第18話 予想外の愚か者
帝都で帝国軍の魔法汚染検査が実施される。
検査を実施するのは、ロードリー公爵領の騎士団だ。
騎士達は帝都の騎士と色違いの衣装、青色の礼装を着てこの日に臨んだ。
本当なら海自だった頃の青い作業服・・・未だに公爵領では着ている・・・を着て任務に挑みたかったが、流石に奇異に見られるので、外部向けの衣装を着て帝都に赴く事になった。
元老院で、ロードリー公爵領の魔道士達が帝国軍の魔法汚染検査をする事に決定したのち、実施方法が詰められた。
ただし、ランポ伯爵には口出しをさせぬように、マンサ侯爵が前面に出て詳細を決める事になった。
更にサモン侯爵にも大人しくしてもらうようにして、もしランポ伯爵が強引に圧力をかけて来たら、サモン侯爵が牽制するようにした。
それらは、ロードリー3世とマンサ侯爵との綿密な打ち合わせで決めた。
マンサ侯爵は、打ち合わせの場で、迷う事無く色々な懸案事項に即座に回答するロードリー3世に感銘を受けた。
「ロードリー3世様。あなたはこれだけの懸案事項を即座に判断され回答される。実に優秀でいらっしゃいますな。ずっと帝都にいてくださらぬか?」
「マンサ侯爵殿。買い被り過ぎです。私はまだまだ修行中の身です。この件が終われば、領地に戻り、後はリゴに任せる所存でございます。」
ロードリー3世はそう言ってマンサ侯爵へ過剰な評価だと言って答えたが・・・・・内心は全く別に思っていた。
(冗談はよしてくれ〜。そもそも父上から事前にあった無線での指示だったし、こっちは盗聴やら隠密とか、インテリジェンス分析で手を打っているだけなんだよ〜。やめてくれ〜。)
と心の中で叫んでいた。
それでもマンサ侯爵が目をキラキラさせてロードリー3世を見ている。
「やはり、私の目に狂いは無かった。今回の件、終わったら再度お頼みしたい事がある。お時間をいただけるか?」
「マンサ侯爵殿。私はそれ程立派な人物ではありませぬ。過剰な期待はやめていただけ無いか?」
「ますます気に入りましたぞ。殆どの者が謙遜せず尊大な振る舞いをするのに、そのようにご謙遜なされる。少しのお時間でもよろしいのです。お国に戻られる前に、時間をいただけ無いだろうか?」
「公爵領騎士団の帰領準備もありますので、時間を取れるか分かりませぬ。もしあれば別にご連絡させて頂きますので。」
ロードリー3世は、遠回しに断ったつもりだった。
だが、この日本人のような曖昧な答え方が実は危険だという事に気付いていなかった・・・。
ともあれ、帝国軍の帝都駐屯軍団、約2万の兵士の検査が始まった。
検査を実施するのは、ロードリー公爵領の騎士団魔道士だが、警備はマンサ侯爵領の騎士と共同で行う。
検査の間、部外者は一切接触してはならないと、皇帝直々にお触れを出した。
更に、ロードリー3世は事前の調査から、接触が容易な場所を作らないようにした。
マンサ侯爵は帝国軍が駐屯地から一切出ないようにと言う命令を元老院経由で皇帝から出してもらった。
ただし、緊急の場合もあり得るので、その場合は帝都騎士団が対応すると事前に取り決めた。
そう言いつつ、実はロードリー公爵領の騎士団は誰が汚染されて、誰が大元の魔道士か、事前のカメラによる盗撮で分かっていた。
なので、罹った者は検査をするふりをして解除魔法をかけ、大元の魔道士に対しては・・・実は例の行方不明になった兵士・・・入口で拘束する事にしていた。
とは言え、2万人もの人員を検査するのである。
検査が1日で終わる事は無い。
どんなに頑張っても、一人の魔道士が1日で検査が出来るのは百人。
ロードリー公爵から来た魔道士達が休み無しで行っても、20日から1ヶ月ほど時間がかかる。
初日は先ず、帝国軍魔道士達の検査をした。
この集団はかなりの数が催眠魔法にかかっていた。
かかっていた者達は、見た目容量の悪そうな公爵領の魔道士ネヅ大尉・・・リサに阻害魔法をかけた騎士団トップの実力を持つ魔道士・・・に回して解除魔法と防御魔法をかけさせた。
二つの魔法を同時にかけるので、どうしても時間がかかる。
なので容量が悪い、ダメな魔道士と見られ、陰謀を巡らしている勢力への目眩しとなった。
しかも、ランダムにこの者は汚染された、この人は違うと言わせて、あたかも騎士団が見抜けなかったと見えるように工作をした。
しかも解除魔法をかけた者は直ぐに解除される訳では無く、徐々に催眠魔法から解除されるようにして、能力の低い術者から見ると、まだかかっていると認識できるようにした。
当然、騒乱を起こされると困るので、そのような行動を起こそうとすると、すぐに催眠魔法が切れ、防御魔法が発動する様にした。
ただ、罹った者全員をネヅ大尉に回すと怪しまれるので、何人かは他の魔道士に回し、同じような処置をした。
こうして、初日から数日間魔道士の検査をし、そしてそれが終わると士官クラスの検査になった。
来る日も来る日も検査、検査の作業である。
しかも、休みがない。
ネヅ大尉はボヤいた。
「早く帰ってゲームの続きをしたい・・・漫画を読みたい・・・。」
それはそれは切実そうな表情でぼやいていたとか・・・。
そんなこんなで、検査は順調に進んでいたが、大元の魔道士はなかなか現れなかった。
