第66話 戦死者へのレクイエム
スサノオ達の第3中隊は損害を受け、飛空艦へ向かった。
誰も無線で話しかけて来なかった。
リサも戦闘を離脱してからは無言となっていた。
戦いは僅か数分の出来事だった。
その数分の間に二人が爆散し戦死した。
戦死者は出したく無い。
そう思っていたのにまた犠牲者が出た。
飛空艦に近づいた。
スサノオは被弾した機体に先に着艦する様に指示をした。
幸いな事に、被弾した機体は主翼の先端を吹き飛ばされたにも関わらずエンジンは無事で、操縦も若干効きは悪かったものの何とかコントロール出来る状態だった。
被弾機は、いつもなら発艦用に使われる前方の開口部に向かった。
そこには大きなネットが下側に垂らされていて、被弾機はそのネットと飛空艦の間に入った。
やがて発艦用とは別のフックが降ろされて、被弾機は飛空艦内に収容された。
スサノオはホットすると、被害を受けたヤマダ中隊長の小隊から飛空艦に着艦させた。
各機が着艦するのを眺めながら、スサノオは交信に注意を払っていた。
するとアルベルトから救援要請を伝える無線が入った。
「こちらデルタ・ワン。シエラ・コントロール。ヤンキー・ワンがベイルアウトした。場所はそちらから105の方角、距離50マイル。位置は確認できるか?」
「こちらシエラコントロール。位置は把握している。既にオスプレイは発進させた。10分で現場に到着し救助に入る。それまで警戒を頼む。」
「デルタワン。了解した。よろしく頼む。」
中隊長はなんとか敵の飛竜隊から離れる事が出来たみたいだ。
しかし、まだ安心は出来ない。
一刻も早く救助して欲しかった。
飛空艦に着艦した。
アルベルト以外の機体は既に着艦しており、先に着艦した機体からはそれぞれの搭乗員が機体から降りていた。
しかし殆どの者は機体の前に蹲り、首を項垂れている。
スサノオはパイロット達を労う言葉が出て来なかった。
全員を無言で見渡すと、そのまま俯きCICへ向かおうとした。
すると・・・、
「中尉どちらへ?」
「CICへ行って報告して来る。」
「少尉もですか?」
「ああ、そうだが?行ったら悪いか?少尉は戦術全体を見る立場だ。当然だろ。」
「天才戦術航法士も行かれるってわけですか、そうですか、そうですか。」
「何が言いたい?」
「二人も戦死したのにデート気分ですか?いいご身分ですな!」
「なんだと?」
「聞こえませんでしたか、小隊長殿?二人も死んだのにデートかと言っているんですよ。」
「もう一度言ってみろ!」
「ああ何度でも言ってやる!いつもイチャイチャしやがって!ここはデートする場所じゃねー!だいたいお前はたまたま戦闘場所に居合わせて名を上げただけじゃねーか!そんな奴に大きい顔されて命も預けているんだ!なのにあばずれ姫に絆されやがって!」
「ふざけた事、言ってるんじゃねーよ!取り消せ!」
スサノオは頭に血が昇り、相手の胸ぐらを掴むと顔を思いっきり殴った。
相手も殴り返してきた。
騒ぎを聞きつけて整備員や他の搭乗員も来て大騒ぎになった。
スサノオは殴りに殴った。
相手も殴り返して来た。
何よりもリサを侮辱された事に腹が立った。
殴りあってから少し経った頃、突然二人の動きが止まった。
いつの間にかリサが間に立ち、片手にナイフを持ち、もう一方の手には拳銃を持ちそれぞれに突きつけていた。
「もっとやりますか?それとも私も参戦しても構いませんか?」
普段とは似ても似つかない冷たい雰囲気をリサは漂わせていた。
「リ・リサ?」
殴り合いをしていた二人も、周りで騒いでいた者たちも、全員その場で固まった。
「・・・死なせるつもりは無かったんです。」
リサは静かに言った。
「みんなを生きて帰すにはどうしたら良いのか、ずっと考えていたんです・・・。」
リサから冷たい雰囲気が無くなり、か弱い女性の姿へと変わっていった。
「・・・・・戦術を立てたのは私です。二人を死なせたのは私の責任です。だから、だから・・・」
リサの両目からは涙が流れ出していた。
そしてリサはその場に蹲ってしまった。
喧嘩をふっかけて来た先輩搭乗員、クサナギ中尉もその場で崩れた。
「ユウカ・・・ユウカ・・・なんで・・・なんでなんだよ・・・どうして・・・俺を置いて・・・。」
中尉はその場で慟哭した。
騒ぎを聞きつけて、警備隊がやってきた。
「何事だーッ!」
警備隊達は、到着して唖然とした。
一人は顔を腫らして呆然と立っており、二人は床に座って泣いている。
「本当に何が起きたんだ?」
騒ぎの後、スサノオはそのままCICに向かった。
CICに入ると艦長が待っていた。
艦長はスサノオの顔を見ると思わず呟いた。
「いい面構えと言いたいが・・・酷い顔だな。災難だったな。少尉は来れ無いか?」
「ええ。自分の立てた戦術が失敗に終わってショックが大きいようです。なので私一人で来ました。」
スサノオは内心、艦長からリサは軍人として弛んでると怒られるかと思ったが、特段責めるような事は言われなかった。
スサノオは一通り戦闘を説明した。
CICでは、各機体に取り付けたカメラやセンサーで状況は把握しているが、実際に戦った者の報告を生で聞く事も重要だった。
なので、戦闘後はいつも報告に来させている。
説明を終えるとスサノオは艦長へ質問をした。
「艦長。中隊長はご無事ですか?」
「ああ、先程助かったとの連絡が入った。だがかなりの大怪我らしい。」
「一緒に乗っていた戦術航法士は?」
「・・・彼は死んだ。救出するまでギリギリ生きていたが、救助された直後に息を引き取った。」
「・・・・・。」
中隊長の機体は、エンジンが殆ど停止して、更に翼も一部が飛ばされた。
機体は外版が一部外れ、コクピットのフレームも曲がり、ベイルアウトが出来るかも怪しい状況だった。
それにも関わらず飛んでいた。
奇跡としか言いようの無い状況だったらしい。
ヤマダ大尉はなんとか飛空艦の50マイル先まで飛んだが、そこまでが限界だった。
動いていたエンジンが止まり、それに伴い機体のコントロールが効かなくなった。
補助エンジンもやられてしまったので操縦に必要な大容量の電源確保が難しく、僅かに動くメインエンジンに頼っていたが止まってしまい、もはや操縦は困難だった。
敵の飛竜隊から大分距離が離れた事もあり、大尉はベイルアウトを決断した。
後席の戦術航法士は破片を何箇所かに受けていて、出血も多くベイルアウトの操作すら出来ない状態だった。
ヤマダ大尉は遠隔操作で後席を射出させたが、彼は救助された後、手当ての甲斐も無くオスプレイ内で息を引き取った。
中隊長もベイルアウトをしたは良いが、足に大怪我を負っていた。
両足とも動かない状態で操縦桿だけで機体を操作したらしい。
暫くは現場復帰は無理のようだ。
いやそれどころか、もう二度とドラゴンファイターには乗れないかも知れない。
魔術により回復はするかも知れないが、怪我の具合によっては元に戻るかは分からない。
騎士団は魔術治癒と地球の医学を合わせた高度な医療技術を持っているが、限界があるのだ。
万能であれば、バレントが死ぬ事は無かった。
オオニシ大佐は一通り状況をスサノオに説明すると、大きく息を吸った。
「スサノオ・サカイ中尉!」
「ハッ!」
いきなりの呼びかけに、スサノオは驚いたがそのまま直立不動で立った。
オオニシ大佐はスサノオを睨みつけるようにして言った。
「第3中隊をお前に任す。このような時なので辞令を直ぐに渡す事は出来ないが、本日付けで貴様を大尉に昇進させる。それからリサ少尉も同時に中尉へ昇進させる。騎士団本部から許諾は得ている。」
「!?艦長?」
オオニシ大佐は続けて言った。
「第3中隊は損耗が激しい。よって第二中隊と交代させる。休憩後、本日ヒトロクマルマルに発艦。地下基地へ移動し、そこで補充を受けろ。いいな!」
「艦長!先輩を差し置いて自分が大尉なんて早すぎます!それにリサ少尉はまだ任官してからそれほど経っていません!」
「艦長命令だ。飛行隊全指揮官の総意でもある。有無を言わずに受けろ!」
スサノオは絶句した。
中隊長からはいずれ第3中隊の中隊長になれとは言われていたが、いくらなんでも早すぎる。
改めて艦長を見た。
ふざけている顔では無い。
真剣な顔だった。
とても冗談を言っている顔では無かった。
艦長命令と言われた。
命令に抗う事は出来ない。
スサノオは渋々復唱して敬礼をした。
敬礼した手を下ろして直立不動となると、そのまま回れ右をしてその場を後にした。
スサノオはCICを出ると個室に向かったが、沈んだ気分だった。
本来昇進は喜ぶべきものである筈なのだが、とてもそんな気分にはなれ無かった。
何故なら今回の昇進は上が戦闘不能になったからだ。
それも尊敬していた中隊長が負傷したからだ。
個室に入って暫く経った時の事だった。
部屋がノックされた。
「誰だ?」
「クサナギです!」
えッ?
さっきの続きか?
そう思いながら、しかし言い方が上に対する言い方なのでそのままドアを開けた。
すると、意外すぎるメンバーがそこには並んで立っていた。
クサナギ中尉にリサ、それになんとアルベルトも立っていた。
「ご昇進おめでとうございます。」
クサナギ中尉はそう言うと、敬礼をした。
続いてリサとアルベルトも後に続いた。
なんだこれは?
俺を揶揄いに来たのか?
スサノオが怪訝そうな顔をしていると、クサナギ中尉が言葉を発した。
「大尉殿。説明させていただきます。先程艦長に呼ばれ、私は第3中隊の小隊長になるよう命令を受けました。それからアルベルト少尉は本日付けで中尉に昇進、引き続きスサノオ大尉の右腕としてバディを組むようにとの事です。リサ中尉については既にご説明があったかと思います。」
クサナギ中尉はさっきの殴り合いで顔にところどころあざができていて腫れている。
自分の顔もひどい状況だ。
ボコボコの顔なのに真剣に報告をしてる。
そのミスマッチに思わず笑い出しそうになっていると、相手も笑い出しかけていた。
「ハ、ハハ、ハハハ。」
「アハ、ハハ、ハハハ。」
二人ともいつの間にか笑い出していた。
スサノオ達4人はそのまま第3中隊用に用意された控え室に赴いた。
そこで今後の段取り、小隊の組み分けを話し合うと、それぞれコーヒーを淹れて飲み始めた。
本来であれば、ここにヤマダ大尉や中隊の幹部がいる筈であるがここに参加していない。
気分が若干落ち着いたとは言え、4人とも先程の戦闘のショックを引きずっており、自然と無言になってしまった。
静かになって暫く経つと、クサナギ中尉がスサノオにおもむろに話しかけて来た。
「スサノオ大尉・・・その・・・先程は・・・」
「クサナギ先輩。やめてください。らしくもない。自分だってリサを失ったらと思うと・・」
クサナギ中尉は良くスサノオの訓練に付き合っていた。
ただし、スサノオが駆け出しの頃に行った6対1のシュミレータ訓練を企てた張本人ではあるのだが。
それでも普段は面倒見が良くて、次の中隊長はスサノオかクサナギかと言われた人物だ。
その先輩が恋人を失い、豹変してしまった。
普段はそんな事を言う人物では無い筈なのに、スサノオとリサに暴言を吐いた。
スサノオもその喧嘩を買ってしまった。
それだけ第3中隊には戦死者が出た事でショックが吹き荒れたのかも知れなかった。
「祈らせてください・・・」
リサが静かに呟いた。
「ああ、みんなで祈ろう。」
4人は手を取り合い、戦死した仲間のために祈りを捧げた。
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