第67話 戦い抜け!そして死ぬな!生き残るぞ!
スサノオ達第3中隊は戦闘による損害の為、一旦飛空艦から離れ地下の秘密基地で中隊の補充をする事になった。
だが、総力戦の最中である状況なので、それ程のんびりとは出来ない。
恐らくは明日の夕方には再び出撃する事になると地下基地の司令に言われた。
騎士団の司令部からは既に補充要員の名前は教えられていた。
全員、先日ドラゴンライダーになったばかりの新人達だ。
彼らはリサが受けたような圧縮訓練を受けた者たちで、まだ実戦の経験は無かった。
スサノオは事前に飛空艦内でクサナギ中尉やリサ、アルベルトと話し合ったが、取り敢えずベテランのクサナギ中尉の小隊に入れて面倒を見てもらう事になった。
その方が生存率が高まると判断したからだ。
ただ問題がある。
いきなり戦場へ連れ出す事になるのと、生き残らせる為に連携訓練をしなければならない。
しかし時間が絶対的に足りない。
そうなると・・・・・。
「あの手で訓練するしかないのか・・・。」
「経験無いんだが・・・」
「リサ中尉は経験済みだったよな。どれくらいのレベルまで持っていけると思う?」
「そうですね・・・・・みっちり訓練すれば一晩で戦場に出ても問題無いレベルになると思います。」
スサノオ達は時間を短縮する為に思考加速と睡眠圧縮での訓練を検討した。
「ただ問題が二つあります。」
「問題?どんな問題だ?」
「はい。訓練はシミュレータで行う事になります。けれど所詮シミュレータはシミュレータなので、命の危険を自覚しようと思っても実感できません。なので反射的に反応出来るようにスパルタ的な訓練で刷り込みを行う必要があります。これが一つ目の問題です。」
「二つ目は?」
「二つ目は・・・」
そう言ってリサは三人を見回した。
「みなさんが思考加速や睡眠圧縮の経験がない事です。」
三人ともお互い顔を見合わせた。
「やるしかないだろう・・・。」
「ああ。リサが出来たんだ。後輩達も受けている。経験が無いからって逃げる訳には行かない。」
「リサ中尉。悪いが、どう言う経験だったか詳しく教えて貰えないか?それから注意点も教えてくれ。」
「分かりました。」
そう言ってリサは自らの経験を語った。
「大変だな・・・。良く耐え抜いたな・・・。」
「訓練島のレンジャー訓練よりは楽ですよ。」
「いや、サバイバル訓練の方がもっと厳しかったぞ。」
「え?そうなんですか?どんな訓練を受けたんですか?」
「塩湖に放り込まれて、島まで泳がされて、食べ物は現地調達で・・・」
「へぇ・・・」
「受けなかったのか?」
「ええ。時間が無いからって・・・。でも遠泳50キロはやらされましたよ。時間内に終わらないと最初からやり直させられて・・・。あと思考加速で食べられる野生生物と野草の名前を覚えさせられました。それにアサシンの訓練を何故か受けましたけど・・・。」
リサ以外の三人は絶句してしまった。
なんだそれ?
実は自分らよりも厳しい訓練を受けたのか?
「それに最初のレンジャー訓練の方が厳しかった気がします・・・。何しろ鬼曹長だったので・・・。」
「「「・・・・・」」」
話し合いの結果、第3中隊全員で睡眠圧縮と思考加速を使って連携訓練を行う事になった。
司令部からは、編成を翌日夕方までに整えろとの命令もあり、基地に到着して早々に訓練の段取りをつけた。
準備が整うと、早速新人パイロット3名、新人戦術航法士1名を訓練施設に呼び中隊に迎え入れた。
これまでの中隊のメンバーも訓練所にやって来て、全員がスサノオの前に並んだ。
「全員傾注!」
クサナギ中尉が号令をかけた。
スサノオは諸先輩が目の前にいるのと、新人を抜かすとリサの次に若い事、また中隊隊員の命を預かる事になった事等々、いろいろなプレッシャーが襲いかかり正直逃げ出したかった。
が、そんな恥ずかしい事は出来なかった。
気力を振り絞って何とか訓示を始めた。
「中隊諸君!この度、ヤマダ大尉の後任として第3中隊隊長の職を拝命した。お世話になった諸先輩を差し置いて、このような立場になった事に正直戸惑った。オオニシ大佐へは辞退したいと申し出たが、騎士団司令部の総意命令であると言われ断り切れなかった。だが、だからと言って職務を放棄するような不真面目な態度は取りたくない。与えられた役割は責任を持って取り組むつもりだ。ただ若輩であるが故に、皆には迷惑をかける事があるかもしれない。その時は引き続き指南をお願いしたい。」
スサノオは当たりを見回した。
皆、ショックから立ち直りかけているように見えた。
顔が引き締まっている。
「とは言え、指南を受けたいとは思うものの、逆に指南を授けなければならない者が第3中隊に加わった。本来であれば最低でも3ヵ月程の時間をかけて共に訓練をするのだが、敵は待ってはくれない。今すぐにでも出撃しなければならない状況だ。だが、いくら優秀であっても今の戦場は厳しい。特に連携が取れなければ即、死に繋がる。連携を取れていた筈の我が第3中隊でも3名が戦死し、1名が戦闘不能になった。」
スサノオは新人達の顔を見た。
2名は少し青褪めた顔をしていた。
1名は気合の入った顔をしていた。
当然と言えば当然である。
彼女は・・・ナオは、目の前にいる想い人を守りたいのだ。
ただ、彼女はクサナギ中尉の小隊に入る事が決まっているのだが。
「そこでこの後直ぐに、シミュレータによる連携訓練、戦闘訓練を行いたいと思う。それも圧縮訓練でだ。次の出撃時間までに十分、訓練をしてもらう。新人達はこれまで行って来たから問題はないと思うが、古参の者達には厳しい訓練かも知れない。だが・・・犠牲者を少なくする為だ。耐えて欲しい・・・。」
中隊のメンバーは全員黙ってしまった。
スサノオは敢えて、戦死を出さない為とは言わなかった。
命のやり取りを行なっている以上、犠牲者・・・戦死が出る事は避けられないと今回の件で思ったからだ。
「全員、こっちへ集まって輪になってくれ。」
中隊の全員がキョトンとした顔した。
「いいんだ。全員こっちへ来て輪になってくれ。」
中隊のメンバーは怪訝そうな顔をして集まって来た。
「肩を組んで円陣を作ろう。」
第3中隊全員が集まり、円陣を組んだ。
「最初に1分だけ、戦死した仲間の冥福を祈りたいと思う・・・クサナギ中尉、頼む。」
「中隊!戦死した英霊に黙祷!」
肩を組んだまま、第3中隊の全員が仲間の為に祈った。
「黙祷止め!」
皆顔を上げた。
「みんな。周りの顔を見てくれ。顔を見たら覚えてくれ。そして忘れないでくれ。みんな仲間だ。例え戦死が出ても、逆に死ぬ事があっても、仲間を思う気持ちは忘れないでくれ。」
中隊メンバーはお互いの顔を見た。
皆、力強い顔に変化しだした。
「最後に掛け声をかけたいと思う。アルベルト中尉、頼む。」
スサノオはアルベルトの顔を見た。
アルベルトは俺かよと野暮な事は言わなかった。
むしろ心得たと言わんばかりの顔だった。
「第3中隊!・・・戦い抜け!そして死ぬな!生き残るぞーッ!」
「「「「「「「「「「「「「「オオッ!」」」」」」」」」」」」」」