彼程の魔道士であれば、阻害魔法や催眠魔法で駐屯地にいつでも入る事が出来る筈だ。
それだけの実力がある。
なのにアジトから出てこない。
実は隠れている場所は、既にロードリー騎士団に把握されていた。
今回の検査でノコノコ出てきたら、拘束するつもりだった。
隠密達の使っている盗聴機器や通信機はバッテリー代わりに魔石を使うが、せいぜい虫程の魔力しか使わない。
なので、魔道士には全く気付かれない。
それに盗聴した音声や画像は電波で送信しているので、魔力感知には絶対に引っかから無い。
そもそも電波の利用そのものがこの世界には無く、余計に監視対象者に気づかれる事は無い。
なので尚更、勘づいた形跡も無いのに、何故容疑者の魔道士が引きこもっているのか謎だった。
あるいは、相当用心深いのかも知れ無い。
何にしろ、アジトから食料を調達に外出する以外、動きは無かったのだ。
そうこうしているうちに、検査の日程は順調に進み、漸く20日目に達しようとしていた。
既に9割り程の兵が検査を終えていた。
しかし、ここに来てやっと動きがあった。
ランポ伯爵だ。
伯爵の屋敷には盗聴カメラが仕掛けられ、絶えずその動きを見張っていた。
監視を続けていたところ、ランポ伯爵は手紙の用事を使用人に言いつけてた。
ところが、その言いつけはいつも使っている使用人とは別の者だった。
隠密達インテリジェンスチームは、それを見逃さなかった。
小さな変化は大きな変化となりうる。
その使用人は一旦屋敷から出たのが確認された。
隠密達は既に何処へ行くかの目星は予め予測していた。
そしてその場所にも盗聴カメラを仕掛けていた。
すると、まんまとその使用人は予測していた場所に現れた。
件の魔道士がいつも食料を買っている店だ。
使用人は客が見ていない隙に、黙って店員に手紙を渡した。
そして店から何事も無かったように出て行った。
暫くすると、魔道士が店に現れた。
店に陳列されたパンやその他の食料品を持つと、無言で店員に近づき金を渡す。
そして店員はお釣りを渡すふりをして、手紙を渡した。
全ての動きは、盗撮カメラに録画された。
これで今回の騒動は、ランポ伯爵による犯行である事が明確になった。
だが・・・これが地球だったら証拠動画でパクれるのに・・・騎士団の隠密部隊は歯がゆい、残念な気分でその様子を見ていた。
数時間後、魔道士は漸くアジトを出て駐屯地に向かって歩き出した。
やっと出て来た!
これで魔力を封じて拘束すれば、ランポ伯爵との関係を白日に晒す事が出来る!
隠密達から緊急の報告を受けたロードリー3世は、屋敷の執務室から地下のコントロールルームに移った。
作戦決行だ。
モニターには、容疑者の魔道士が堂々と駐屯地の正門に向かっている姿が映し出されている。
阻害魔法の一種、欺瞞魔法をかけているようだが、騎士団の盗撮カメラには効かない。
だが、現場にいる一般人や、魔道士でない者には関係者であるかのように認識されている。
いや、魔道士ですら彼の強力な魔力で騙されている。
ただし、ロードリー騎士団には事前に連絡が行っているので見抜けてはいる。
「もう少しだ。もう少し前に進んでくれ・・・」
ロードリー3世は固唾を呑んでモニターを見た。
魔道士は警備している騎士団の詰所に向かい、立っている騎士に挨拶をしようと近づいた。
魔道士がにこやかに笑いながら、詰所の目の前に来た。
その瞬間、魔道士がトラップを踏んだ!
魔法陣が発動する。
そして瞬く間に化けの皮が剥がれ、正体を現した。
「誰だ!」
一緒に警備をしていた、マンサ公爵領の騎士が叫んだ。
ロードリー公爵領の魔導騎士が杖・・・実は中に20式小銃を改良したレールガンが仕込まれている・・・を魔道士に向けた。
焦った魔道士は防御魔法をしつつ、逃走しようとしたが、先程の魔法陣が邪魔をして魔法を展開出来ない。
「待て!」
騎士達が捉えようとしたその瞬間だった。
一条の光が何処からか放たれ、辺りが一瞬真っ白になった!
遠方から魔道士に向けて光魔法が放たれたのだ。
光が当たった魔道士は瞬時に真っ黒な炭と化した。
そして、ボロボロと風に吹かれて崩れて行った。
「しまった!やられた!」
ロードリー3世は立ち上がって叫んだ。
ランポ伯爵は最初から、彼を切り捨てるつもりだったのだ。
何百人にも長期的に催眠魔法をかけられる実力ある魔道士を!
ロードリー3世はぐったりと椅子に座ると、ゆっくりと呟くように言った。
「リゴ。公爵殿下へ連絡を取ってくれ。作戦は失敗したと。」
ショックであった。
作戦は何度も検討されていた。
盗撮をして、ランポ伯爵の行動も監視し、あらゆる可能性も考え、それなりに対策をした。
しかし、ランポ伯爵自身の行動が予測出来ないものだった。
よもや、自分の大事な手駒、それも強力な魔力を保有している貴重な戦力を、ああも簡単に捨てる事が出来るとは誰も思い付かなかった。
かなり手強い愚か者を敵にしてしまった。
ロードリー3世は背筋が寒くなる思いをして、父への報告のため、無線機の前に座った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます