬だが、サカイ騎士団長はためらいを感じた。

しかし、直ぐに命令を下した。


「第3中隊へ出撃命令を!目標は迫って来る飛竜隊の後方に控えている部隊だ。小型飛竜は落とさなくて良い!大型飛竜を落とせ!ミサイルの使用許可を与える。ただし、必ず当てろ!」


第3中隊を選んだのは偶然であり、当然の事であった。

第1、第2中隊はずっと攻撃をさせている。

それに犠牲も出ている。

魔術で体力を回復させているとは言え、これ以上無理をさせる事は控えたい。

それに虎の子の飛空艦を退避させている最中だ。

ここは再編成をしたばかりで多少余裕のある第3中隊の出番だ。

自然の成り行きであった。


だが一人の親として、一人息子を死地に赴かせる事に抵抗を感じていた。

だが立場上、無表情で冷徹な指揮官を演じざるを得ず、ただただ息子の無事を祈るのみであった。


スサノオ達は大慌てであった。

急にミサイルを含めた大型飛竜の攻撃命令を受けて、急遽戦術を立てる事にした。

司令部からはミサイルの使用許可が出ている。

別に必ず使えと言う意味では無いが、だが大型飛竜を必ず落とせと言う意味だ。

何とも重い命令だが、やるしかない。

スサノオは、リサ、アルベルト、クサナギを集め作戦を練った。

だが時間が無い。

今ある情報から最大限に出来る事を考えた。

それぞれのアイデアが出て来るが、決め手に欠けていた。

奇抜なアイデアもあったが、危険性があるとスサノオは言って却下した。

圧縮訓練でしごいたとは言え、新人は実践が初めてである事もあり、結局無難な手堅い戦法で大型飛竜を落とす事にした。

ただ昨日こっ酷くやられた事もあったので、乱戦になったら一時退避する事にし、慎重に対応する事にした。


出撃前、ブリーフィングルームに第3中隊のパイロットと戦術航法士が集めらた。

スサノオは司令と共に今回の目標および作戦内容を伝えると部下を見回した。

昨日中隊長になったばかりであったが、スパルタの圧縮訓練を行ったせいか、隊長としての自覚を持てるようになり隊員達の顔を落ち着いて見る事ができた。

スパルタ訓練でやれる事はやった。

後は新人達を落ち着かせればいい。


「ここまで質問はあるか?意見でもいいぞ。」


特に質問も意見も無かった。

昨日の三人の戦死やそれに続くスパルタ訓練で第3中隊は結束力が増しており、皆スサノオに全面的に信頼を置いていた。

だが、このまま黙っていたら新人達にいらぬ緊張を強いる事になるかも知れない。


「ナオ少尉。意見は無いか?」

「へッ?私ですか?」

「いいぞ何でも言って。何でアルベルト中尉と一緒じゃないんですかとか、何でリサ中尉はタンデム機で中隊長と一緒なんですかとか、不満があるならどうぞ。」

「そ、そ、そんな事言えるはず無いじゃないですか!」

「いいんだぞ言って。別に第3中隊は恋愛禁止では無いし。」

「じゃ、じゃあ・・・・・良いですか?一緒の小隊にその・・・」

「ダメに決まってるだろ!死に行きたいのか?大尉殿について行けるのはアルベルト中尉だけだ。それとも俺の小隊は嫌か?」

「えッ?えッ?いえ、そう言う事では無くて、あの、その・・・」


ナオがテンパリ出した。

それを見て第3中隊の隊員は笑い出した。


「すまん、すまん。揶揄っただけだ。ナオ少尉はまだクサナギ中尉の元で戦ってくれ。中尉が認めるぐらい実績を上げたら話合おう。」


ナオは揶揄われた事で顔を真っ赤にしてしまった。

後でリサにフォローしてもらおう。

そう思いながらスサノオは再び全員を見た。


「以上で説明を終わる。」


皆、スサノオを真剣な眼差しで見た。

スサノオは息を深く吸いそして叫んだ。


「野郎ども行くぞ!」


オオッと言う隊員達の返事と共に、スサノオ達は自機の駐機場所へ走り出した。











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