中隊全員が叫んだ。
訓示が終わると、全員リサから訓練内容の説明を受け、直ぐに訓練に入った。
思考加速は本来座学用に使うものだが、魔術で擬似的に体の感覚を加速して、つまり手足を動かしている錯覚を起こさせ、同時にシュミレーターを動かして訓練を行う事になった。
この方法は新人教育の為に開発中だったシステムだったが、最近やっと実用化されたものだ。
もっとも、戦いが始まってしまったので現役のドラゴン・ライダーは使う暇が無かった。
訓練の時間割はリサが決めた。
思考加速をして5分間訓練をして3分圧縮睡眠。
回復ポーションを飲み2分間休憩。
休憩の間にカロリーの高い物を食い再び訓練。
これを5回繰り返す。
そして10分間のトイレ休憩の後、再び訓練。
これを10時間連続で行う。
ただし、途中30分程の休憩も4回取る。
流石に精神的、体調的に危険が出る可能性があったからだ。
訓練が始まった。
「スサノオ大尉・・・」
「なんだ?アルベルト中尉?」
「頭おかしくなりそう・・・あれから何日経った?」
「まだ2時間ですよアルベルト中尉。気をしっかり持ってください。」
「あと少しで最初の30分休憩だ。休憩まで頑張れ!」
5分の訓練で12時間分の訓練に感じる。
2時間半ぐらいになると半月間毎日訓練したように感じる。
実際の訓練であったら正直事故を起こすレベルだ。
戦闘経験はスサノオの次のレベルに達するアルベルトですらこれだ。
他のメンバーにとってはもっと地獄だった。
圧縮訓練に慣れている新人でも蒼い顔をしている。
こんなハードな訓練は今まで無かったらしい。
一人、リサ・・・この訓練の立案者・・・だけは涼しい顔をしていた。
彼女は、誰よりもストイックにハードな圧縮訓練をこなした過去があったからだ。
それでも考案したメニューは軽いはずだった。
ちょっとやり過ぎだったかも・・・そう思いかけた時、スサノオが言った。
「リサ、気にするな。分かるだろう?妥協は許され無いんだ。」
「そうだ。徹底して体に覚えさせないと行けない。だからこの訓練を行うんだ。」
「分かりました。スサノオ大尉、クサナギ中尉。」
訓練は続いた。
2回目の周回。
第3中隊の各メンバーは精神が飛んだ状態になった。
3回目の周回。
メンバーは拷問され尽くしたと言う表情になった。
4回目の周回。
やっとベテランのような表情になった。
「お、終わった・・・。」
アルベルトが思わず呟いた。
スサノオは中隊メンバーを見た。
皆引き締まった顔になっていたが、やはり疲労痕ばいと言った表情だ。
「クサナギ中尉。頼む。」
クサナギ中尉は軽く頷くと全員に通達した。
「皆、聞いてくれ。この後、休憩室へ向かう。そこで酸素カプセルの中で睡眠圧縮をしつつ、回復魔法を受ける。その後食事をしたらいよいよ飛行場地区へ移動して待機する。予測では三時間後に出撃だ。では移動開始!」
中隊は全員グッタリしながらも、ヨロヨロと動き出した。
だが、みな何かしらの自信は持った。
飛行場地区へ行く途中、リサとナオは意外な人物に出会った。
騎士学校時代に散々厳しい訓練をリサ達に与えた鬼曹長だ。
「曹長殿!」
「リサ中尉にナオ少尉では無いですか!息災で何よりです!」
そう言って鬼曹長・・・ドイ曹長はリサ達に敬礼をした。
「曹長こそお元気そうで何よりです。」
「よしてください。今はお二人は上官です。敬語は入りません。ところで・・・」
ドイ曹長は中隊を見回した。
「皆様、お疲れのようですが何かあったのですか?」
「ええ、新人を入れたので全員で圧縮訓練をしたのです。」
「全員で?」
「ええ、全員で・・・」
ドイ曹長はリサと周りの顔を見比べた。
「リサ中尉も参加されたのですか?」
「ええ、そうですが?」
「中尉だけお元気そうに見えますが?」
「ええ、曹長のお陰で・・・」
その言葉を聞いてドイ曹長は思った。
やば。
やり過ぎた。
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